Sid.13 受付嬢から婚姻の申し出

 食事を済ませると再び部屋に戻り、まあ、やることはやるわけで。

 せっせと服を脱いでベッドに横たわり、豊満な姿態を見せつけながら「今夜は寝かせません」と言って、誘ってくるマデレイネだ。

 ガビィ程には爆乳ではないが形の良さがあるよなあ。ガビィはでか過ぎて垂れ下がる。あれはあれでいいのだが。

 クリスタやミリヤムのように、薄くてもいいと思うわけで。

 要するに何でもいいのが俺ってことか。我ながら節操無しだ。


 ひたすら貪られるが限界はあるもので。


「もう終わりか?」


 ひいひい云わせ過ぎて疲れ切ったようだな。

 やはり日々三人四人を相手にしている俺だ。無駄にタフさが身に付いたぞ。ひとりを相手にする程度なら問題無い。

 お陰でしっかり寝ることもできそうだな。

 隣で満足し切ったマデレイネが俺を見て「満足できたのですか?」なんて聞いてくる。


「新鮮で良かった」

「新鮮?」

「毎日同じ顔触れだからな」

「そうでしたね」


 普段連れている女性以外にも居るのでしょうね、なんて言ってるが、ベルマンには二人。湯番の女性も含めたら三人か。ここに三人居て、ひとり追加された。

 エストラにひとり居るし。フルトグレンに四人。ランデスコーグに二人。

 宿場町で相手した女性も含めたら、何人抱いたのか分からん。

 元の世界なら確実に刺される。この世界は大らかな女性ばかりで助かるな。


「私だけの人にならないのは残念です」

「放っておいてくれないからなあ」

「圧倒的な強さと知識の豊富さでしょうか」

「それは分からん」


 強さ、なんてものは相手次第。相対的なものでしかない。より強い存在が居れば弱いとなるわけで。

 知識もまたアデラのように俺を上回る存在も居る。しかも形にするだけの能力まであるのだから。元の世界であれば俺なんて、ちり芥みたいなものだ。女性から見て魅力が皆無の存在だったわけで。

 つくづく恵まれた肉体を得たものだな。


 じっと見つめてる。


「私と婚姻関係なんて無理ですよね」

「この町には何度も来れないからな」

「そんなの構わないです」

「他の仲間の了承も必要だし」


 現時点で婚姻関係の女性は何人居るのかと。


「ひとり」

「え」

「ベルマンに戻り次第六人。この町で後日二人」

「その中に私も含めて欲しいです」


 そうなるのか。

 一緒に生活することはできない。それでも構わないってのもなあ。年に数回程度の逢瀬で満足するのか。


「まあ聞いてみるよ」

「待ってます」


 健気だ。


 翌朝、目覚めると羽毛に覆われてる、と思ったら。


「げ」


 クリッカが勝手に潜り込んでやがる。

 アデラと一緒じゃなかったのか。この状態だとマデレイネが悲鳴を上げる。

 クリッカを起こすと「パパぁ」と言って甘えてくるし。さっさとベッドから出るよう促していると、マデレイネが目を覚ましたようで、異形の存在に気付いたようだ。

 暫し硬直していたが、やはりベッドから転がり落ちて、声にならない叫びをあげてるし。


「心配は要らない。何もされてないだろ」


 これがソーニャやミリヤムなら、平然としていられるだろうけど、戦闘ができない女性には恐怖なんだよなあ。

 アデラも平気みたいだが、戦闘はできないだろうになぜだろう。

 あれか、俺の記憶を読み取って、害になる存在ではないと理解したからかもな。


 少しすると落ち着いたのか「心臓に悪いです」だそうだ。

 それと同時にドアがノックされ、開けるとアデラが居て「夜中に抜け出したようです」と言って謝罪される。

 謝罪なんて要らないんだが、マデレイネにとっては恐怖だっただろうけど。


「トール様の側が良いのでしょうね」

「懐き方がな」

「それだけ愛されているのでしょう」


 同衾している女性にとっては、傍迷惑な存在になるとは思う。

 だからと言ってクリッカを排除はできないし、すでに貴重な戦力になってる。空を飛べるってのは極めて有利だからな。


「それにしても部屋が分かるのか」

「匂い、だと思いますよ」

「鼻が利く?」

「おそらくは」


 犬じゃあるまいし。

 鳥ってのは嗅覚に優れるのか? 全体で見れば嗅覚は優れていない、ってのは解剖学的知見ではあるが。脳の端にある嗅球、即ち匂いの信号を処理する部分だ。それが小さいからだと。ただ、近年の研究によって、嗅覚は劣っていないと言われている。

 だとすれば案外、優れた嗅覚を持っているのかもな。


 とりあえず服を着て朝食を済ませることに。

 クリッカは食事が済むまでアデラに預けておく。


 朝食を済ませるが給仕はカーリンが行っている。暇だからか?


「暇?」

「暇じゃないですけど、トールさんとお話ししたいので」


 妙に好かれたものだ。

 マデレイネがカーリンに声を掛けてる。


「カーリン。トールさんと結婚したいの」


 少し困り顔をしているようだが「私に聞かれても」と言ってるな。

 受け入れるも受け入れないも、リーリャユングフルのメンバー次第なんだが。俺の意思はあまり反映させられないと思うし。本来の正妻はアニタの予定だったが、ガビィに奪われてるし。一番に同意を求めたいのはアニタだ。いや、凄く口にし辛い。

 増えれば増える程、嫉妬するだろうからな。元より独占欲が強い。


「トールさん、今日の予定は?」

「一度エストラに戻る」

「じゃあこっちに来るのって後日ですか」

「今日中に戻る」


 無理でしょ、と言われるがクリッカと一緒なら、楽とは言わないまでも往復できる、と言うと。


「あり得ないですよ」


 普通に考えたらあり得ないんだが、そこはファンタジーの世界だ。いや、クリッカが想像以上に凄まじかったからな。時速二百キロで飛べるんだよ。一時間程度だが。

 そのお陰で移動に掛かる時間を、相当減らすことが可能になった。


「クリッカの高速飛行があるし、俺も走れば早いぞ」

「トールさんって、人外の仲間なんですね」

「あのなあ」


 ところで、と切り出すカーリンだ。


「左腕ですけど」

「今更?」

「不便じゃないんですか?」

「慣れた」


 今は義手を外している。町を出る際にまた装着するが、あれはあれで結構な重量があるからな。ダガーなんて仕込むし、盾代わりになるような強度もあるし。

 そのせいで普通の人なら扱いに困る重さだ。

 俺だから無茶な仕様にできたんだろう。


「生えるんだって。冗談だと思うけど」

「え、生えるわけないでしょ」

「私もそう言ったけど」

「トールさん。生えたら人じゃないですよ」


 生えると言うと人じゃないと言われる。本当に生えてきたら、化け物扱いされるかもな。

 クリッカと同類だなんて言われるのか。


「あ、だからモンスターと仲がいいのかな」

「トールさん。人間やめないでください」


 俺自身が人間と思えなくなるから、それ以上言わないで欲しい。


 朝食が済んで暫し会話をしたら、アデラを呼び出してもらう。

 マデレイネはギルドに出勤するから、ここで一旦お別れとなった。


「あの、また来てください」

「いつ、とは約束できないが」

「婚姻の儀をしたいですから」

「それは聞いてからだ」


 名残惜しそうにホテルをあとにするマデレイネだ。何度も振り返りちっとも先へ進まないが、暫くすると姿が見えなくなる。

 マデレイネを見送りロビーで待っていると、アデラがクリッカを連れて現れた。


「クリッカをお返ししますね」

「押し付けたみたいで悪かった。ありがとう」

「設計図ですか?」

「いや、エストラに行く」


 一度クラーケンを見ておきたいってのがある。

 実物を見ておけば対処法も考えられるからな。


「そうですか。事前に見ておくのは良いと思います」


 今日中に戻るのか聞かれ戻ると言うと。


「あまり無理はしないでくださいね」


 エストラで一日過ごしてからでも構わないそうだ。

 どのみち、設計図はハンググライダーの分はできても、レールガンは時間が掛かるからと。

 夜のお愉しみも俺の都合で待つそうで。

 協力を仰ぐから待たせる気はない。


「今日中に戻る」

「では、期待しておきます」

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