Sid.17 今できる範囲でやる
虐殺聖女だなんて、とんでもない称号を与えられたものだ。五千人も殺害したとなれば制圧するに、その三倍は必要じゃないのか?
「どんな力を使ったか分かるのか?」
「祈っていると雷が落ちました」
じゃあれだ、ブリクスネスラグ。電気を知らない人にとって、雷は神の御業ってことだし。クリスタはそう言っていたからな。だから俺を雷神とか言い出したわけで。
聖女とは言え凄まじいな。雷撃で一度に五千人を葬れるとは思わん。
そうなると俺以上の能力を持っているかもしれない。しかも自覚せずに使ってる。
「でも雷ってのは神の権能でしょ」
「神を誑かしたと」
「あり得ない」
「はい。神は絶対の存在ですから」
幾ら聖女とは言え、神が人如きに誑かされるはずもないと。
公開処刑場は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、協力者により連れ出され逃げたは良いが、この国に辿り着く頃にはひとりになった。
追っ手により協力者はひとり、またひとり殺害され、セラフィマだけが逃げ果せたらしい。
追撃の手を緩めなかったのかと思えば、この国に足を踏み入れた途端、追っ手が来なくなったそうだ。
ろくな食事もできず着の身着のまま。力尽きたそうで。
「この村の外で拾われました」
村人たちは何も聞かず迎え入れてくれたと。
救ってくれた礼として一年程、この村で農作業を手伝っているそうだ。
ただ、ここに居ても万が一追っ手が来たら、村人に迷惑が掛かる可能性が高い。ゆえに何か理由を付けて村を出て、どこか遠くへと考えていたら。
「あなたと出会いました」
巨大な剣を背負ってるから、前衛も熟せるのか聞かれたが、今の時点で正直に言う理由は無いな。セラフィマも全ては語っていない。まだ何か隠してることがあるだろ。
まあ互いに初対面だし、全てを明かす必要はないな。
「まあ一応」
有能そうだ、と言ってる。
その神聖何たら帝国の連中と比較して、なのだろう。最強とは言わないが、弱いとまでは言えないと思うからな。
すでに目の前の存在は俺を上回っていそうだし。
「じゃあ、そろそろ俺は戻るから」
「迎えに来てくださるのですよね」
「その予定だ」
「ではお待ちしております」
村の入り口まで見送りに来るセラフィマだ。
「近いうちに」
「はい」
村から出て暫し歩くことに。
クリッカに抱えられ飛ぶところを見せる気はない。一般的なハーピーに人は運べないはずだからな。まだ互いに腹の探り合いの状態だと思うし。
互いに信じられるようになれば、何もかも明かせるだろう。
村が見えなくなるとクリッカを抱え走ることに。
二つある村を迂回する形で走り続け、ダンサンデトラーナの近くまで来ると、クリッカを下ろし徒歩で門の前に行く。
門衛が気付き「村はどうだった?」なんて聞いてくるから、閑散としていたと言っておいた。
「何もなかっただろ」
「確かに」
「時々村の人が農畜産物を運んでくる程度だ」
いつまで滞在してるのか知らないが、のんびり過ごしてくれ、だそうだ。
町に入りホテルに向かう。
まだ夕方までに少し時間はあるが、これと言ってやることもない。図面ができないとグルヴスタッドに行っても無駄だし。フルトグレンに行きたいが、時間的に無理があるからなあ。
ホテルに入るとカーリンが「もう帰って来たんですね」とか言ってるし。
「何も無かったでしょう?」
「まあ確かに」
「明日は帰るんですか?」
「頼んでいた物ができていればな」
レールガンの設計図はともかく、ハンググライダーの図面が引けていれば、素材自体は鉄と布だからな。グルヴスタッドに向かい図面を元に、フレームを作成してもらう。
アルミはダンジョンにあると思うが、今回はまあいい。レールガン用に後日取りに行く。ハンググライダーができてしまえば、セラフィマを連れて行けるだろう。
暫しカウンター前で話をしていると、アデラが出てきた。
「ひとつはできました」
「助かる。ありがとう」
