Sid.45 以前倒した相手だった
敵の攻撃を義手とダガーで弾き返しながら、ブロードソードで薙いでみるが、やはり動きの俊敏さがあり簡単には斬られてはくれない。
だが、こっちもまた以前とは異なり簡単には刺されない。防御力が高いんだよ、義手の。ダガーより大型がゆえ、弾くとエストックの軌道が大きく反れる。俺の腕力をダイレクトに伝えるからだな。
多少は優位に戦闘ができる状態だ。
ブロードソードを間髪入れず、縦横に振り捲ると敵が後ずさった。
「恐れるのか、それとも」
警戒してるようだ。ダガー二本で戦闘した時と違うからな。
再び踏み込んで刺突をしてくるが、それを義手で弾き剣で薙ぐと、敵の横っ腹から鮮血が噴き出した。避け切れなかったようだ。
少しこっちがリードした格好だな。
行ける。このまま押し切れば倒せるだろう。
今度はこっちが仕掛けると、攻撃を躱すべく動作を繰り返し、一瞬の隙に刺突が襲い来るが義手でガードする。
金属同士がぶつかり鈍い音が発せられ、敵の態勢が幾らか崩れた。
隙が生まれたことでブロードソードで突くと、腹に深々と剣が刺さり敵の動きが止まる。
そのまま横に薙げばと思った瞬間。
「くっそ」
こっちの腹にも一発食らった。
勝てると思った瞬間の油断だろう。隙が生まれてしまったようだ。
やはり一筋縄ではいかない相手だった。
一旦引くと敵も態勢を整えたのか、またも向かって来て刺突を繰り返してくる。
攻撃の多くを義手とダガーで弾き返すが、勢いが増してきていて、幾らか腕や足に刺突を受けてしまう。
難儀な相手だ。俺より剣の腕は良いのだろう。こっちは剣より魔法なんだよ。
それを封じられている状態では、苦戦は免れないってことか。
ただ、敵の戦い方は刺突一辺倒だ。薙ぐ行為は一度もない。
エストックは斬るものでは無いからだろう。細身の刀身は突きに特化しているわけで。
こっちは突きも薙ぐもある。武器の面では有利なんだがなあ。動きの速さが尋常ではないから、武器の有利さが殆ど無い。
執拗に刺突を繰り返され、その度に義手で受け流し隙を窺う。
頭目掛けて刺突が繰り出された。
寸前で躱し剣を突き立てると互いの体が合わさる。
もらった。
そのまま横に薙ぐと盛大に血飛沫を上げ、声も無く倒れる敵が居る。
「やったか?」
赤い目が俺を見ているが体は動かないようだ。
暫くすると目の光が消えた。死んだか。
これで終わったと思ったのだが、危険察知に強烈な反応がある。
まだ終わって無い。
後方から迫る何かを感じ取り前方に走り、距離を取って振り向くと、だからなんで居るんだよ。
魔法も物理攻撃も反射する極めて厄介な相手。
こいつのせいで左腕を失ってる。
蛸腕を広げ笑ってやがる。
前回同様、掛かって来いと言わんばかりの挑発行動をする。
迂闊に攻撃すると俺が同じだけのダメージを食らう。実にやり難い相手なんだよ。
ただ、前回と違うのは再生のための素材が、周囲には無いってことだ。斬っても焼いても素材が転がっていれば、きりが無く再生される。
今回は無いからな。
前回同様の手が通じれば、腕一本を失うだけで済む。だが、右腕は勘弁だな。義手で留めておければ御の字と言ったところか。
こいつが相手の時は考える時間はある。
攻撃しなければ奴は何もしてこないからだ。
俺が攻撃しないことで、腕を広げ波打たせながら挑発を繰り返してるな。
にやにやと不敵な笑みを浮かべ、蛸腕で手招きしてやがる。
何もしないわけには行かないし、仕方ない。ブロードソードを斜め後方に構え、突進していくと口角を上げ、来いと言わんばかりに腕を広げて待ち受ける。
ひとつ気付いたのは、魔石を取り出す早さだ。魔法にせよ何にせよ、魔石があって特殊な能力を発動させる。であれば、魔石を抜き取る速度次第では、反撃されずに済む可能性があると。
前回は思い付きだけで速度が落ちていた面があるからな。
