Sid.10 元案内嬢で現受付嬢と
ギルドの業務が終了するまで、まだ時間があるようで「あの、少し話し相手に」なんて言ってる。
暇そうだものなあ、このギルド。
あ、そうだ。
「冒険者って何人くらい残ってるんだ?」
「今はメランニーヴォの各クラス全部で二十五人です」
一等が十五人。二等が五人で三等も五人だとか。
依頼はほぼ無くなっていて一等冒険者は、いずれは商船で活動する海上護衛者に転向予定だとか。
ダンサンデトラーナ近郊は魔素が極端に少ないのか。化け物の発生が極端に少ないのと、時々現れる化け物も弱いらしい。少し腕に覚えのある人でも倒せるとかで。
むしろ盗賊の方が厄介で、そっちの方は領主の私兵が対処しているとか。
「じゃあ、冒険者ギルドなんて不要じゃ?」
「戦争の際に少しでも出す必要があるみたいです」
ああ、そう言うことね。
冒険者を前線に立たせて軍の損耗を抑えたい。要するに鉄砲玉だ。領主にしてみれば一応、国の方針に従うってことで、冒険者をごく少数残すと。
使えるか使えないかなんて、一切関係無いのだろう。
「他の冒険者はどうした?」
「農奴になった人が五十人くらいです」
他は他所の町へ行ってしまったらしい。冒険者のまま他所に行ったのが二百人程度。他は引退したり兵役に志願したりだそうで。
ごっそり人が居なくなったが、治安は逆に良くなったそうだ。食い詰め冒険者による犯罪が無くなったのだろう。
実に世知辛いなあ。
「ただですね、エストラに寄港する船は」
「ああ、クラーケンだな」
「ご存知なので?」
「討伐依頼を受けたからな」
驚いてるなあ。
「ここからも冒険者を出すか、なんて話もあったそうですけど」
力量は遠く及ばず海戦に不慣れ。役に立たず足を引っ張るから、送らないで欲しいと言われたらしい。
ラスムスの判断だな。無駄死にするだけってことで断ったのだろう。
まあ俺には遠慮なく押し付けてきたが。
お陰で事前準備の必要性に迫られたがな。さっと行ってサクッと、なんて海の化け物相手に通用しない。
「あの、トール様のパーティーで受けたのですか?」
「いや」
「え、あの」
「俺ひとり、と言うかクリッカと二人だけ」
死にますよ、と本気で心配されたが、レールガンと空さえ飛べれば勝ち目はある。
何も海上で戦う必要はない。海の上じゃ何もできんだろ。
「ところでクラーケンって大きさは」
「あの、ご存知でないのですか?」
「見たことはない」
軽くため息を吐きながらも胴体と足を含め、全長五十メートルはあると言う。
巨大すぎるな。ちょっとやそっとの攻撃じゃ、大したダメージも与えられそうにない。そうなると小さな弾芯だと、蚊に刺された程度のものかもしれん。
やはり十キロ程度の弾芯は必須だろう。敵の巨大さを考えれば、百キロ程度はあった方がいいと思うが、さすがに無理だろうし。
百キロの弾芯だと据え置いて、陸上からの発射になりそうだし。砲身自体も二十メートルとか。
無理だ。
「どうやって倒すんだ?」
「倒せないですよ」
「じゃあ、やられっぱなし?」
「逃げるしかないです」
海上護衛者ってのは、もっと力があるのかと思ったが。
これは根本から考えないと駄目か。五十メートルの巨大な相手。撃ち捲れば徐々に弱らせることはできるだろう。だがレールガン自体が持たない。
船に載せてとかでも、反動が大きくなり過ぎて船自体が沈む。
陸上で固定砲台にする必要がある。
原理は単純でも大きな砲になると、作るだけでも何か月も掛かるな。
「この世界に火薬って無いのか?」
「黒色の粉末ですか?」
黒色火薬だ。それならあるのか。
威力はたかが知れてるが、それでも無いよりはまし、と思う。
「それもだが」
「も?」
「TNTとかニトログリセリンとかスラリー爆薬とか」
「えっと、言ってる意味が分かりません」
駄目だ。黒色火薬程度しか存在してない。
アデラに確認だ。作れるならば作ってもらった方がいい。レールガンで傷を作り、そこに爆弾投下で傷を広げれば、幾ら巨大でも倒せると思うからな。
俺がレールガンで傷を作り、クリッカに爆弾投下をさせる。それで上手く行くはず。
マデレイネを見ると少々膨れっ面だ。
「どうした?」
「もっと、ロマンティックな話がしたいです」
分からない話や冒険者の話ばかりで、退屈してしまうそうで。もっと甘美な話がいいってことか。
女性相手にする話題じゃなかったな。アデラやクリスタなら問題無くとも、普通の女性には意味不明な話だった。
已む無し。
マデレイネを見つめると「トール様。そろそろ時間ですので」なんて言ってる。
「終わり?」
「はい。アデラスソーブルムですよね」
宿泊費用は、なんて言ってるから俺が出すと言っておく。
業務終了次第着替えて、ホテルに行き朝まで過ごすのだと。旺盛だよなあ、この世界の女性って。
まあでも、マデレイネは抱きたいと思ってしまった相手だ。何せ美形だし。豊かそうなバストに形の良いヒップ。潤んだ瞳はエロいし。しかも濡れやすいときたもんだ。
少しして「業務終了ですので、戸締まりをして着替えて来ます」だそうだ。
外に出て暫し待つことに。
「お待たせしましたぁ」
軽そうな足取り。そして零れそうな胸が揺れ動く。今夜のためにお洒落してみたらしい。
上半身は体にフィットし胸元が強調されたチュニック。装飾の施されたコルセットを巻き胸を押し上げてるし。ロングスカートはざっくりとプリーツが施されてる。
まあ、この世界では割と目にするスタイルだな。頑張ったんだろうけど。
しかしだ、マデレイネは素のままで充分美しい。きっと裸体も美しいのだろう。
「ギルド長は」
「居ません」
「え」
「私が名目上ギルド長で受付兼務です」
実質のギルド長は現在、領主が兼務しているらしい。まずギルドに顔を出すこともないし、何かしら指示があるわけでもないそうだが。稀に指示書を携えた領主のメイドが来るくらい。
ギルド職員も居るには居るが、非常勤らしく普段は居ないそうだ。
まじで、この町には冒険者が不要ってことか。
腕を取ろうとしてクリッカを見るが「あの、クリッカさんでしたっけ」と、気になるようだ。俺にへばりつくように寄り添ってるからな。腕を絡めようとして邪魔だと思ったんだろう。
「甘えん坊だから大目に見てくれ」
少し不満そうだな。
ハーピーだと知れば恐怖に慄くのだろうけどな。まあ近くバレるだろうから、ここで口にすることはしない。
暫し並んで歩いていると、華美な装飾が施された外観を持つホテルに着く。
重厚そうな扉を開け中に入ると、奥まった場所にある受付カウンターにカーリンが居る。
傍まで行くと「トールさんは無料でもいいんですけど」とか言ってるし。
「宿泊費用程度は払う」
「姉さんが無料でって言ってたんですけど」
「いろいろ手伝ってもらうからな。宿泊費は全額出す」
一泊食事なしで、ひとり十シルヴェルだそうだ。二万円程度だな。
「朝食は五百コッパルです。夕食は千五百コッパルです」
五百コッパルだと千円程度だ。どっちも付けるのか聞いてくるから、朝晩付けてくれと言っておいた。
元の世界のホテルと同じ感じだな。アデラが転生者だと分かる。
代金は先払いだそうで。
ウエストバッグを漁るが、コーヒーの実を買ってしまったせいで、残金が少ししかない。殆どの金はミリヤムに預けてるし。
「後払いってできるか?」
「手持ちが無いのでしたら無料で」
「いや、あとで払う」
気にしなくていいと言ってるが、払うべきものは払う。
部屋の鍵を手渡され、カーリンはアデラを呼んでくるそうで。クリッカがなあ。たぶん大丈夫だとは思うが、俺から引き離されて寂しがらないか。それが少し心配ではある。
アデラを連れて戻ってくると「ではクリッカさん。私とご一緒しましょう」と。
俺を見て眉尻下げるクリッカが居る。首を横に振るとアデラに付いて行くようだ。
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