Sid.23 鉱石と魔石の採取をする

 少しすると耳のおかしいのが治ったのか、頭を斜め上下に動かし周囲の音を聴き取っているようだ。


「問題無いか?」

「ぴ」

「まだ聴き取り辛いか?」

「ぴゅいぃ」


 首を横に振り笑顔になった。

 鼓膜が裂けたりしたら困っただろうなあ。あるのかどうか知らんが。人と同じ、では無いだろうし。

 とりあえず回復したのであれば、ミノの側に行きミノが持つファルカータを奪う。

 人の扱うサイズとは異なり巨大だ。とは言え、ギガントソード程ではない。せいぜい八十キロ程度だろう。軽いものだ。


 ファルカータを手に思いっきり振り被り、一気に振り下ろすと胴体は真っ二つ。

 ついでにファルカータは壊れた。毎回思うが脆い。

 上半身の切断面に手を入れ、魔石を探るのだが、やはり気色悪さは際立つな。


「ほれ」


 血を拭った巨大な魔石を手に載せると、ガリガリ齧って食ってるし。さすがにひと口サイズではないことで、少しずつ齧って食べているようだな。

 最後のひと口を食い終えると、ゲップを噛まし満足げな表情をしてる。

 さて、クラックの奥に入って魔石回収だ。

 狭いクラックを抜けると、以前見た光景のまま。


 背嚢を下ろし受肉中のものを三個、魔石状態のものを三個入れ、再び背嚢を背負って発生場所をあとにする。

 クリッカの奴、俺が作業中に追加で二つ食ってたな。転がらないよう足で固定して齧ってたし。意外に食いしん坊なのと、柔軟性が凄いな。関節の可動域は人より遥かに広そうだ。


 先へ進むべくクラックを抜け広場を出る。

 今回は奥にある鉱石やら鉱物のあった場所まで向かう。素材を入手したいのもあるからだ。

 途中でトビムシ擬きと遭遇するが、スポーランデ・フランマキューラで焼き払う。

 小さな虫だからな、魔石の回収などせず踏み潰しておく。クリッカも真似して踏み潰していた。要らないのか。


 さらに進むとムカデの化け物も出てくるが、ブリクストで処理して硬い殻を剥がし、大きな魔石は回収しておく。食べたそうにしていたが、今日は充分食っただろ。明日以降のおやつだ。

 鉱石が採取できる場所の前に、もう一戦化け物を相手にする必要がある。

 巨大なウデムシだな。前回はブリクストを使ったが、クリッカが嫌がるからフランマ連発で仕留めた。

 お陰で洞窟内が暑い。冷やすべく「スナッブ・ニエドシルニン」即ち急冷魔法で洞窟内を冷やす。


 焼けてることで殻を剥がしやすく、中身もいい具合に蒸し上がった感じだった。

 ちょっと蟹っぽいな。遠慮なく手を突っ込み、魔石を回収し背嚢に仕舞っておく。

 やはり欲しがる感じのクリッカだったが、明日になったら食べさせてやると言っておいた。


 実に順調なペースで資源採取場所まで辿り着き、ここからがひと仕事だ。

 何が何の素材か良く分かってない。ボーキサイトなんて、そもそもあるのか分からんし。

 いろいろ触れて光の反射具合を見たり、重さを感じ取ってみたり。

 俺が選別している間、周囲を見回し時々俺の顔を覗き込み、ぴぃ、なんて言ってるし。暇だろうけど俺は忙しい。


 黄色っぽい見た目の石がある。もしかしてと思い手にすると、少々重量を感じるし斜方結晶のようだし、重石華と判断し背嚢に仕舞っておく。水和酸化タングステンであろう。

 同じようなものは多数転がっている。どの程度必要になるか現時点で不明。

 長さが二千ミリで幅百ミリ、厚さ二十ミリのレールとして、一本で「Cu-W70」の場合五十五キロにも及ぶか。二本使う必要があるから、レールだけで百十キロ。ギガントソードよりは軽いが。銅だけで作れば一本三十五キロ程度で済むが、耐摩耗性では劣る。それでも七十キロ。レールだけだぞ。

 重石華のタングステン含有量は七割くらい。


「二百キロの重石華で百四十キロか」


 あくまで全て使えればの話だ。精錬時のロスがあるからな。そうなると余裕を持って三百キロあった方が。

 何度も来ないと無理だな。他にも必要なものを集めるとなれば、五回から六回は洞窟に入らないと駄目だ。

 ベルトコンベアで運べれば楽なのになあ。まあ、化け物が居るし複雑な坑内だし、ベルトコンベアなんて設置しても、破壊されて終わるだけか。

 今は考えず鉱石だけを集めておこう。


 とりあえず背嚢には入れられるだけ入れておく。

 詰め込んでみたが魔石が無ければ、もう少し入りそうだが、重さとしてはギガントソード半分程度か。つまり八十キロくらい。

 ここだけで四回は来ないと駄目かあ。


「クリッカ。外に出るぞ」

「ぴぃ」


 広い採取場ではあるが、どの程度重石華があるのか。そもそも三百キロもあるのか分からん。ただ、周囲を見回すと、この場所の多くは鉱石だらけだ。他の物も含めて。

 この場所内の全て、と言ってもいいくらいかもしれない。あり得ないけどな。普通に考えたら。

 生成過程の異なる鉱石が一堂に、なんてのはさすがファンタジー世界だ。アデラが呆れ返るのも無理はない。


 来た道を戻り適当に化け物を排除しつつ、洞窟を出ると三時間くらいは経過していたようだ。

 すでに昼になってるし。

 守衛が傍に来て「学者様の要望したものは手に入ったのか?」と聞いてくる。


「まだだな」

「そうか。どんだけ欲しがってるんだか」

「人任せだからな、遠慮がないんだよ」

「そりゃそうか。奴らじゃ潜れないからな」


 他のダンジョンにも入るのか聞かれ、レッティアにも用事があると言うと。


「大変そうだな」

「モンスターの相手は大したことないんだがな」

「そりゃすげえや」


 スーペラティブともなると、余裕があるものなんだな、だって。

 まあ異常な能力を持った、この体に感謝だ。人間とは思えん。


「ああ、そうだ」

「なんだ? 忘れ物か?」

「明日もまた来る」

「あまり根を詰めない方がいいぞ」


 気遣いはありがたいが、この程度でバテる程に柔じゃないからな。

 今日の午後はレッティアに潜る。魔石の確保があるからな。


 アロガンスを離れギルドに向かい、中に入るとリスベツとマルティナは休憩中のようだ。中には居らずエステルだけが番をしているのか。


「あ、お帰り」

「荷物を預かって欲しいんだが」

「いいけど、何?」

「鉱石」


 売らないのか、と言われるが、俺が使うためのものだからな。それに水和酸化タングステン鉱なんて売っても精錬できないだろ。

 この世界だとアデラくらいしかできないと思うし。後日ダンサンデトラーナに持って行く。

 またも倉庫に案内してもらい、背嚢から取り出し転がしておく。


「それ、何の鉱石?」

「重石華」

「分かんない」

「重くて硬い金属の素」


 分からんだろうけど、じゃあ説明して理解が及ぶか、と言えばな。無理だろ。

 振り向くと、こいつもか。唇尖らせて抱いてと迫ってくる。


「業務中だろ」

「少しだけ、ね?」


 その少しってのは一発ってことか?

 クリッカが居るから発情しかねないぞ、と言うと「今は、そうね、やめておこうかな」だそうだ。

 代わりに「夜は可愛がってね」と言われ倉庫をあとにした。


「また潜るの?」

「昼飯食ったらな」

「ねえ、少し待ってくれれば」


 仕方ない。ギルド内で待つことにした。飯を一緒にってことだろう。

 他の冒険者が時折入って来て、壊れた装備品の補充だろう、武器防具を真剣に見てるようだ。

 男女混合のパーティーもあれば、男だけのパーティーもある。

 男だけの場合は問題無いのだが、女性の混ざったパーティーはな。


「え、それ本物?」

「うっそぉ。スーペラティブなんて居たの?」


 こうなるんだよ。

 エステルに確認して本物と知れると「あの、一緒に」だの「そっちのパーティーに入っても?」なんてことになる。そうなると男どもの嫉妬が凄まじい。

 実力差は如何ともし難いのだろう。俺に直接文句を言う奴は居ない。代わりに女性たちに「これまで一緒にやって来ただろ」なんて引き留めに必死だ。

 やはり銀くらいが丁度いい。白金は目立ってしようがないな。

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