勢いを一切殺さず腕を突き立て魔石を抜き取る。反射が発動しなければ俺は無傷で乗り切れるだろう。
だが、敵も無策ではなかったようだ。
「妙なところで知恵があるのだな」
一旦踏み止まり敵の胸元を見ると、ブレストプレートで覆ってやがった。
手刀じゃさすがにブレストプレートは貫けない。つまりあれを外すか壊す必要があるわけで。
実に厄介。
紙一重でプレートだけを破壊し、取り去ってから手刀で抉る。それしか手段がない。体ごと両断なんてしようものなら、俺もまた両断されて終わるからな。
やはり笑ってやがるな。
蛸腕をひらひらさせて完全におちょくってるし。奴には緊張感が無い。俺はと言えば、どう攻めるかを必死に考えてるってのに。
ブレストプレートの構造を考える。
通常は二枚の板を前後に張り合わせてる。脱着するために両肩両脇部分に留め具、または紐なんかがあるはずだよな。もしくは前面だけのもので、頭から被るタイプか。被るタイプは面倒だ。
見てると暇なのか地面にある小石を並べて、腕で弾いてきた。
しなる腕で弾くと小石が高速で飛んできて、こっちに当たると皮膚にめり込むくらい痛い。
それを何度もやって、いい加減鬱陶しくなってくる。
プレートを留めている部分を削ぐ。そうすれば外れるとは思う。ただ、敵の体に触れるとこっちにダメージが来る。ダメージを食らわないように外すには、プレートだけを壊すしかない。
「くっそ。地味に痛いんだよ」
腕が八本あるせいで、連続して撃ち続けることができる。打ち終えた腕は周囲の小石を拾いセットしての繰り返し。
遊ばれてる。なんか苛立つ。
剣を構え直し爪先に力を込め、ダッシュするが真っ直ぐは進まない。サイドステップで左右に体を動かし、どこから攻めて来るかを分かり難くしてみる。
そうすると動きに合わせて、体の向きを変えようとするが、変則的な動きをすると動作が少し遅れるようだ。隙が生まれる。
嫉視の剣士程には巧みな動作はできないのだな。腕が邪魔なのだろう。
徐々に近付いていき、蛸腕を避けて剣を脇に滑り込ませると、プレートに当たり金属音が響く。同時に引っ掛かりを得て、留め具の一部が破損したようだ。
この調子で剥いてやる。
思った通り、直に体を攻撃しなければ、反射も機能しないようだ。
対処法が見つかったことで、敵を翻弄しつつプレートを剥ぐ。
何度か繰り返すとプレートが落ちたようだ。
よし行ける、と思ったのも束の間。用心深さにも程がある。
「チェーンメイルまで着込んでるのかよ」
手刀を警戒してるのは理解できた。つまり攻略法は魔石を抉り取るだけのこと。ゆえに対策を講じているわけだ。
面倒臭すぎる。
そう言えば義手には鉤爪が付いてるのだったな。これでチェーンメイルを引っ掛けて、
ダガーを仕舞い込み鉤爪の状態にし、サイドステップで撹乱しつつ、距離を詰め地味に削り取りを繰り返すことに。
じゃりじゃり音を立て引っ掛けては少しずつ壊す。その際に少々蛸腕も傷を負う。そうなると俺も小傷を負うわけで。あちこち切り裂かれてくるが、構わずチェーンメイルを剥ぐと、やっと胸元が剥き出しになった。
ここまで来ると敵も分が悪いと悟ったようだ。
怒りの表情を見せ腕をバタバタさせてる。
子どもかよ。
最後の仕上げだ。
ただダッシュをするのではなく、自分の後方で爆風を発生させ、その押し出す力も加えて敵に向かい手刀を打ち込んだ。
即座に魔石を掴み抜き取ると、悔しそうな表情を見せながら後ろに倒れ込む。
やはり、ただでは済まないのだな。
義手でカバーすると義手がやはり吹き飛んだ。抜き取る瞬間に反射が発動するのだろう。だが生身の腕では無いから惜しくはないぞ。
そろそろ義手も不要になる頃だったからな。
動かなくなる貪婪の道化師だ。
しかし反応が。まだ終わらないのか。
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