Sid.24 受付嬢から求婚された
女性冒険者に声を掛けられていると、リスベツとマルティナが戻ってきたようだ。
群がる女性たちを見て呆れ気味ではあるな。
「トール。モテすぎ」
「勝手に群がってくるだけだ」
「仕方ないとは思いますけど」
俺に群がる女性を横目にカウンターに入り、業務を引き継ぐとエステルが出てくる。
俺の側に来ようとするも冒険者が邪魔なようだ。取り囲んでるからな。しかも揃いも揃って「抱いて欲しい」とか言ってるし。相手にしてたらきりがない。男どもの嫉妬も激しくなりそうだから、まずはアヴァンシエラを目指せ、そうしたら相手してやると言ってみるが。
「無理だってば」
「あなたが指導してくれれば」
「ベッドの上で教えてくれると嬉しいな」
「師匠になってよ」
指導か。
冒険者を十年程度で引退してベルマンのギルドで、新入り冒険者の指導をしてくれ、なんて言われていたっけか。
ならば。
「十年後にベルマンに来ればいい。指導してやるぞ」
「遅いってば」
「三十過ぎてても相手してくれるの?」
「ああ、でも、互いに老けちゃう」
面倒臭い。
モテること自体はありがたいが、こうなると面倒なのだな。モテる男にはモテる男なりの苦労があるのか。
元の世界に居たら知り得なかった。いい経験になる。
「はいはい、みんな。さっさとダンジョンに行って」
しびれを切らしたのだろう、割って入って来たエステルだ。
だが女性冒険者も黙っちゃいないようで。
「受付嬢なんて戦えないでしょ」
「力なんて無いから守ってもらうだけ」
「対等な立場からは程遠いよね」
「鍛えてないから体ぶよぶよでしょ」
ひでえ言い分だ。しかしだ、その柔さは堪らんぞ。ソーニャのように鍛えられた肉体もまた素晴らしいが。しかも乙女だし。
イラっとしてそうなエステルだ。
「適材適所。あんたら受付なんてできないでしょ。脳筋すぎて」
余計なことを。
結果、揉める羽目になり奥からリッカルドが出てきて「てめえらいい加減にしろ!」となった。ギルド長の登場で双方渋々引き下がるようだ。
ぶつぶつ文句を言いつつ、各々パーティーに合流しダンジョンに向かう。
少しすまなさそうなエステルだが、俺からは何も言えん。どう言えばいいのか分からんし。
「トール。行こう」
「あ、ああ」
ギルドを出ようとしたらリッカルドが声を掛けてくる。
「明日取りに来るからな」
「問題ない。今日中に揃えておく」
「頼むぞ」
それにしてもと。
「どうせだ、片っ端から抱いてやりゃいい」
「無理だっての」
「若い上に最強なんだから百人や二百人娶ればいい」
そう言って笑ってやがる。他人事だよなあ。百人とか冗談にしても程があるっての。とは言えすでに九人は居るのか。難儀だ。
エステルが腕を取り「行こうよ」と言ってギルドをあとにする。
クリッカも側に張り付く感じで、両手に花状態なのだろうが、クリッカはハーピーだからな。人じゃない。愛らしいのだが。
ギルドから少し離れた場所にある飲食店だろう。
三人で中に入りエステルが給仕に「今日のおすすめ二つ」とか言ってクリッカに視線を向け。
「食べるの?」
と聞いてくる。
「たぶん不要だとは思うが、少しは食うこともある」
「じゃあ頼んだ方が」
「俺の分を分けてやるからいい」
「じゃあ、トールのは大盛だね」
で、オーダーし直して暫し会話を楽しむことに。
「トール、結婚相手ってひとりだけ?」
分かりやすいなあ。
「ダンサンデトラーナで三人」
「え、そうなんだ」
「ベルマンに帰ったら四人。エストラでひとり」
驚いた感じだが「じゃあ、あれだね」と。確実に求婚を迫られるだろ。
暫し視線を泳がせるエステルだが、向き直ると「あたしも」とか言い出す。やはりそうなるんだよな。
冒険者の何がいいのか知らんが、生存本能を満たす存在となれば、強い男がいいのは理解する。町は比較的安全とは言え、時に化け物が町に押し寄せることもある。
守り切れそうな男に魅力を感じても不思議ではないよな。
