Sid.27 事はそう単純ではない

 亡命者から聞いた話、とした上で化け物を戦力にしている、と伝えるとリッカルドの表情が曇る。

 現在、化け物を戦力としたい国家は、この国、ファーンクヴィスト王国だ。

 首都から北西に位置する隣国、メリカント王国が戦争に至りそうだ、ってことでだな。

 

「ボーグプラヴィット帝国か」

「確かそんな名称だったな」

「モンスターを戦力にってのは事実なのか?」

「確証はない。見たわけでもないし」


 実は俺が勝手に推測しただけ。セラフィマが俺とクリッカを見て、後ずさりしたり警戒したからだ。それとテイマーかと聞かれた。クリッカを化け物と認識しているからこそ、そんな言葉が出たと理解してる。


「亡命者は俺を見た際にウクラチーチェと言っていた」

「ウクラチーチェ?」

「まあ調教師、みたいなものか」

「なるほど」


 プラヴィット語が分かるのか、と聞かれたが、その場で理解できただけで。

 いや、なんで分かったのか。この体の出身地がボーグプラヴィットってことかもしれん。どこから来たのか、今も分かってないからな。

 そもそもどこで冒険者になったのか、この国にはいつから居るのか、何も分かってない。これまで訪れた町では俺を知らなかった。俺ではなく、元の体の記憶にもない。

 まだ町は多数あるだろうから、どこかで冒険者として登録し、実績を積み上げたのだろうとは思うが。


「モンスターを従えているとなれば、もしボーグプラヴィットが攻めてきたら」

「隣接するダンサンデトラーナがヤバい?」

「そうだな。その際にはトール、あんたに尽力してもらうしか」


 戦争はご免被るが、掛かる火の粉は振り払わないと、アデラに危機が迫るってことか。アデラは魔法が使えないと言っていた。いや、俺の記憶を読み取るから、少しは使えるのだろうけど。戦力にはならんだろう。

 しかもダンサンデトラーナは安全がゆえに、冒険者も極限まで減らしてしまった。攻めて来られたらあっと言う間に陥落する。即応できる存在が居ないから。

 全く。いつの世も為政者ってのは、無知で強欲で手に負えない存在だな。

 庶民のことなど一切考えない。


「貴族には報告しておく」

「俺からの話としてか?」

「いや、そこは誤魔化す」


 そうしないと敵地へ俺ひとりで突っ込め、と言った命令が出かねないそうだ。

 スーペラティブなんてランクの冒険者。英傑の称号もあると知れるだろう。暴虐の魔女を倒せた程であれば、敵兵の千や二千は軽く蹴散らせるはずと。


「そんなことは避けたいからな」


 その陰で泣く女性の数が多過ぎるそうだ。死地に追いやる気はないとも。


「代わりに使えるようにと、学院の連中は尻を叩かれるぞ」

「ああ、それはあるのか」

「同時に魔石を取りに行く回数も増える」


 面倒な。

 だが、俺がやるしかないんだよな。他の誰も入れないし戦闘にすらならないだろう。うちのメンバーで何とかなる程度で。それを考えると、彼女らはすでにアヴァンシエラでもおかしくないのか。まあアヴァンシエラでも三等くらいだけどな。