それともうひとつ追加だ。
「爆弾だが」
「爆弾って何です?」
カーリンには通じないよな。
アデラは少し考え込んでるな。
「びっくりアイテムだ」
「なんです、それ」
「ここには黒色火薬しかありません」
「ダイナマイトは作れない?」
材料としてグリセリン、硝酸、硫酸があれば作れるが、いずれもすぐに入手できない。グリセリンを作らねばならず、硝酸や硫酸も同様で、一から作らなければならない。
手間暇が掛かる上に材料の調達も難しい。硫黄程度は比較的簡単に入手できるが。
またグリセリンの原料自体は容易に入手可能だ。ただ、製造に手間が掛かる。
製造設備が存在しないから、全てを作り出した上で、となってしまう。
ビーカーに材料入れてランプで加熱して、ほい出来上がり、なんてことは無いわけで。
「時間が掛かりますね」
「そうか。この世界は不便過ぎるな」
「あの、何の話してるんです?」
「カーリン。少し黙っていてね」
仕方ない。黒色火薬で対処するしか無いか。
「じゃあ黒色火薬で」
「威力は弱いですよ」
「分かってるんだが」
「トールさんには高威力の魔法がありますよね」
ああ、そうか。エクスプロシーヴ・ローガと言う、お手軽な火力があるんだった。ソルフランマ程にイカれた魔法じゃないし。
それなりに威力があるから、火薬の代わりに使えばいいのか。
「爆裂魔法なら黒色火薬より威力があると思いますよ」
まあ記憶を覗かれてるわけで、使える魔法の種類も把握されてる。
「分かった。レールガンで穴開けて、俺の魔法で吹っ飛ばす」
「それが一番ですね」
ただ、今後のことも考えて少しずつ、試してみるそうだ。
「その際には材料を集めてきてください」
「それなら喜んで引き受ける」
「科学にしても魔法があることで進歩しないので」
「だよなあ」
ずっと足踏みしてるんだよ。下手すれば十世紀くらいで止まってるだろ。
今後魔法に頼らない利便性の高いものを作りたい、そんな想いはあるそうだ。誰でも使える武器があれば、化け物に脅かされる心配も減るだろうと。
まあ気軽に使える武器が出てきたら、冒険者はお払い箱かもな。それでも訓練した兵士と一般人は違うし。冒険者が生き残れるか否かはそこだな。
「せっかく知識はあるので」
「俺もできる範囲で協力するよ」
「お願いしますね」
話をしていると夕方になり、夕食を済ませお愉しみの時間に、となった。
風呂に入るのだがクリッカも一緒だし。
アデラとカーリンにドリス。それぞれ風呂で愉しみ部屋でも、となってしまうが。
「クリッカさんには何もしないのですか?」
「いや、だって」
「入れなくとも触れてあげれば」
見た目は愛らしくても化け物。
でも行為の最中じっと見てるし。
「ほら、濡れてますよ」
しっかり反応してるとか言い出すし、触って確認してるし。
アデラって、化け物でも構わないのか。
結局、撫で回すことになってしまい、歓喜するクリッカが居て、その表情や動作は人間と相違なかった。ついでに感触も実に、じゃない。
次はやってしまいかねないな。変態なんてもんじゃないだろ。アデラは気にしないとしても普通の人は忌避するぞ。
だが、可愛らしい声を出すクリッカだった。
やばいな。
翌日、早朝に顕微鏡やら図面やらをバッグに詰め、一度グルヴスタッドに向かうことに。
「じゃああとはレールガンの」
「もう少しで完成しますから」
「ありがとう。助かるよ」
「また愛してくださいね」
次に来たら婚約の儀を済ませようとなった。
当然だがカーリンもドリスも婚約して、となったのは言うまでもない。それと出勤前にマデレイネまで来て「私とも婚約を」と、アデラに頼み込み「では皆さんご一緒に」となってしまった。
俺の嫁、一体何人になるんだよ。面倒見切れないっての。
四人の女性に見送られホテルをあとにし、門を潜り抜ける際には「次はいつ来るんだ?」なんて門衛に聞かれたし。
町を離れ一気に空へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます