Sid.4 鉱山都市に到着した
昨晩は久しぶりのフェリシア、と言うこともあってか、ソーニャが気を利かせてくれたようだ。クリッカを宥めつつ、俺とフェリシアから距離を取っていた。放っておくとクリッカが俺の側に来るからだ。
そう言えば、ソーニャはかなりクリッカを制御できるようになってる。当初は俺にしか懐かなかったが、最近ではソーニャにも笑顔を見せるし。相性の問題なのか、それともソーニャの母性なのか。
朝になりソーニャに気遣ったか聞いてみると「気持ちは分かるから」だそうで。
やはり乙女なソーニャだな。
フェリシアの気持ちを汲んでいたのだろう。他の女性たちと異なり気遣い上手だ。
ホテルの食堂で他の面子と合流し、朝食を済ませると商人とも合流。同じホテルに泊まっていたはずだが、商人はどこで朝飯を済ませているのやら。
外に出ると、すでにホテルの前に馬車が用意され、御者のおっさんも軽く挨拶をしてくる。
「では、グルヴスタッドへ向かいます」
「ほんならみんな乗ってごしなぃ。出発すーよ」
今日も御者のおっさんは訛り捲ってる。
二台の馬車にそれぞれ分乗し出発するが、フェリシアが「依頼もあるので、また来るのですよね」と言ってるから、四、五日後には戻れると思うと言っておく。
「また抱いてくださいね」
手を振り笑顔で見送るフェリシアだ。
商人がにこにこしながら「さすがは英傑様です。モテ方が半端ではないですね」とか言ってるし。「世の全ての女性を虜にできそうですな」とか、幾らなんでもそこまでじゃないだろ。
馬車が動き出すとフェリシアが走り出す。
「忘れてましたけど、ハンナがトールさんと」
ああ、そう言えば妹が居たんだっけ。今度来たら抱いてもらうとか。以前来た時はまだ十八とか言ってたな。若い。とは言え、ガビィもクリスタも十代だ。もう抵抗はないぞ。
並走するフェリシアには戻って来たら考える、と言っておくと立ち止まり笑顔を見せ手を振っていた。
商人がにやにやしてるし。
「やはり魅力がおありですね。私も女性だったら虜になっていますよ」
笑っているが、いや、勘弁してくれ。
まさか、この商人、俺を狙ってるとか。いや、さすがにそれはないか。同性に興味があるとは思いたくないし。
「ああ、ご心配なさらずに。男色の趣味はありませんので」
「だ、大丈夫だ。そこは心配してない」
なんだか気になる含み笑いをしてるし。本気で男色だと怖いけどな。
まあ俺を指名するのも、能力を高く評価してるのはあるだろう。損失を極めて低く抑えられるのだから。
エストラを出て何度かの休憩を挟むが、その際にリーリャユングフルのメンバーは、魔法の練習をするようだ。
自発的に練習していることで、徐々にだが能力も向上している。
ガビィには新たに魔法を覚えて欲しいと思うのだが。その前に不発にならないよう、確実に魔法を発動させられないとな。クリスタの機嫌が悪くなる。
ガビィを除くメンバー全員が、火炎魔法のフランマを使える。
それ以外は各々風系、氷系、水系など個人の特性だろう、反映された魔法を習得した。威力は俺と比較しちゃいけない。それでもクリスタは魔法使いだけあって、ブリクストの威力は増してきている。唯一雷系を使えるからな。いずれはブリクスネスラグも使えるようになればと思う。ブリクストは単体相手。ブリクスネスラグは複数を同時に攻撃できる。
休憩を終えさらに進むと山道となり上り坂が続く。
鉱山都市ってことだから山なのは分かっていたが。
「馬は大丈夫なのか?」
「問題ありません」
「俺が乗ってると負担が掛かるだろ」
降りて歩いた方がなんて言うと。
「帰りはもっと重くなるのです」
だから気にせず乗っていればいいそうだ。
あと数時間で日も暮れそうだが。
「この先に宿泊できる場所ってあるのか?」
「山の中腹辺りにグルヴスタッドがあるので」
夕暮れまでには到着するらしい。
暫く山道を登り続けると、気配察知に引っ掛かる存在が居る。
「馬車を止めてくれ」
「何か居るのですか?」
「少し大きな何か、だな」
商人が御者に止まるよう指示すると、馬車が停止し俺が降りるとクリッカも付いて来るし。まあ馬車に残るわけもないのだが。
後方からソーニャたちも降りてきて「何か居るの?」と聞いてくる。
反応から見て野生動物のようだ。危険はないな。
「たぶんヨートだ」
「ヨート?」
「捕まえれば食料になりますよ」
ヨートってのは鹿のことだ。
すぐ処理しないと食えたもんじゃないだろ。まあその辺はソーニャたちは慣れてそうだがな。
急に暴風が吹き荒れる状態になったと思ったら、クリッカが鹿に向かって飛び出すし。まさか食うつもりか?
