Sid.5 鉱山都市で宿泊する

 門衛に絡まれはしたものの、無事町に入ると山肌に多数の穴。どうやら住居や出入り口のようだ。

 建物もあるのだが、多くは倉庫やら作業場だそうで。

 入って少し進むと商人が説明してくれる。


「左側の塔のような建物が高炉ですね」


 レンガ造りの塔のような建物と、その周囲に作業場であろう建物がある。高炉は鉄鉱石を銑鉄にするものだな。爆風炉とも言うそうだが。

 他に反射炉や精製炉もあるとかで。反射炉は青銅を溶かすためのものだ。つまり、この鉱山では鉄、銅、錫が産出されるってことだな。精製炉は錬鉄を作るためのものだ。日中であればハンマーの打撃音が鳴り響くそうで。

 産出された鉄鉱石は精錬が成され、錬鉄として出荷しているらしい。

 以降の加工は出荷先の町に居る鍛冶屋の仕事だな。


「ここでは剣だけではなく刃物全般も製造していますからね」


 錬鉄を加工する職人も多数居る。錬鉄以外にも製品になったものを買い付けて、町まで輸送し販売店に卸すそうだ。

 兵士や騎士が使う剣は首都近隣で製造されるとか。錬鉄を運ぶのは首都近隣の貴族専属運搬者らしい。そこに商人が介在する余地はないそうで。

 軍需品に関しては貴族が選定した業者になるってことか。

 一般に出回るものは冒険者向けだ。


 商人から「ウーツ鋼の剣も用意できますよ」と言われた。

 ウーツ鋼って、もしかしてダマスカス鋼のことか? 製造はあれか、るつぼ。この国でも生産できたのか。


「高耐久性と切れ味が衰え難いですからね」


 冒険者には最適だろうと。


「まあ、英傑様の場合は背負ってる剣が規格外なので」

「ブロードソードなら予備にあってもいいかもしれん」

「他に剣士の方も居るので持たせても良さそうですね」


 ソーニャの剣だな。ミリヤムのプギオもウーツ鋼になれば、戦闘自体も少し楽になるか。あとは手入れの問題もあるし。


「三種類」

「はい?」

「俺とソーニャ、ミリヤムにそれぞれ」

「ああ、そうですね。では話を通しておきます」


 俺の場合は剣よりダガーだな。ついでに頼んでおこう。

 ただし、貴族や王族向けの工芸品として作られているため、極めて高価になるそうだ。金の心配は要らんな。船を使わず蛸の化け物を倒せば、最大の百五十グルドは入る予定だし。

 商人と俺の会話は他のメンバーには理解がしづらいようだ。さしものクリスタも炉の知識は無いようだな。揃って無言。商人と話がしやすくていいのだが。


「宿泊先ですが」


 坑道内に複数あるそうだ。

 商人のあとを付いて行き、坑道内に入るとダンジョンと思わされる。

 テレーサとソーニャが壁を見て少し驚いてるな。


「ダンジョンみたい」

「リュースモッサが生えてる」

「それはですね」


 ヒカリゴケを坑道に移植したらしい。適度な湿度と温度の条件を満たすことで、定着してしまえば勝手に繁茂するそうだ。


「移植できたのか」

「苦労したそうですよ」

「じゃああれか、リサンデマルムも」

「それは無理だったそうですよ」


 光る鉱石はやはり無理なのか。明かり事情を一変させると思ったんだが。

 至る所に支洞がありドアがある。これらが全て部屋ってことか。坑道を掘り進めると同時に部屋も作ったらしい。


「ここと、この上、更に上に宿があります」


 ドアの前には看板があり「Hotell」と記載されている。


「私はここにしますが、英傑様ご一行は?」

「全員纏めては無理じゃないのか」

「そうですね。空いてても二部屋とか三部屋かと」

「じゃあ上の階を当たってみる」


 商人と御者とはドアの前で別れ、上の階を目指して坑道内を進むことに。

 ひとつ上に階段を使い上がると無数のドア。中を進むとホテルと記載された看板がある。ドアを開けると正面にカウンターがあり、おっさんがひとり立っていて目が合った。


「泊まりか?」

「七人なんだが」

「四人部屋二つ空きがある」

「じゃあ、それで」


 四人でひと部屋を使う場合は、ひとり頭、十シルヴェルだそうだ。日本円で二万円。三人だと十一シルヴェル。掘り進める手間を考えれば高い、とは言えないのか。石を積み上げて作る家より、圧倒的に手間暇掛かってるだろうからな。

 照明にヒカリゴケを使ってるし。なぜヒカリゴケかと言えば、温度と酸素の消費の問題だろう。

 因みに元の世界のヒカリゴケは、光っているわけではない。弱光を反射して光って見えるだけだ。

 こっちの世界のヒカリゴケは文字通り光る。不思議だ。


 料金は先払いで財布を預かるミリヤムに払ってもらう。

 支払いが済むと、おっさんがカウンターから出て、部屋に案内するようだ。


「こっちだ」


 一旦部屋の外に出て複数ドアが並ぶ坑道内を少し移動する。


「ここと、そっちだ」


 受付のある部屋から繋がってるわけじゃないのだな。ドアひとつに部屋ひとつか。

 用がある時は受付部屋に来い、と言って元の部屋に戻った。


「さて、部屋割りだが」

「トールと一緒がいい」

「クリッカと俺はセットだからな」


 万が一を想定し、暴れるクリッカを魔法以外で制圧できる、となると。


「今夜はミリヤムとソーニャだな」

「トールぅ。あたしと一緒」

「テレーサは制圧できるのか?」


 クリッカを見て「無理」とか言ってるし。ガビィは怖がるし腕力は皆無。クリスタもまた腕力が無いに等しい。ソーニャとミリヤムになるんだよ。

 俺が制圧するのが一番確実だが、俺に対してだけは従順だからなあ。さらに言えば俺が制圧するとクリッカは即死だ。軽く殴ったつもりでも、きっと拉げる。

 と言うことでソーニャとミリヤムに決まった。


「エストラに行ったら大部屋を貸し切る」


 それまで我慢しろと言っておいた。

 渋々部屋に篭もる面々だが「クリッカも抱くの?」と抜かすテレーサだ。


「抱くわけ無いだろ」

「抱きそう」

「無いって」

「トールさんに節操は無いです」


 クリスタまで。

 幾ら節操無しでも化け物だっての。抱けるかっての。股間は人と相違なかったが。胸も人と相違なく柔らかかったが。

 羽があって爬虫類の如き脚だ。どう見ても人じゃないからな。


 部屋に入ると期待してそうなミリヤムだな。ソーニャより旺盛だし。

 クリッカを他所にさっさと服を脱いで、ベッドに腰を下ろし「抱いて」と言ってる。コロコロした体形は悪くない。ソーニャ程には筋肉質でも無い。適度に女性らしさがあってな。

 ソーニャも服を脱いで「あとでいいから」だそうで。

 やはり控えめな乙女だ。そこがまた愛しさを感じさせるんだよな。


 結局、ミリヤムを先に抱いてソーニャも抱いてしまった。

 まじで節操無しだよな。

 クリッカの黄色い瞳がずっと俺を見ていたのは気になったが。何を考えているのかは分からない。もしかして何をしているか、理解しているかもしれない。してないかもしれない。

 言葉を発してくれればなあ。今はまだ、そこまで知能は無いのだろう。


 眠りに就くと覆い被さる感覚で目が覚めた。

 室内は窓が無いせいで朝なのか夜なのか分からん。

 だが、覆い被さる存在はすぐに分かった。クリッカだ。一応服を着せているのだが、下は穿いて無いようで、股間が俺の眼前に晒されてるし。

 どうやって脱ぎ捨てたかは知らん。人と相違ないよなあ。しかも未使用だ。


 起き上がるとクリッカも目覚めたようだ。


「パパぁ」


 パパ、だもんな。抱けるわけ無い。

 顔を摺り寄せてきて甘えてくる。

 ベッドから出るとソーニャもミリヤムも、まだ寝ているようだな。

 そっと部屋の外に出ると坑道の突き当たりから、陽の光が見える、と言うことは朝なのだろう。

 部屋に入ってクリッカに下着を穿かせ、外套を纏わせるが少し嫌がるんだよな。だが、そのまま羽やら脚を見られると「モンスターだ」なんて大騒ぎになるし。

 今はまだ口外できない。貴族が自慢げに披露したら、その時はクリッカをお披露目できるだろう。


 部屋のドアがノックされ開けるとテレーサだ。


「トール。今日の予定は?」

「鍛冶屋を探す」

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