Sid.20 森で木の化け物と遭遇
門衛も納得したのか「通っていいぞ」となった。勿論入町税は払わされるが。
これ、毎回クリッカがスルーされるんだよな。俺のタグは確認するが、クリッカの分まで確認されたことが無い。
いつか確認される際にバレるだろうから、タグを用意した方がいいかもしれん。
フルトグレンのギルドなら発行してくれるか。一応聞いてみよう。
町中を移動し飲食店らしき店に。
中に入ると四人席が六つあり、半分は埋まってるが空席がある。
店の人が居て食事はできるか聞くと「煮込み料理なら出せる」と言われ、頼んでおいて席に着く。隣にクリッカが座り店内を見ているようだ。
食事が運ばれると興味深そうに見てるな。
「少し食ってみるか?」
首を傾げるも皿に顔を近付け、匂いを嗅ぐと笑顔になり口を開けて待ってるし。
ひな鳥じゃねえか。スプーンですくい口に運ぶと、そのまま飲み込んで笑顔を見せる。どうやら人の食い物でも問題無いようだ。
ちゃんとエネルギーになるのかどうかは知らんが。
食事を済ませて店をあとにし、町を出ると門衛が「随分早いな。泊まらないのか?」と聞いてきた。
「食事で立ち寄らせてもらっただけだからな」
「この先は宿場町も無いぞ」
「問題無い」
「野宿するのか」
しないし、空を飛んで行くからだ。
「まあ道中気を付けろ。先日ローセンダールで、モンスターの大規模な襲撃があったからな」
町の被害も尋常ではなく、多くの死傷者を出してると。現在は首都近郊から応援が入り、壁の修復にあたっているとか。土木系の作業が大半で、荒れた農地も修復中らしい。
騒動の中心に居たのは俺なんだが。言う気はないから気遣い感謝する、と言っておいた。
宿場町から少し歩くとクリッカに掴んでもらい、フルトグレンまでひとっ飛びだ。
五分に満たない程度飛行すると、フルトグレンの町が見えてくる。
「よし、着地しよう。ここからは歩きだ」
「ぴぃ」
だが、街道があるわけではなく、森の中に入ってしまうわけで。
邪魔な木々の無い少し開けた場所。そこに着地すると、まあ周囲には獣やら化け物が居るようだ。
気配察知に引っ掛かる存在が少々。
向かって来ないなら放置。向かって来るならば排除。
森を抜けるべくフルトグレンに向け歩き出し、暫しののちに化け物と遭遇。
いちいち向かって来なくても、と思うのだが。まあ、すぐにクリッカの燃料になるけどな。
だが、遭遇した相手は見たことの無いタイプだ。
地面が盛り上がり土の中から、触手なようなものが伸びてきて、捕らえようとしてる。
「なんだこれ?」
「ぴ」
ダガーを出した義手で薙ぎ払うと一旦は引っ込むが、再び元の状態で出してきて捕らえようとするし。
触手、かと思ったが木の根っこみたいな。
「どこかに本体があるな」
クリッカは捕まらないよう、飛び上がるが足を掴まれたようだ。
「クリッカ」
「ぴぃぴぃ」
一本の根が絡むと地面から次々根が出てきて、クリッカの足に絡みつき、引き摺り下ろそうとしてるようだ。
片っ端から切ると根は引っ込み、俺の足元から次々出てくる状態に。
飛び上がり上から見ているクリッカだが、有効な攻撃魔法を持たないクリッカだからな、地面の下に居る存在には手の打ちようがない。
足を絡め取ろうとする根だが、面倒だからジャンプして地面に向けブリクストを放つ。
閃光と轟音ののちに収まったようだが。
気配察知には依然として存在を感知してる。
その存在に向かうと植物のようだが。あれか、トレントとか言う奴もしれん。
燃やすのが一番だが、森林火災に発展しかねないからなあ。面倒だが切り刻むのがいいか。
ギガントソードを構え滅多斬りを試みる。
思いっきり振り回すと幹であろう部分に突き刺さり、そのまま勢い反対側に突き抜け本体が分割された。
何やら呻き声を上げているが、更に地面に近い部分にも攻撃し、切り株状態になり上から叩き斬ると静かになった。
気配察知には反応が無い。と言うことは倒せたってことだ。