「あ、クリッカが」
「様子を見てくる」
凄まじい勢いで鹿が居る場所に飛んで行くクリッカだが、側まで行くと鉤爪で引っ掛け飛び上がってる。
体高二メートルはありそうな、巨大な鹿なのに軽々と持ち上げられ、角を掴まれた鹿は暴れるも逃げようがないな。そのまま上空まで飛ぶと落としてるし。
地面に激突し死んだようだ。
「クリッカ」
俺の声に反応しこっちを見て、にこにこしながら頭を差し出してくる。
これはあれか、会話内容を理解し食材として、自らが獲りに行き褒めてもらおうと思ったとか。一応、頭を撫でてやるとご機嫌な状態だ。
後方からクリスタとテレーサが駆け寄るが「落としたんだ」と言ってる。
「会話内容を理解できるようだぞ」
「え、そうなの?」
「知能が発達してきてるのでしょうか」
きちんと意思疎通が図れるようになれば、俺の考えていることが実現可能になるな。重量物も問題無く持ち上げられる。巨大な鹿だ。体重は四百キロを超えるだろう。それを軽々だからな。
あとで、どこまで意思疎通が図れるか試しておこう。
鹿はテレーサとクリスタが、その場で解体し肉の状態にして、俺が魔法で急速冷凍して馬車に積み込んでおく。
クリッカは鹿肉なんて食わないようで、興味を抱かず俺に寄り添う状態だ。
「便利ですね」
「何がだ?」
「魔法ですよ。肉が凍ってます」
「少しの間なら保存が効くからな」
椅子代わりに使っている空の木箱に、肉を詰め込んでおくが、これなら数時間程度は持ちそうだ。
再び移動を開始し日が暮れる頃に、グルヴスタッドに着いた。
鉱山都市、と聞いていたから、もっと規模が大きいのかと思ったが。
「狭そうだな」
「町の規模は大きくは無いですが、切り崩した鉱山内に住居を構えてますから」
鉱山内に住居を構えている理由は、温度が一定に保てることと、外敵の侵入を防ぎやすいからとか。出入り口の広さは人で二人通れる程度。大型の化け物は入れない。
複数個所に出入り口を設けてあるそうだ。全ての出入り口には分厚い木戸があり、雨風や小型の化け物の侵入は防げるらしい。
掘り進めた分だけ居住エリアが広がるそうで。まああれか、シェルターみたいなものか。化け物が跋扈する世界だからなあ。
「人口も五千人は居ますよ」
「そんなに居るのか」
外から見るのとは異なり内部は広いらしい。
暇そうにしていた門衛に身分証としてタグを見せるが。
「スーペラティブ?」
「一応」
「胡散臭いな。身分詐称は強制労働だぞ」
「ああ、問題ありません」
商人が身元を保証すると言っている。
どうやら冒険者より商人の方が、信頼されているようで。まあ冒険者なんて根無し草だからなあ。
「まあ商人の顔を立ててやるが、嘘だったりしたら」
「彼の功績は称賛に値しますから」
「そう言うのであれば通っていいぞ」
俺だけなら信用されなかったか。
他の面子は銀のタグってことで、そのまま通されたようだ。
商人が「銀のタグの方が良かったですね」と言ってる。以前、商人に渡された友人のタグだけどな、戦闘中に紛失してしまった。それを商人に言うと「已む無しですね。英傑様が居なければ全て滅んでますから」だそうで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます