Sid.12 鳥人間と及びそうになる

 俺の場合は意識せずに魔素を自在に操る。たぶんそうなのだろう。クリスタもそう考えてるようだし。


「モンスター以上にモンスターですね」

「なんかそれは嫌だ」

「ですが、従えてますし生み出しますし、モンスターキングとでも」


 違う。一応人のつもりなんだよ。

 あまりの魔法の威力や桁違いの力のせいで、時々自分でも人間じゃないと思ってしまうが。

 しかも四肢が生えるとなれば、人の定義からは外れているだろう。

 それでも人と思いたい。


 アデラがクリッカを洗っているが、されるがままだな。

 もしかして転生者に対して従うとかあるのか。


「俺と居る時と同じくらい、おとなしいな」

「感情には強く反応するようですよ」

「感情?」

「人が発する感情に対する感応力があるようです」


 恐れを抱けば同じように恐れてしまう。慈しめば同じように慈しみを持つ。

 愛すれば愛してくれる。可愛いと思えば素直に喜ぶようだと。


「平常心を保ち敵対する感情を持たなければ」


 実におとなしい存在となるようだ。


「言葉も充分理解できます」

「まあ、それは指示すれば実行するからな」


 一度抱いてみては、なんて言うアデラだ。

 人じゃないって。抱いたら軽蔑されないかと思うのだが。


「軽蔑されるだろ」

「しません。こんなに愛らしく知能は高く、ここは人と同じです」


 ここ、とは股間のことだな。見てるから知ってるけど確かに同じだ。いや、構造が同じと言っても中身まで同じとは限らん。それにクリッカとやったら、獣姦。人外姦。特殊性癖の持ち主になってしまう。

 クリッカが獣人なんてカテゴリーなら、また少しは違うのかもしれんが。

 いやいや、フィクションじゃあるまいし。


「あの、トールさん。抱くのですか?」

「抱かないからな」

「抱いても問題無いと思いますが」


 マデレイネは心配してるが、アデラは気にしないのか、抱かせようとしないで欲しい。なんか、思考がクリスタに近い気がしてきたぞ。

 もしかして学者肌の人ってのは、変態的な思考をするのか。


 クリッカを洗い終えると風魔法を使ったのか、自ら羽を乾燥させているようだ。

 吹き上がる風は温風になっていて、気持ち良さそうに乾かしてるし。


「凄いですね。まるでドライヤーです」

「便利だよなあ」

「あの、ドライヤーって何ですか?」


 疑問を抱くマデレイネだが説明するのも面倒だ。

 だが、代わりにアデラが説明してくれるようで。


「温風を吹き出し主に髪を乾かす道具のことです」

「あるんですか?」

「この世界には無いですね」

「この世界?」


 こうなるんだよ。クリスタに説明する時も困ることが多かった。

 すぐ疑問を抱くからな。


「いずれ発明されます。その時に、ああそう言うことだったのかと」


 現時点では概念だけは考えられている、と言って誤魔化したようだ。

 マデレイネが俺を見てるが説明しないぞ。俺が説明するともっと意味不明になる。


「あ、また」

「魔素不足からでしょうね」


 抱き着かれ唇を奪われ、ついでに魔素も奪われているのだろう。まあ、奪われたとしても体が消滅することは無いし、遠慮なく持って行ってくれ。

 それにしても、実に堪らん感触だな。これが化け物だとは思えない。

 ああでも、ラミアは凄く具合がいい、なんて言っていたな。化け物の中には、人を虜にして養分にする奴も居るってことだ。クリッカが同じとは思わんが。


「トールさん。また」

「しっかり反応してるのです。抱いてしまえばよいと思いますよ」

「無い」


 今はな。これでもし人の言葉を話すようになったら、その時はどうなるかは分からん。本気で迫られたら抗えないかもしれないし。

 女性に迫られると弱いからなあ。見た目だけとしても。


「あ、こら」

「まあ。繋がるのですか?」

「あの、トールさん」


 どうやら感情に反応してしまったようだ。俺がエロいことを考えると、クリッカが触発されるのか、股間を自分の中に収めようとしてくるし。

 このままだと繋がってしまいかねない。

 入れようとするクリッカを躱し逃れると、やはり悲しげな表情を見せてくる。


「諦めた方が良いと思います」

「いや、他人事だと思って」

「トールさん。今夜は私とです」


 俺だけじゃない。もうひとりエロい思考の持ち主が居る。マデレイネだ。だから余計にクリッカが発情するのだろう。

 まずは俺が冷静になれば状況の改善は図れる。鎮まれ、俺。

 それにしても全裸の女性二人とクリッカ。揃いも揃って体がエロ過ぎるんだよ。

 これ、以前の俺だったら抗えずに、全員とこの場で繋がったかもしれん。


「良し」

「あ、トールさんのが」

「繋がらないのですね」


 やらん。

 クリッカは見た目は人っぽいが人ではないからな。


「マデレイネ。部屋に行こう」

「あ、はい」

「アデラはクリッカを連れて行ってくれ」

「仕方ありませんね」


 モンスターと人の交尾。貴重なシーンを拝見できるかと期待したそうだ。

 しなくていいって。


 バスローブを羽織り部屋に行くと、さっさとバスローブを脱いでしまい、ベッドに体を横たえるマデレイネが居る。実に扇情的なスタイルと美貌の持ち主だな。

 まあ誘ってるわけで。

 風呂場の一発で収まるわけがない。この世界の女性は旺盛過ぎるからな。

 結局、しっかり頂いてしまい、実に満足げな表情を浮かべるマデレイネだった。


「さっきは焦りました」

「何を」

「モンスターとしてしまうのかって」

「しないぞ」


 暫し余韻を楽しんでいるとドアがノックされ、夕飯の支度ができたようだ。

 服を纏い部屋から出ると、待ってたのかよ。カーリンも相当な好き者だな。聞き耳立ててたりしないよな。


「お愉しみでしたか?」

「事後だ」

「そうですか。明日は遠慮しません」


 カーリンの案内で食堂まで行くと、他の宿泊者が数名程度は居るのか。冒険者、ではないな。普通の市民と言うよりは少し裕福そうな。


「客が居るんだな」

「少ないですけど泊まる人は居ますから」

「金持ちなのか?」

「商船の人たちですね」


 他には行政関連の職に就く人や教会関係者とか、自由農民だったりするらしい。更には他の町の商人も泊まることがあるそうだ。自由農民ってのは、中世末期以降に領主の支配から、事実上独立した農家のことだな。この世界にも居るようで。ただ、代わりに化け物の脅威と自力で戦う必要はある。領主による庇護は無い。時に冒険者に頼ることもあるのだろう。

 一般的な町人の旅行者は、もっと安い宿に泊まるとか。このホテルの宿泊費は負担できないのだろう。素泊まりで二万だからなあ。


 出された料理は以前来た時と同様、見た目も味も申し分ないものだ。


「凄く美味しいです」


 マデレイネは感心しながら舌鼓を打ってるようで。

 確かに美味いんだよな。香辛料を使いブイヨンだの、きちんと作っているからだろう。塩も潤沢にあるわけだし。

 しっかりした味付けに慣れると、ベルマンの薄味に耐えられなくなる。

 あっちは塩ですらケチるからだと思う。まあ高額だろうから已む無し。


 カーリンの給仕により食後に出されたのはコーヒーだ。


「これ」

「分かりますか?」

「コーヒーだ」

「姉さんのアイデアです」


 転生者だからな。知らないはずがない。いや、俺の元の世界と同じ嗜好品ってのも、偶然とは言え出来過ぎだとは思うが。

 俺の淹れたコーヒーより雑味が少なく、香りの立ち方もいい。上手く処理してるのだな。そうなると焙煎機やミルもあると踏んだ。あとで譲ってもらえるか聞いてみよう。もしかしてサイフォンとかあるのか? だとしたら期待大だな。


「トールさん。この黒い液体は」

「コーヒーだ」

「飲めるのですか?」

「苦みや幾らかの酸味はあるが、慣れれば美味いぞ」


 砂糖とミルクも入れれば、口当たりも良くなると言うと試すマデレイネだ。


「美味しいです」

「だろ」

「トールさん。いろいろご存知なのですね」


 この世界の住人じゃないからな。

 やはりアデラの存在は大きい。

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