Sid.1 鉱山都市へ向かう道中

「威力が凄いですね」

「まあ、不思議ではあるが強力な魔法を使えるようだし」

「育てたのは英傑様ですよね」


 ハーピーの卵から孵して育てたというか、勝手に育ったというか。

 魔法で強烈な竜巻を発生させ、化け物を上空まで浮かばせると、鉤爪の付いた脚で蹴り落とす。勢い落下する化け物は地上で拉げるわけだ。

 犬の化け物やゴブリン程度なら、簡単に飛ばされ落下させられる。


「クリッカでしたっけ」

「名前は必要だし」


 呑気に会話をしている相手は、すっかり馴染みとなった商人だ。俺だけを指名してくるからな。報酬も高額だからありがたい。

 現在絶賛、化け物と交戦中なのだが、俺と商人と御者は呑気に観戦中。馬車の荷台に腰を下ろしリーリャユングフルのメンバーと、クリッカの戦闘を見守っているわけで。


「妙に可愛らしえ顔をしちょーモンスターだなぁ」


 相変わらず訛りがあるな、この御者は。


「もう抱えたんか?」


 抱くわけ無いっての。幾ら可愛らしい顔をしていても、中身は化け物だからな。さすがに俺が幾ら人間離れしていたとしても、だからと言って化け物を抱く趣味は無いぞ。


「抱かないけどな」


 先陣切って突進するのは剣士のソーニャだ。俺が使う予定だったブロードソードを、器用に使い熟して化け物を薙ぎ倒してる。結構な重量があるはずなんだが、さすがに鍛えられたのか、筋力も技術も向上したようだ。

 小柄な体格ながら盾役として、後方に控えるメンバーを守るのはミリヤムだ。

 軽量運搬賦役、即ちスカラリウスではあるが、近接戦闘も熟せるし万能型なんだよ。プギオを使いダンジョンで力量を発揮する。

 後方からは魔法使いのクリスタが魔法で、逃げようとする化け物を倒す。

 以前は頼りない魔法の威力だったが、俺の指導と言うか、勝手に理解して威力が上がった。今じゃ町から町への道中で、俺が戦闘に参加する必要すらない。


 更に後方に控えて支援魔法を使うのは、俺の正妻となったガブリエッラだ。

 歩き回る相手に対して足を滑らせ、体勢を崩し時に軽度の拘束により、動きを一時的に封じている。

 だいぶ、魔法を使うことにも慣れたようで何よりだ。

 暇そうに戦闘状況を見ているのは、回復職のテレーサだな。時々振り向いて俺に笑顔を見せてるが、ちゃんと戦況を見てろっての。


「それにしても、さらに強くなってますよね」

「揃って精進してるからだと思う」

「指導者が良いからですね」

「いや、俺は何もしてないし」


 今回最初の目的地である鉱山都市、グルヴスタッド。その道中で何度か戦闘を熟す。

 パーティーの連携も取れて、効率よく化け物を退治できてる。

 時々魔法が不発になりクリスタに舌打ちされるガビィだが。ガビィってのはガブリエッラの愛称だ。元貴族ってこともあって、自分で戦闘をすることもなく、側付きの兵士におんぶに抱っこだった。俺と一緒に行動するとなれば、後方で見てるだけでは意味が無い。

 ゆえに支援魔法を教えた。何とか様になってきてはいる。


 ああ、クリスタはガビィを少し嫌ってる節がある。可愛らしいところもあるのだが、元であれ貴族ってのがどうにも耐え難いらしい。貴族が嫌いってのも分かるのだが、ガビィも馴染もうと努力してるし、そこは認めてやってもと思う。