「エステルひとりで済むのか?」
「マルティナもリスベツも言うと思う」
重婚可能な世界とは言え、限度ってのがあると思うのだが。
「俺は滅多に来れないぞ」
「それでも」
婚姻の事実と俺との子どもが欲しいそうだ。絶対強い子が生まれると確信してるとかで。強さが遺伝するかと言えば、なんとも言えん。
そもそもこの体はイレギュラー過ぎる。次世代に引き継げるものかも分からんし。
食事が提供され食うのだが、俺を見て「結婚して欲しいなあ」とねだるエステルだ。
「まあ考えておく」
「あんまり待てないんだけど」
「三カ所で婚姻の儀を上げる」
順に行うから待ってもらうしかない、と言っておいた。
方々の町に嫁が複数ってことになるのか。行ったり来たりで引退後も忙しくなるよなあ。あ、でも引退したら往来の自由が。
それはどうなるのか、と聞くと。
「元冒険者でもトールなら問題ない」
「なんで?」
「例外があってアヴァンシエラ以上ならね」
引退後も様々な場所で後進を育てる名目で、移動の自由は担保されると言う。
そうなのか。だから結婚しろと言ってくるのだな。
「衰えたら途中で死ぬかもしれんぞ」
「現役の冒険者と一緒に行動すれば、トールなら死なないでしょ」
「いや、幾ら俺でも杖ついてたら」
「そこまでヨボヨボになってたら無理させないってば」
五十代くらいまでなら何とかなるでしょ、だそうだ。実際に戦闘を見ていないから、なんとも言えないけどと前置きしつつ。
「魔法が凄いって聞いてる」
魔法は年齢に左右されないから、年食っても魔法で化け物なんて、軽く排除できるだろうと。
今は若いから剣士と魔法使いを熟せるのは確か。でも歳を食っても魔法使いとして活動できるはずだそうで。
「だからね、心配してない」
そうか。信頼され過ぎても困るが、その時になってみないと分からないこともあるし。
あまり考え過ぎても意味は無いか。
いや、だからと言って方々に嫁だらけってのもなあ。
「あ、休憩終わりだ」
「戻るか」
「このあともダンジョンに行くの?」
「依頼があるからな」
大変だね、だそうだ。
でも楽に熟してるように見えるから、ダンジョン程度で心配はしないと。
多数の無帰還者が居るってのに。危険な場所だから制限されてるはずだがなあ。まあ、俺の場合は顔パス状態ではあるが。
店をあとにしギルドに戻ると「次はどこに?」と聞かれレッティアと言うと。
「登山装備は?」
「俺とクリッカなら問題ない」
「要らないの?」
「持ってたら邪魔だし」
他のメンバーには必須な装備も、そもそもクリッカには不要だし、俺も身軽な方が動きやすいからな。尋常じゃない身体能力とクリッカが居るから、却って装備が邪魔になる。
とは言わない。
「邪魔って」
「身軽な方が生還率が上がるのが俺だ」
「そう言うなら」
心配する受付嬢たちだが、安全確保に努めるから大丈夫、としておいた。
ギルドを出てラビリント・レッティアに向かうと、これもまた久しぶりの守衛が居る。俺を見て「何だ、また用事か?」と小屋から出てきて言ってる。
ちゃんと覚えているんだな。
「女どもはどうした?」
「別行動だ」
「登山道具は?」
「要らんな」
要らんってことは無いだろ、と言うが不要だと思う。滑落した場合でもクリッカが居るし。親どころか
「万が一の際に救助はできないからな」
「問題無い」
あ、そう言えば。
「ここはまだ一般開放されて無いのか?」
「一般? ああ、なんか言ってたが、まだ調査が必要だとさ」
蟹のせいか? 硬いから魔法以外だと無理だろうし。魔法もクリスタと同等じゃないと、厳しいだろうからなあ。
あとはあれか、化け物の生産場所にある魔石。まだ採取が必要だから閉鎖してるとか。まさか守衛に話すわけもないな。化け物を作るなんて話は、末端には知らされないだろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます