Sid.31 貴族と相談するそうだ

 怪訝そうな表情を見せる門衛だったが、石と言っても一応多少は価値のあるものだ、と付け加えておいた。

 まさかフルトグレンまで行って帰って来た、なんて言えないからな。

 いろいろ追究されるのが目に見えてる。


 町に入りアデラのホテルに向かい、中へ入るとカーリンが出迎えてくれる。


「お帰りなさい。なんか凄く早いです」

「クリッカの性能が凄いんだよ」


 俺に寄り添うクリッカを見てるが、多少慣れはしても化け物ゆえか、まだ緊張するのか警戒気味ではあるな。嫉妬で魔法を無意識に使うようだし、人間社会に慣れさせないと騒ぎになるのは確かだな。常識を教えられればいいのだが。

 アデラを呼んでもらい、残りの鉱石を渡しておく。


「電気炉ですが現在突貫作業で」

「無理しなくていい」

「急いでいるように見えます」


 まあ戦争になりかねない状況に至ってるし。クラーケンは退治しておきたいし。

 ガビィとセラフィマを連れて行く必要はあるし。

 ああ、忘れてた。


「アデラの知り合いの貴族だけど」


 今も懇意にしてるのか聞くと、そうだと言う。


「協力を仰ぎたいんだが」

「ああ、そう言うことなのですね」


 ギルド程度の力ではどうにもならない。

 貴族院で議題に取り上げてもらい、処遇を定める必要があると。まあ普通に話をすれば神聖何某帝国に引き渡すか、この国で処刑するかしか選択肢は無いだろう。

 だがそれ以外で何とかしたいわけで。


「そのための伝手なのですね」

「そういうこと」

「話しはしてみますが、期待はしないでください」


 まあ所詮貴族だ。自分に利が無ければ動くはずもない。

 つまりは土産が必要ってことだが。


「彼女を戦力として迎え入れる、そんな手段もあると思う」


 敵は化け物を従える国家だ。俺とセラフィマの二枚看板であれば、他国の軍隊を退けられる、その可能性は高い。まあ、俺は表立って行動する気はないけどな。

 更にはガリカ帝国だっけか。現在メリカント王国に攻め込むべく、準備しているだろうし小競り合いはあると言っていた。極めて強力な戦力は欲しいだろう。

 セラフィマが言う通りの力を持っていれば、対抗する上で充分だと思う。


「ただし、国お抱えの兵士ではなく、冒険者としておきたい」

「難しいですね」

「でも、お抱え兵士にすれば、彼女の希望からは掛け離れると思う」

「相談はしてみましょう」


 因みに発見したのはアデラ。その手柄は懇意にしてる貴族のもの、とすれば受け入れそうだけどな。貴族院での会議でどうなるかは不明だ。

 手元で飼い慣らしたいと言い出すのは分かる。それを何とかして欲しいから、レードルンドやベルマン、そしてアデラが懇意にしてる貴族に頼むわけだ。

 セラフィマには平穏に暮らして欲しい、なんて思ってしまったからな。


 明日にでも貴族と会って話をしてみるそうだ。


「代わりに少し作業に遅れが生じますが」

「構わない。最近飛び回っていて、まともに休んで無いからな」


 クラーケンの依頼を受けて以降、予定を何度も変更し文字通り、飛び回ってるからな。クリッカも少し休ませてやりたいし。

 今日だけで二千百六十キロも移動してる。直線距離にして新千歳空港から那覇空港までの距離くらいだ。日本縦断したようなものだからな。

 馬車なら一か月以上掛かる。

 クリッカを見ると、にこにこしてる。もうどうせだから可愛がってやろう。開き直ればクリッカの具合の良さは人間以上だ。


 アデラと話をしていると腹が鳴る。


「食事はどうされます?」

「ああ、昼以降何も食ってないんだ」

「では、軽い食事でも」

「頼めるかな」


 ロビーで待っていてくれれば、簡単なものを用意してくれるようだ。

 ロビーにあるソファに腰掛け、隣にクリッカが腰掛ける。体を俺に預けてきて、まあ可愛らしいものだ。顔と体はな、人と相違ないし。腕と脚が人に非ずで。あと尾羽があるから鳥なんだなと。


 カウンターからカーリンが見てるのだが、暇そうだなあ。口をパクパクさせてるが、読み取ると「抱いて」とか言ってるし。肉欲全開だ。

 あまり客は来ないのだろう。高級宿だからな。繁盛させたいのであれば、安宿にした方がいい。ビジネスホテル程度の。

 商人と貴族くらいだろ。金持ちなんて。


 まあ、アデラはそこまで繁盛させる気は無さそうだが。

 暫くするとワゴンで食事が運ばれてきて「こちらでお召し上がりになりますか」と聞かれ、頷くとメインとサラダ、スープの三点が提供された。

 軽食と思ったが、立派過ぎるディナーだろ。まあいい、腹も減ってることだし、しっかり頂くことに。


「ぴぃ」

「なんだ? 食ってみるか?」

「ぴぃ」


 口を開け流し込まれるのを待つひな鳥状態。

 食事をスプーンで運んでやると、噛まずに飲むんだよ。まさに鳥だ。


「ぴぃ」

「もっと寄越せってか?」

「ぴぃ」


 どうやら気に入ったようだ。俺とクリッカで交互に食事をすると、あっという間になくなるな。立派なディナーが軽食になってしまった。

 食事が済む頃にアデラが来て「入浴を済ませますか?」と。


「用意ができていますので、いつでも入浴可能です」

「じゃあ、汗を流すか」

「クリッカさんもご一緒ですね」

「いいのか?」


 構わないそうだ。

 ドリスと自分も一緒に入るそうで。カーリンは、と言えば「一緒がいいです」なんて言って、結局、ホテルの営業を終了し一緒に入ることに。

 ここの風呂はいい。湯舟があって、のんびり浸かれるからな。

 ガビィが譲り受けた家も同じようなものだったが。


 風呂場にアデラとカーリン、クリッカと向かうと、すでにドリスが居て全裸で出迎えてる。

 姉が豊かな胸を持つ美人だからか、妹たちも豊かなんだよな。

 風呂に入ると、まずはクリッカの全身を洗い流し、羽に付着した汚れを落とし、足やら尾羽も綺麗にしておく。胸が人間。股間も人間。触ると柔くて堪らん感触だ。


 そして俺は三人に洗われる。ぽよんぽよんを押し付けてくるし。

 愉しまれてるよなあ。しっかり反応するとクリッカまで、咥えようとしてくるし。食うなよ。


 そして湯舟で寛ぐのだが、クリッカが羽をばたつかせて湯が跳ね捲る。


「鳥ですよね」

「鳥の水浴びみたいです」

「本能に刷り込まれてるのかもな」


 風呂から上がると部屋に案内され、三人プラス一羽と言えばいいのか。

 しっかり貪られてしまった。

 それぞれが部屋をあとにすると、クリッカと二人きりだ。


「なあ、俺は疲れてるんだが」

「ぴぃ」

「もう反応しないぞ」

「ぴぃぴぃ」


 まだ繋がろうとしてるし。こいつも旺盛過ぎるな。

 交尾ってのは本能で行えるものなのか。でもなあ、ハーピーは交尾で増えるわけじゃない。クリッカは違うのか?

 もし何かが生まれるとしたら、人なのか、それともハーピーなのか。

 クリスタなら「実験です。妊娠するか試しましょう」なんて言うのだろう。


 まあ繋がってしまったし、結果はいずれ出るかもしれないな。


 さすがに疲労が蓄積されていたのか、クリッカも俺も眠気に抗えず、しっかり寝ていたようだ。俺も人間だったのだろう。疲れるのだからな。

 ドアがノックされて起きたくらいだからな。


「よく休めましたか?」

「よく眠れたようだ」

「では、貴族に会いに行ってきますので」

「頼む」


 アデラには何か結婚以外でも礼をしないとな。

 いろいろ頼んでしまっているし。頼りっ放しだからなあ。


「朝食を用意してますので」


 部屋で食事を済ませてください、だそうだ。朝は他の宿泊客も居て、クリッカの存在が知れると不味いからだな。

 大騒ぎになるし。静かな環境ってことでバレやすい。大衆食堂であれば、騒がしいからバレにくいってのはあるか。


 食事を済ませるが、あとの予定としては、そうだな、村に行って来よう。

 カーリンに町外れの村に行くと言うと。


「姉さんから聞きましたけど」

「面倒事を持ち込むことになるが」

「覚悟はしておきます」


 これでも元ギルド職員だから腹は括れると。

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