Sid.26 冒険者ギルドへの頼み事

 乱痴気騒ぎと獣姦による一夜が明け、魔法学院の連中に魔石や卵を引き渡すのだが。部屋の片隅で頭を抱える事態になった。


「分からなくなったぞ」


 背嚢を開けると狩った化け物の魔石と、生み出された魔石が混在している。

 ミノタウルスと蟹、ムカデやウデムシの魔石が各々ひとつ、クリッカに食わせる予定だったのだが。

 唯一はハーピーだけは卵だから、容易に見分けが付くけどな。


「混ざってるし」

「どうしたの?」

「どれがどれだったか」


 俺が背嚢を前に悩んでいるとマルティナが声を掛けてくる。

 マルティナが隣から覗き込んで「混ざってるって、何が?」と。


「ミノタウルスとか蟹とか、ウデムシとかムカデがな」

「えっと、何?」

「魔石が混ざってるんだよ」

「それ、何が問題なの?」


 全部渡すんじゃないのか、と言ってるけど。拾ってきた奴と倒した奴は違うだろ。

 今後化け物に成長する魔石を学院の連中は所望してる。倒した奴の魔石は資源ではあるが、それが化け物に再び育つわけでもないのだろうし。

 いや、分からんが。


「サイズで分けておこう」

「一番大きいのってミノタウルスのだよね」

「そうだな」

「大した数じゃないし分別しておこうか」


 マルティナがサイズ別に揃えてくれるようだ。

 リスベツとエステルも起きたのか「何してるの?」と聞いてくる。


「大きさで分けてる」

「手伝う?」

「数無いから大丈夫」


 クリッカも目覚めたのか、早々に俺の側に来てスリスリしてるが、魔石を見て涎垂らしそうだな。残念だが、ここにある魔石を食わせるわけにいかなくなった。

 全部の魔石を振り分けたら、混ざらないように各々袋に入れておく。

 こんないい加減な仕事でいいのかと思うが、まあ、どうせあの連中じゃ失敗の連続だろう。

 アデラの論文があれば多少成功の目もあるだろうが。今は無いからな。

 もう出来上がっていそうだが今は行けないし。


 ミリヤムが居たら、こんな体たらくな事態にはならなかった。

 専門職のありがたみってのを実感するぞ。


 全員全裸で作業していたが、服を着て身支度を整えるとギルドに向かう。

 向かう際にエステルに聞かれる。


「今日はどこに潜るの?」

「アロガンス」

「鉱石の採取ですか?」

「そうだ」


 ギルドに売らないのかとリスベツに聞かれるが、それは俺が使うためのものだ。

 いや、正確にはアデラに頼んで製錬及び精錬、部材として加工してもらう。ついでに組み立てまで任せることになりそうだが。俺がやったら確実に失敗する。

 不器用だし半端な知識があるだけだし。


 ギルドに着くとリッカルドが出てきて「もうすぐ来る頃だ」と言って、少し待つよう言われた。

 制服に着替える受付嬢たちは一旦、別の部屋に行ったようで、リッカルドとクリッカと俺の三人だけに。まだ営業時間前だからな、ギルド内は静かなものだ。


「全員肌の色艶が増してるぞ」

「そうか?」

「ハルピヤも艶々じゃないか」

「いや、気のせいだろ」


 がっはっは、なんて豪快に笑って「スーペラティブなんだから、来るもの拒まずだ」なんて言ってるし。

 顔を近付けてきて「で? ハルピヤの具合はどうだった?」なんて、下世話なことを聞いてくる。この爺さん、色ボケしてないか?

 歳食って尚も旺盛なんだろうあ。


「してない」

「あのなあ、別にいいじゃないか」

「良くないだろ」

「毛色の違う奴も居れば飽きずに済むだろ」


 この爺さんも変態だな。ああ俺もか。

 獣姦してるんだよ。なんか人間やめた気分だ。


「飽きたら俺に貸してくれ」

「は?」

「やっぱ試してみたいだろ」


 クソ変態爺で確定だな。

 まあでも、こんな人が居ると落ち込まずに済むのは確かだ。世の中広い。趣味嗜好も様々だってことで。

 バカ話をしていると受付嬢が揃って、カウンターで業務開始前の準備をする。

 だが、まあ女子だな。おしゃべりしながらだからな。


「トールってひとりでもダンジョン攻略しそうだよね」

「だよねえ。向かうところ敵なしって感じだし」

「でも、トール様でも腕を失ってる」

「相手が悪いんでしょ。そんなの普通居ないし」


 腕。

 なんか指みたいのが生えてきてる。そろそろ腕として再生しそうだが、もう少し時間が掛かるのか。

 不便さはあれど慣れもあって、当初ほどに不自由してないからな。

 ただ、この状態で例のアレと向き合うのは勘弁だ。万全の状態ですらヤバい相手だから。


 少しすると扉が開いて、ぞろぞろ入ってくる連中が居る。

 先頭の奴が俺を見て口を開いた。


「お久しぶりですな」


 学院の連中だ。見覚えのある顔と話し方。

 さっそく受け渡しを、と言ってるから、背嚢から取り出し渡すのだが。


「上手く行かないのか?」

「そこはあれですな、試行錯誤は必要なので」

「簡単だがアドバイスを」

「ほう? あの魔法使いからの言伝ですかな」


 そう言うことにしておこう。クリスタは信用されたようだし、俺より説得力のある話し方をする。


「ハルピヤは魔石から生み出すより孵しやすい」


 ただし、きちんと詳細にイメージしないと、形が崩れてしまう。曖昧なイメージでは生まれないと言っておく。それと魔素は絶え間なく注ぎ込めとも。

 それができないと何度繰り返しても失敗することになる。

 ひとつでも成功すればコツが分かるはずだから、失敗を恐れずチャレンジすべしとも言っておいた。


 まあ、ハーピーが生まれたとしても、クリッカのような能力を持つことは無いだろう。

 生み出す人のレベルも関連すると、追加で言っておいた。クリッカのことは隠してだけどな。言ったら連れ去られるのが目に見えてるし。俺も連行される。


「それで、ミノタウルスなんて制御できるのか?」

「制御しなければ戦力になりませぬな」

「暴れたら?」

「檻の中で成長させる予定ですぞ」


 そうか。檻と言っても人間基準なら簡単に破壊されそうだけどな。


「ひとりで受け持つのか?」


 何か気付いたようだ。


「そういうことか」


 複数が同時に魔素を注ぎ込めば、成功率が上がると気付いたようだな。

 ひとりでできることなど知れている。俺だから何とかなってるだけで。まあクリスタは俺に次いで魔素の扱いに長けてきたし。相当優秀な子だと思う。


「いや、今回のアドバイスは有益でしたぞ。魔法使いに礼を言っておいて欲しい」

「伝えておく」


 魔石と卵を受け取り引き上げる面々だ。

 ギルドを出ようとする連中だが、学者が振り向き「魔法使いの子ですがな、学院で迎える準備ができてる、そう伝えてくだされ」と言って出て行った。

 行くわけ無いのだが準備はしてたのか。クリスタの興味は俺一択だからな。

 学院なんて二度と行かないだろうよ。


「とりあえず依頼は達成だな」

「もう受けたくないけどな」

「もののついで、ってのもあるだろ」


 どうせ今後も持ってこいと言われる、だそうだ。失敗しても成功しても、いずれにせよ魔石は必要だから俺が取りに行くしかない。他に任せられる人材は居ないからと。


「スケジュールは空けておいてくれ」

「報酬次第だな」

「そこはあれだ、こっちで交渉しておく」

「頼むよ」


 あ、そうだ。先に言っておいた方がいいかもしれん。


「実はだな」

「なんだ?」

「その、少し事情があって」


 察したのか責任者室で話をすることに。

 中に入ると早速聞いてくる。


「他人の耳に入れたくない話だろ」

「そうだ」


 ダンサンデトラーナの外れの村に他国からの亡命者が居る、と言うと。


「匿えってか?」

「いや、冒険者に仕立てて欲しい」

「は?」


 ひとつの町にしか居られない庶民では、所在を突き止められると逃げられない。

 移動に制限があると困るわけで。


「それと」


 俺の表情を読み取ったのか、真剣な面持ちになるリッカルドだ。


「神聖、何たら帝国って分かるか?」

「神聖? ああ、もしかして」

「知ってるならあれだ、その国はモンスターを戦力にしてる」


 さしものリッカルドも驚きを隠せないようで目を見開き「それは事実なのか?」と。

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