Sid.15 魔素の量次第で能力向上
「エルホック!」
近付く蛸足に影響の少ない電撃魔法を食らわせてみる。人なら気絶以上の効果を得るが、このサイズの化け物だと針で刺されたようなものか。
当然だが痺れるわけで即座に足を引っ込める。まあそれでも巨大な足だからな、すぐに水面下に潜れるわけもないのだが。
激しく波打つ水面だ。一本が潜り切ると別の足を出してきて、やはり捕まえようとするのだな。
「ブリクスト!」
足を直撃する雷撃魔法は瞬時に全身を通ったようで、数本の足が水面に出て水中で悶絶しているようで。
結構な効果を得ているようだな。だが、これを放つと荒れた水面上に、魚が浮き上がってくるわけで。後々の漁業に影響が生じそうだから、やはりブリクストで倒すのはやめた方が良さそうだ。
旋回しながら様子を見ていると、どうやら俺を捕まえるのは諦めたようだ。
徐々に影が見えなくなり、気配察知や危険察知も反応が無くなった。
「よし、引き上げるぞ」
「ぴぃ」
港に戻らず町の外に向かい適当な場所に着地する。
港にはキャラベル船のような漁船が十七隻係留されていて、他にはガレオン船が六隻。あれはたぶん、クラーケン討伐のために用意されたものだろう。のこのこ出向いても沈められるだけだな。
分の悪い戦闘はしない。空中からの攻撃は有効だと分かったし。
レールガンで穴だらけにして、爆弾で吹っ飛ばすのが一番だ。
さて、ダンサンデトラーナに戻るのだが、クリッカを抱えて走ろうとしたら、飛び上がり俺の肩を掴んで飛ぶようで。
「いいのか?」
「ぴぃ」
そうか。まあ、さっき大量の魔素を補給しただろうから、掴んで飛ぶ程度は楽勝なのだろう。
上空三百メートル程度まで上昇すると、強めのGを感じて一気に加速したようだ。
まじかよ。これ、どう見ても時速四百キロは出てるぞ。
保有する魔素の量でここまで速度に違いが出るのか。
四百キロと言えば過去に「Kawasaki Ninja H2R」が時速四百キロの記録を出したとか。凄まじい。
時速四百キロで飛行すると、ダンサンデトラーナへは三十六分で到着する。さすが化け物だ。魔素の消費量を考慮しなければ、幾らでも能力が向上するってことだ。
ああ、俺もだ。周囲の魔素を掻き集めて、人ならざる力を発揮してるからな。
化け物コンビってことで。
ただ、風圧は凄かった。
ダンサンデトラーナ近郊に着地し、そこからは徒歩で向かい町に入る。
門衛が声を掛けてくるんだよな。意外と気さくな門衛が多い。いや、俺がスーペラティブってことで、気になって声を掛けるのだろう。
「早かったな」
「まあ、それほどゴミが無くて」
「今の時期はな」
夏になるとゴミが増えるから、その時はよろしく、だそうで。
浜辺で酒をかっ食らって、男女入り乱れてやり捲るからだな。あれに混ざって酒池肉林を愉しむ趣味は無い。
アデラのホテルに向かい中に入ると、受付カウンターにカーリンが居る。暇なようで頬杖付いて、そっぽ向いていたが俺に気付くと、カウンターから出てきて「あれ? エストラに行ったんじゃ?」なんて言ってるし。
「用事は済んだ」
「えっと」
その辺を散歩してたのでは、なんて言ってるが、まじでエストラまで行ってたんだがなあ。
馬車移動がメインのこの世界では、空を飛ぶなんて考えも及ばないのだろう。
「アデラは?」
「工房に居ると思います」
「じゃあ、どうするか」
「呼び出しますか?」
作業中だと悪いから呼ばなくていいと言うと。
「じゃあ、私としませんか?」
「仕事中だろ」
「お客さん来ないです」
「いや、あのな」
何ならカウンター内で事に及んでもいい、とか言ってるよ。とんだ性豪だ。
あとでアデラに怒られるぞ、と言って断っておいた。
そうだ。
「この町より南って」
「村があるだけですよ」
「村?」
「小さな集落が点在してる程度です」
聞けば人口百人に満たない村が、五キロ程度の間隔で四つか五つあるらしい。
それらは農業や畜産を生業にしているそうだ。
さらに進むと国境があるとか。国境と言っても何かあるわけでもない。中立国があり、さらに先の国との緩衝地帯の役割を果たしているそうで。クラウフェルト公国なるものがあると。公国ねえ。
「見て来るか」
「今からですか?」
「遠い場所じゃないんだろ?」
「近いと言えば近いですけど」
年に数回程度だが冒険者ギルドに、ゴブリンの討伐依頼がされたことがある程度。冒険者が散歩がてら向かう先だそうで。
「じゃあ行ってくる」
「夕方には帰ってきてくださいよ」
「問題無い」
日が暮れそうなら走れば済む。
ホテルをあとにしクリッカと町を出る。門衛が度々出る俺を見て「今度はどこに行くんだ?」なんて聞いてくる。
「南にある村」
「見るものなんて無いぞ」
「いい。見てみたいから」
「暇なんだな」
この町では冒険者は暇を持て余すからな、なんて言ってるし。
夕方までに戻って来いよ、と言われ送り出された。
町を出ると走ることに。クリッカは俺が抱えておく。
最大速度で走ると四分程度で最初の村に着いた。さすがに四分程度全速力で走っても疲れはないな。
村の入り口であろう門らしき部分。そして周囲を囲む木の柵。化け物の襲撃が殆どないから木製の柵で充分ってことか。盗賊も、こんな村に来るはずもないな。
解放されている入り口を通るが、村民ってどこに居るんだよ。
意外と村の中は広く、畑が広がっていて遠くに作業中の村民が居るようだ。
早歩きで近付くと気付いたようで「あんた、どこから来たんか?」と聞かれる。
「ダンサンデトラーナ」
「ああ、冒険者なのじゃのぉ」
だがしかし「モンスターなんて出て来んけぇ、来ても意味が無いじゃろう」と言われてしまった。
確かにそうなんだが。
それにしても訛ってる。村人だから町とは違うのだろうとは思うが、それにしても距離的には大してないんだがなあ。それでも訛りがあるのは、昔から人が移動しないからか。居住の自由が無いから外から人の流入も無い。外へ出る人も居ない。平穏だから冒険者になろう、なんて若者も居ないのだろう。
「この村って人口は?」
七十九人だそうで。全員が農業従事者。
「この先の村は?」
「行ってもなんも無いよ」
「ちょっと見物って言うか」
「じゃあ牛でも眺めてくりゃあええよ。立派な乳を持った牝牛がおるけぇのぉ」
何も無いのは分かった。
礼だけ言って次の村に行くことに。次の村まではせいぜい四キロ程度か。
最高速で走れば三分だな。村を出てクリッカを抱え走り出すと、すぐに次の村の柵が見えてくる。
入り口はやはり解放されていて、木製の柵が周囲を覆う程度。
中に入っても牛や羊以外は見るべき物もなく、この村もすぐにあとにした。
さらに次の村に行くと毛色の異なる人が居る。
農作業をしているようで、しかし、その姿は村人とは異なり過ぎてるな。
傍に行くと気付いて俺を見て、少し後ずさりしたような。
「この村の人?」
作物の収穫でもしてたのか、腰に籠を下げ野菜らしきものが入ってる。
服装は地味な農民って感じだが、顔立ちが村の人間とは違うんだよ。長い髪を後ろ手に纏めているが、金髪で軽いウェーブも掛かってる。
白い肌と青い瞳。鼻は高く唇は薄いか。美形だ。都会にいる女性の如く。
「あの、この村の人だよね?」
更に後ずさりしてる。
なぜだ? もしかしてクリッカの正体に気付いてるとか。それとも俺を怖がってる?
「怖がらなくていい。ダンサンデトラーナから来た冒険者だ」
冒険者と言うと「ダンサンデトラーナから?」と、少しだけ警戒感が薄れたか。
「冒険者のトールだ。こっちはクリッカ」
自己紹介をすると緊張が解れたのか「私はセラフィマと言います」と名乗ってくれた。
名前の雰囲気がこの国とは違う。つまり他国の人ってことだ。
エイネも他国の人だったが、セラフィマも奴隷だったのか?
「出身はどこ?」
あ、警戒された。
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