 ベルマンに帰ったら推薦してみよう。


「あとな、亡命者の件だが」

「冒険者登録できるか?」

「本来であれば不可能だが」


 他ならぬ俺の頼みと言うことで登録するそうだ。


「ランクは?」

「俺と同等か、それ以上の威力の魔法を使う」

「は?」

「五千人を瞬時に葬ってる、らしい」


 意味が分からんって顔をしてるな。雷魔法で五千人を屠ってる。俺でも無理な数字だと思うぞ。ブリクスネスラグだとしたら、これまでの経験上、数百体の化け物を葬る程度だ。

 これは言わない方が良かったかもしれんが、そもそもの亡命する理由だし。


「虐殺聖女と呼ばれてる」

「虐殺? まさか無辜の市民を?」

「いや、処刑される際に自然に発動したとか」

「とんでもない存在だぞ」


 本来であればギルド長程度の権限で、どうにかできる存在ではないそうだ。

 この国が受け入れれば戦争の口実になる。亡命者を匿えば明らかな敵対行動。そう捉えるだろうと。


「本当にそんな力を使えるのか?」

「見てないから分からん」

「少しあれだ、話しを聞いて真偽を確かめたい」

「まあそうだろうな」


 連れて来れるのかと聞かれ、近く連れてくる予定だったと言うと。


「ダンサンデトラーナからだと十日以上掛かるだろ」

「いや、一日で」

「は?」

「空を飛んで来れば」


 スーペラティブってのは空も飛べるのか、なんて呆れ果てているが。


「クリッカが運べば、の話だ」

「運べるのか?」

「俺を掴んで飛んできたからな」


 開いた口が塞がらない状態だな。

 俺はハンググライダーで飛行し、セラフィマはクリッカに運んでもらう。そうすれば一日あればフルトグレンに来れる。


「モンスターも規格外だな」


 俺が育てたからだろうけど、確かにハーピーに人を運ぶ力は無いだろう。

 ああ、そうだ。すでにダンサンデトラーナ外れの村に居る。村人として暮らしてるから、この国で匿ったと思われてるかもしれない、と言うと、頭を抱えるリッカルドだな。


「これはもう貴族の判断を仰ぐしかないぞ」

「処刑しろと言われないか?」

「揉めないためにも引き渡すか、こっちで処刑するか、だ」


 使者を出して虐殺聖女を拘束しているとして、引き渡しの協議を行う必要があるだろうと。

 ただし、俺を上回る魔法を使う相手を、拘束できるのかと言う問題はある。

 国を捨てている以上、一族郎党処刑する、なんて脅しも通用しない。他国に住む存在だからな。この国から手を出せるはずもない。そもそも逃亡した時点で諦めているだろう。


「レードルンド伯爵とベルマン伯爵をまずは引き込まないとな」

「ああ、ガビィか」

「利用する形にはなるがな」


 巻き込む形になってしまうが、レードルンドは娘を愛してるだろう。俺が暴虐の魔女を倒したことも知っている。言えば考える可能性はある。

 ああ、そうだ。


「ダンサンデトラーナにアデラと言う女性が居る」

「それが?」

「貴族と懇意にしてるそうだ」

「つまり伝手として使えると」


 まずは貴族を取り込まないと話にならない。

 後ろ盾を得た上でセラフィマの処遇をどうするか。


 実に面倒だ。


「とりあえず連れてきてくれ」

「分かったが、その前に素材を集めたい」

「鉱石か?」

「まあ、いろいろだ」


 三日四日掛かるから、その後になるが、それで了承してくれと。


「ボーグプラヴィットの連中は、村に居ると知ってるのか?」

「話しによると」


 この国に入った途端、追っ手が居なくなったようだ。

 また頭抱えてるし。


「居場所が割れてる」

「つまり」

「機を見て戦争を仕掛けるかもしれん」


 村人が勝手にやったとしても、その村で生活しているとなれば、匿ったと受け取る。匿っていたなんて村人は思わないだろう。しかし、戦争の口実なんてものは、些細なことからで充分だ。


「間に中立国を挟んでいるが?」

「交渉してるだろうよ。領地内を行軍させろと」


 一刻を争う事態かもしれない、と言うことで早急に話を聞きたいそうだ。

 それとガビィも連れて来て欲しいと。レードルンドに話を通す上で必要。


「ダンサンデトラーナの貴族はトールに任せる」


 俺じゃなくてアデラだな。

 なんか、いいように使ってる上に巻き込むことになってしまった。

 結婚する程度じゃ釣り合いが取れないだろ。何をすれば見合う形になるのか。しっかり考えないと駄目だな。

 それとだ。


「エストラでクラーケンの処理も頼まれてる」

「クラーケンだと?」

「今は準備中で、そのための素材集めなんだが」


 そっちは中止できないのかと言ってるが、エストラも被害が深刻だからなあ。

 レールガンが完成すれば、すぐに解決すると思うが。町に被害を生じてもとなれば、ソルフランマ一発で事は済む。たぶんな。

 まあ、それでも。


「多少の猶予はある」

「じゃあ」


 三か月以内に着手すれば成果の有無は問われない。

 まあどっちにしろ、道具が揃わないと実行できないが。

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