Sid.14 モンスター見物に行く

 今日中に戻ることにしてクリッカを伴い、アデラスソーブルムをあとにする。

 ホテル正面口で手を振り見送りをするアデラだ。

 戻って来たらしっかり愉しませてあげよう。あとは報酬として十グルドくらいは、と思っている。名目上は結納金とでもしておけばいい。

 報酬が婚姻だけだと安売りし過ぎだと思うからな。正妻ならまだしも二号だし。

 なんか知らんが二号さんばかり増えてる。


 さて、町中で飛ぶと住民にクリッカの存在がバレる。そうなると大騒ぎになるだろうからな。

 町の外に出て適当な場所から飛び立つことに。

 門を通る際に「出掛けるのか?」と門衛に聞かれ「ちょっと出てくる」と言うと。


「何か依頼でも受けたのか?」

「海岸沿いのゴミ拾い」

「なんだそれ。まあ、この町のギルドには、ろくな仕事は無いからなあ」


 まあせいぜい綺麗にしてくれ、と言われ送り出された。

 エストラに行く、なんて言って当日中に戻って来たら、疑問を抱かれるだけだからな。

 ゴミ拾いとでも言っておけば、戻って来た時に入町税を取られずに済む。


 町を出て暫く歩き頃合いを見て、クリッカに俺を掴んで飛ぶよう指示する。

 しっかり掴まれると少し肩が痛いが、途中で落とさないためだからな、その程度は我慢するしかない。

 魔法を使い飛び上がると上空、三百メートルほどまで上昇し、水平飛行に移行すると時速二百キロの世界だ。元の世界の航空機に比べれば、かなり遅い部類だが生物の飛行速度としては最速だからな。クリッカが生物とすればだが。

 あくまで水平飛行時の話ではある。急降下であれば隼の三百九十キロが、ギネスに記録されているらしい。


 一時間程飛行していると疲労困憊なのか、魔力切れなのか高度を落とし着地する。

 ここからは俺がクリッカを抱え走れば、一時間もしない内にエストラに着く。

 馬車で四日を二時間以内。効率がいい。


「パパぁ」


 俺に抱き着きながら、もう理解した。

 しっかり唇を重ね合わせ魔素であろう、俺が周囲から集める分を吸い取ってる。クリッカもまた体の維持に魔素が欠かせない。魔素を使い切れば霧散するのだろう。

 クリッカを抱え走っていると、気配察知に引っ掛かる存在が居る。街道に陣取っているのか、移動せずに居るようだ。人ではないし馬車でもない。化け物だろう。


 傍まで近付くが道の上に水溜まりがあるような。

 クリッカが「ぴぃ」と鳴いて俺の腕から離れ、魔法を使い弾き飛ばそうとしている。

 さざ波の如く表面が波打っているが、地面からは剥がれる気配はないな。

 それと少し盛り上がったことで、半透明な液状の体内に魔石を確認できた。間違いなく化け物だが、見たことのない相手だ。


 これって、スライムとか言う奴か?

 居るんだ。と感心していると急に形状を変えて、覆い被さるように広がって来た。

 避けるクリッカだが俺はと言えば、炎系魔法フランマを使い燃やしてみることに。


「どうだ?」

「ぴぃぴぃ」


 まあ、一般的な冒険者が使うフランマとは火力が違う。

 あっと言う間に体が蒸発したのだろう、魔石だけが転がっていた。


「ご多聞に漏れずスライムは雑魚か」


 クリッカは魔石を咥えた、と思ったら食ったよ。魔素の補充に丁度いいのだろう。

 ゴリゴリ音を立て噛み砕き飲み込んだようで。俺を見てにこにこしてるし。

 再び移動しようとしたら、草むらからわらわらとスライムが出てきた。動作は緩慢ではあるが捕食の瞬間だけ、瞬時に形状を変えるのは理解した。

 面倒だからスポーランデ・フランマキューラ、まあ追尾型のフランマをばら撒いておく。

 数は凡そ八体くらいだろうか、やはり呆気なく蒸発し魔石だけに。


 脆い。


「ぴぃ」


 やはり食うのか。

 片っ端から魔石を食ってご満悦な表情をしてるし。ついでにゲップまで噛ましてる。

 クリッカが居ると魔石を食われるから、稼ぎとしては減るかもしれん。とは言え、こんな雑魚の魔石なんぞ大した額にはならないか。

 クリッカを抱え走りだし、二十分程度でエストラに着いた。


 町に入り港に向かうが、馬車と入れ違いになるが。


「英傑様ではありませんか」


 商人だ。商人の声を聞いたメンバーが、一斉に荷馬車から顔を出してる。


「仕事は終わったのか?」

「帆布の仕入れは終わりましたよ。このままグルヴスタッドに向かうところでした」

「トール様」

「なんでここに?」


 クラーケンを見ておこうと思って戻ってきたと言うと。


「船を使うのですか?」

「いや、クリッカに運んでもらう」

「トールさんを抱えて飛べるんだ」

「意外と力持ちだったぞ」


 それと道中、スライムと言えばいいのか、ネバネバな液体状の化け物と遭遇した、と言うと。


「それはスレムですね」


 化け物図鑑の如きクリスタが教えてくれる。


「スレム?」

「粘体モンスターです」


 そうか。この世界ではスレムと言うのだな。


「魔石はどうしたのです?」

「クリッカが食った」


 暫し呆けるクリスタだが「ひとつ二十シルヴェルですよ」とか言ってる。日本円で四万円か。全部で九個あったってことは、三十六万。まあ今更だけどな。

 滅多に遭遇せず保有魔素の量が桁違い。その割には弱いから絶好のカモなのに、だそうだ。魔法ですぐ倒せる程度。パーティーに魔法使いが居れば楽勝の相手。

 ただし、武器での攻撃は無効だそうで。


「トールなら片手間だよね」

「まあ、フランマ一発で蒸発したからな」


 勿体無い、と残念がるメンバーだな。知らなかったのだから已む無しだ。

 クリッカの腹を満たしたってことで。どうせこのあと、また飛んでもらうわけだし。


「ダンサンデトラーナから戻って来たの?」

「今、そこから来たところだ」

「本当に行って帰って来れるんだ」

「足が速いのでシャールヴィですね」


 シャールヴィって、あれか。アースガルズの住人。神扱いよりは人なだけましだと思うが。クリスタはこの世界の神話に詳しいのだな。だが内容が、ほぼ北欧神話ってのも不思議ではある。

 まあ、雷神トールの従者なんだよなあ。シャールヴィには妹も居るがクリッカがそれに該当したり。

 ああ、どうでもいいことだった。


「クリッカが妹のレスクヴァですね」


 言うんだ。

 まあいい。


「とりあえず時間が惜しいから、俺はクリッカと海に出るからな」

「落ちたりしないの?」


 心配するテレーサだが、落とすようなことはしないだろう。時速二百キロで飛んでも落とされなかったからな。


「問題無い」

「トールさんですから、クラーケンを前にすれば」

「ひと捻りだよね」


 無茶な。敵は全長五十メートルとか言ってたぞ。そんなもの相手に捻れるかっての。

 ソルフランマ一発で倒せるとは思うが、周囲への影響がでかすぎるんだよ。

 海だと障壁で囲えるかどうかも分からん。地面と同じとはいかないだろうし。


「クラーケンを見たらどうするの?」

「ダンサンデトラーナに戻る」

「一緒には来ないんだ」

「まだ必要なものを受け取って無いからな」


 顕微鏡も受け取って無いし、図面もまだ引いてもらってない。アデラと一夜を過ごす約束もあるし。

 と言うことで港に向かいソーニャたちと別れた。

 戻って来たら寝かさないそうだ。何日も放置されて疼いて仕方ないらしい。何日もって言う程じゃないだろ。

 つくづく性豪ばかりだ。リーリャユングフルのメンバーは。


 港に着くと人目に付かない場所から飛び立つ。

 本体の確認をしたいから、低空飛行で誘ってみることに。

 俺の足がギリギリ海面に触れるかどうか、その程度の高さで飛行してもらう。


 暫く飛んでいると気配察知と危険察知に引っ掛かる。


「来たようだな。上昇してくれ」

「ぴぃ」


 高度二十メートル程度まで上昇し、海面を見ると巨大過ぎる黒い影。


「あれがクラーケンか」


 旋回飛行をしていると海面から、蛸足が一気に伸びてきて、俺を捕らえようとしてるな。

 それを躱す。蛸足と言えば思い出す。貪婪どんらんの道化師だな。あれも蛸足のような腕だった。

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