この化け物のどこに魔石があるのか。
株元を探ると顔らしきものがあり、その下にどうやらあるようで。
ダガーで穿ると魔石を得ることができた。血が噴き出さないから、遠慮なく作業ができるな。
クリッカが下りてきて魔石を与えると、喜んで食ってるし。
さっきまで逃げるしかなかったのに。
少しすると体を震わせゲップを一発。これはあれか、以前もあったが成長か能力を得たのか。
だが現時点で変化はなかった。
「じゃあ行くぞ」
「ぴぃ」
十分程度で森を抜け見覚えのある街道に出た。
そう言えば、なんで時間が分かるのか。
暫し悩むも、どうやら体内時計が進化してるようだ。感覚的ではあっても時刻を正確に知る。そんな能力が発現したようで。
体内時計なんてのは時間まで分からん。凡その目安程度だからな。
便利ではあるが、ますます人間離れしてきてるよ。
フルトグレンに向け歩き門の前に着いた。
見覚えのある門衛が居て「久しぶりだが、なんだ? 二人だけか?」と。
「他のメンバーとは別行動だ」
「そっちのは、まああれか」
「通っていいんだよな?」
「構わんぞ。免税は継続してるからな」
顔パスな上に徴税すらされない。まだ有効だったのか。
門を抜けようとすると「まさかとは思うが、歩いて来たのか?」と聞かれ、走って来たと言うと「スーペラティブってのは……もう驚かないぞ」だそうだ。ローセンダールへ救助に向かうために、走って見せたからな。あの時の「あり得ん」の声の主は、どうやら門衛のものだったようだ。
正確には飛んで走ってだけどな。クリッカのことはバレてるかもしれんが、一応内緒にしているのだから、飛んだ、とは言わない。
町の中に入りギルドに向かい、扉を開け中に入るとリスベツだ。それとエステルにマルティナも居て表情が一気に華やいでるし。
相変わらずぺったんこなリスベツ。愛らしいのだが。
そして毛先がカールしてるアッシュブラウンのヘアで、リスベツとは異なり胸があり目鼻立ちがしっかりしてるエステル。少し切れ長な目とダークブラウンのロングへアで、やはりリスベツとは異なり相応に豊かな胸を持つマルティナ。
三人とも以前抱いてるんだよなあ。
「トール様!」
「あ、トール!」
「トール! 来てくれたんだ」
本当に嬉しそうだな。揃ってはしゃぎ気味だし。
「リッカルドは居るか?」
「あ、はい。すぐ呼びますね」
「ねえ、今回は二人だけ?」
「別行動にしたからな」
リスベツがギルド長のリッカルドを呼びに行き、その間、エステルとマルティナが「久しぶりだし今夜、どうかな?」なんて言ってるし。
抱きに来たわけじゃないんだがな。ダンジョンで素材集めと、クリッカの冒険者登録がしたいだけで。
クリッカを見て「懐いてるね」だそうだ。
「でもどうして」
「何がだ?」
「モンスターを連れてるの」
「俺以外面倒見切れない」
そう言うことか、と納得した感じだが「危険じゃないの?」と言ってる。
「おとなしいぞ」
「そう、なんだ」
怖いんだろうなあ。
カウンター奥の扉が開いて「来たのか」と声がする方を見ると、爺さんが出てきた。リッカルドだ。
俺を見て早々に「魔石と卵を取って来て欲しい」と。
「依頼か?」
「そうだ。待ちかねてるからな」
俺がベルマンに帰って三日後に魔法学院の連中が来て、魔石を調達したいとか言っていたらしい。しかしだ、連絡手段の無い世界ゆえに「いずれ来るから待て」と言ったそうで。
「失敗した?」
「まあ、ゴブリン程度はともかくな」
俺の傍に居るクリッカを見て「ハルピヤさえ生み出せず、貴族に尻を叩かれてるそうだ」と言う。
やはり無理か。
「モンスターに関してだが」
近日中に化け物制作に関わる論文を渡す、と言うと。
「誰が書いた?」
「ダンサンデトラーナに居るアデラ」
「アデラ?」
「まあ、実業家で発明家だ」
なんか知らんが優秀そうだ、と言ってる。
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