Sid.30 空輸は時間節約になる

 何もかもが驚く程に進んでいた。

 原始的過ぎる世界に辟易していたが、ここに来て一気に文明が花開いた感じだな。


「石油を入手できれば」

「ポリカーボネートも生産できますね」


 とは言え、石油を探すのは現時点で無理だ。時間もそうだし当てもない。


「あと、レールガンの設計図はできていますので」

「この町で銅は入手できるか?」

「私が定期的に買い付けている業者が居ます」


 そこからなら容易に入手できるそうだ。銅はグルヴスタッド産なのは言うまでもない。ここから一番近い鉱山だからな。買い付けを任せ、費用は全額出すとしておいた。

 背負っていた鉱石を下ろし、ボーキサイトらしきものと、重石華を持って来たと言うと。


「あったのですね」

「同じ場所で採れるんだよ」

「あり得ないです」

「俺もそう思うが」


 ダンジョンが特殊過ぎる環境なのだろう。化け物は湧いてくるし、魔素の濃さもそうだし、あの巨大な穴も不思議なものだからな。

 さっそく作業を行うそうだ。その作業はアデラではなくドリスが担当するそうで。


「先にアルミだけ欲しい」

「ハンググライダーですか」

「そうだ」


 それ程の量は必要無いだろう、と言うことで、精錬する上で電気を寄越せとなった。今日はアルミナを作るだけになるから、明日以降に電気が必要になるだろうと。

 夜は愉しませてくれるのですよね、なんて言われてしまったが。

 ああ、そうだ。危機が迫ってることも言わないと。


「実はだな」


 町外れの村に居る存在の話をすると「守ってくださいね」だそうで。


「私に戦闘は一切できません。トールさんは戦闘特化です」


 類稀な力を持っている、ならば役立てて欲しいそうだ。

 だからと言って、一国を相手取り戦争をしろ、などと言った無謀なことは言わない。自分たちが住む町を守ってくれれば良いと。


「国相手でも、できそうですけどね」

「いや、さすがにひとりだと」

「核融合魔法があるのです」


 都市ひとつ軽く消滅させる威力だから、俺がその気になるか否かだと言う。

 直径四キロメートルと言えば、渋谷駅から新宿駅くらいの距離。その範囲内が消滅すると考えれば、この世界の城塞都市ひとつ軽く消し去れる。

 帝都なり王都なり消失させれば、抗う気力すら喪失するだろうと。


「最悪ですが手段として考えておいた方が良いです」


 いざと言う時に躊躇しないように、だそうだ。

 この世界の人は原始的過ぎるゆえに、平和的解決手段は無い。貴族が強欲過ぎる上に階級社会である以上、あらゆる横暴が罷り通ってしまう。

 横暴な存在相手に対話による解決は不可能。力を行使すべきだと。


「民主主義では無いのですから」


 選択肢として常に持つべきだと言う。

 最悪はそうだな。アデラに危機が迫り、どうにもならないとなれば。そうやって割り切らないと生き延びるのは難しいのだろう。


「またフルトグレンに戻る」

「今日は来ないのですか?」

「いや、鉱石を運んだら暫くはここで」


 俺が戻るまで作業をするそうだ。地金になるのは明日。以降、圧延加工し円筒にして溶接し、パイプができたら組み立てになる。

 数日で完成するだろうと。

 アデラは急ぎで電気炉を完成させるそうだ。


「じゃあ行ってくる」

「では、私は作業しますので」


 見送りはしないそうだ。

 どうせ戻ってくるのであれば。


 クリッカを伴いアデラのホテルをあとにするが、カーリンが「また来ます?」と聞いてくるから、あとで来ると言うと嬉しそうだ。

 あまり喜んでばかりも居られないのだがな。


 町を出る際に門衛に「どこに行く?」と聞かれ、その辺を散歩してくると言っておく。


「日が暮れたら門は閉めるぞ」

「それまでには戻る」


 少々強行軍ではあるが、フルトグレンに向かい、荷物を持ってトンボ帰りだな。

 クリッカがハーネスを掴み飛び上がると一気に加速する。今は荷物が無いことで、クリッカも楽に移動できるようだ。

 四十分程度飛んでいると、前方に何やら向かってくる存在がある。


「でかい鳥みたいだ」

「ぴぃ」


 羽を広げた状態で十五メートルくらいか。危険察知が反応している、と言うことは、敵対行動を取っているかもしれない。

 人生初の空戦になりそうだが、まあいつも通り。

 手をかざしブリクストを放つと、即座に直撃し落下していくようだ。放置しているとゾンビ化するんだっけか。

 轟音と衝撃に閃光ゆえ、クリッカが悶絶していて、ふらふらするも指示を出す。


「クリッカ、落下地点に降下してくれ」

「ぴぃぃ」


 森の中に落ちたようで、木々を薙ぎ倒して絶命しているようだな。

 丁度いい具合に木が邪魔にならない。降下して鳥の処理をすることに。

 傍で見ると巨大だ。ブリクストが直撃した部分は、見事に焦げていて少々燃えている。

 さて、こいつの魔石を取り出すのか。

 テレーサとかクリスタが居ればなあ。

 已む無く羽を毟り取り、ダガーを突き立て開いていくが、相手が巨大がゆえに意外としんどい。


「ギガントソードがあれば」


 一刀両断で取り出しやすくできるが、ダガーじゃ時間が掛かるな。

 それでも苦労して取り出し、血を羽で拭いクリッカに食わせておく。魔石を取り出すと巨大な体も霧散し、何も残らないのはこの世界の定番だ。

 魔石を食い終えたクリッカに指示し、再び上空へ舞い上がり飛行を続ける。


 大きな魔石を食ったからか、速度がさらに上がった。

 おそらくは時速五百キロは出ていそうな。鳥の化け物を食ったからか?

 お陰でフルトグレンに一時間もしない内に着いた。鳥を処理するのと飛行する時間、合わせても二時間弱だ。

 クリッカって、魔素次第でどこまで速くなるのか。底が知れない存在だな。


 ギルドに行くと「もう戻って来たの?」と、少し驚くエステルが居る。

 リスベツやマルティナも驚いてるが、クリッカの飛行速度が尋常じゃない。馬車で十日以上掛かる距離も、クリッカであれば大した距離じゃないな。

 エステルに倉庫で立ち会ってもらい、鉱石を布で包みロープで縛る。背中に背負って行ってくる、と言うと。


「休めばいいのに」

「時間が惜しい」

「ダンサンデトラーナ?」

「そうだ」


 本当に行って戻って来たのか、なんて言ってるが、まあいずれ体験させてあげよう。


「剣はどうするの?」

「置いていく」

「必要にならない?」

「魔法がある」


 魔法が効かない相手以外なら瞬殺できる。もし効かない相手だったら逃げるだけだ。現時点でのメイン武装はダガーしか無いし。スローイングナイフは牽制用だからな。

 ギルドの入り口で見送る三人だが、名残惜しそうだ。また来るのだから待っていればいい。次はお客さんも一緒だけどな。


 町を出るとクリッカに頑張ってもらう。魔石を食わせて燃料チャージが済むと、一気に飛び上がるがその際に、俺も補助で風魔法を使っておく。

 水平飛行になると、まださっきの鳥の効果があるのか、時速五百キロで飛行してる。効率がいいな。

 だが、一時間と少しで効果が切れたようで「ぴぃぴぃ」と鳴いてる。


「降りていいぞ」

「ぴぃ」


 通行人が居ないことを確認し、街道に降下するとクリッカを抱え、今度は俺が走ることに。

 走る俺の腕の中で寝てる。一時間後にはまた飛んでもらうわけだし、今はしっかり休んでもらおう。

 それにしてもさすがに重さを感じる。残りの鉱石の多くを詰め込んだからな。それに加えてクリッカを抱えて走るせいで、速度も充分には上がらないようだ。人間の限界を超えてはいるが、超人であっても無理があるのだな。


 一時間程で限界が来てクリッカを下ろすと、掴んで飛んでくれるようだ。

 まあ残り僅かな距離だし、時間にして十一分程度だ。飛んで少しするとダンサンデトラーナが見えてきて、降下しあとは徒歩で向かう。

 往復千四百四十キロ。時間は四時間半程度。この世界であれば最速かもしれない。


 門衛から「何だその荷物は」と聞かれ、石を詰めて持ってきた、と言っておいた。

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