 あ、少し違うのか。

 胸だ。クリスタはちっぱい。対してガビィは爆乳だからなあ。しかも俺の知る女性の中で最大級だ。巨大すぎるばるんばるんを持ってる。嫉妬もあるのだろう。

 夜は可愛らしい声で鳴くぞ。


 戦闘が終了したようだ。

 クリッカが俺の前に下りてきて、頭を差し出してくる。これは撫でろってことで、撫でてやるとご機嫌になるからな。

 懐き方が半端無いのは、きっとインプリンティングの効果だろう。

 脚と羽以外は人と相違ないクリッカだ。隠せば人と見分けが付かない。町に入る時は外套を纏わせ誤魔化すわけで。


「トールぅ。あたしも撫でてよ」


 甘えてくるのはテレーサだ。メンバーが殆ど怪我をしなくなり、テレーサは暇を持て余すことが多くなった。やることと言えば戦闘終了時に剥ぎ取りをするくらい。

 ぐいぐい頭を差し出してくるが。


「あのなあ、子どもじゃないんだから」

「トールってばクリッカばっかり可愛がってる」

「いや、それは認識違いだ」

「トール。抱いたりしないでよね」


 そこは大丈夫だ。クリッカを抱く気にはならん。幾ら見た目が可愛くても化け物だからな。

 ましてやクリッカにとって、俺は親と認識されてるからな。親が子と事に及ぶのかってことだ。


 戦闘終了後に剥ぎ取りが終わると、グルヴスタッドに向けて出発する。

 道中、あまり強い化け物に遭遇しない。フルトグレンの閉鎖中のダンジョンは、大型で強い化け物が跋扈してるけどな。あくまで一般的な冒険者にとってだ。俺から見れば簡単に倒せる程度の相手でしかない。

 ああ、そうだ。魔法学院の連中が魔石を取りに、なんて今ごろフルトグレンのギルドに話をしてるかもな。

 連絡手段はたぶん無いだろうから、帰ったら相手してやればいいか。


 日が暮れる前にグルヴスタッドへの経由地であるエストラに着く。

 エストラは港町であり風光明媚な観光地でもある。白壁の建物が多くサントリーニ島のイア地区の如しだ。来た当初、そんな印象を持ったが、二度目でもやはり同じ感想を抱く。夏は裸の男女が浜辺で寛ぐ、いや、せっせと愉しんでいたんだったな。


「宿の予約は取ってあるので、ご一緒しましょう」


 御者が馬房に馬を入れ馬車をヴァンシュス、まああれだ、キャリッジハウスだな。そこに馬車を収めると、商人に瀟洒な外観を持つホテルに案内されたが。

 ああ、そうだ。


「ちょっと冒険者ギルドに寄って行きたい」


 この言葉に即座に反応するのは、クリスタとテレーサだな。


「受付嬢ですね」

「抱くんだ。あたしたちを放って」

「いや、挨拶だっての」

「いいのですよ。抱いても」


 代わりに自分たちも混ざるからと抜かす。

 来たんだから挨拶くらいはしても、と思うんだが。別に抱く気はない、とは言い難い。ここのギルドの受付嬢はフェリシアだったな。白い肌にヘーゼルカラーの瞳と髪色。豊かなバストを持ち美形だったからなあ。

 迫られると断り切れない。


「トール様。ここの受付嬢とも懇意なのですね」


 軽い嫉妬か? ガビィが拗ねた感じで言ってるし。


「挨拶だけだから」

「遠慮しなくていい。あとでしっかり抱いてくれれば」

「そうだね。止めても無意味だし」


 ミリヤムもソーニャも女遊びを咎めはしない。いや、遊びのつもりはないんだが、客観的に見れば遊びだよなあ。節操無しだし。


「まじで挨拶だけ」

「トールが挨拶だけで済むわけ無いし」

「ですね」

「いつものことだから」


 なんかシモ関連の信用は皆無だ。確かに行く先々で事に及んでいれば、そうなるのも分かるのだが。

 だがな、俺にも言い分はあるぞ。言わないけどな。

 とりあえずギルドに向かうと、後ろからぞろぞろ付いて来る面々だ。後ろで「美人に弱い」とか「年増でも受け入れる」とか「すぐ靡く」だの。

 かまぼこ型の屋根を持つ白い大きな建物。開放された出入り口の前に立つ。ここがギルドの建物だな。


 中に入ると右側奥にカウンターがある。そこに、居た。俺を見て一気に華やいだ笑顔を見せるが、すぐにクリッカを見て怪訝そうな表情になったぞ。

 バレたか?


「あ、あの。その腕」


 クリッカじゃなくて俺の腕か。しっかり寄り添ってるからな、クリッカが。そのせいで勘違いしただけか。

 義手を見せてもげたと言うと。


「え、あ、あの」


 狼狽え卒倒しそうなフェリシアが居る。


「と、トール様。な、何があると」


 例の存在の件は、ここでは話してない。面倒だな。

 あまりあちこちで口にしたくない。どこで話が漏れて貴族に伝わるか分からんし。知ってるのはベルマンとレードルンドだけだろう。

 ダンジョンでってことにしておくか。

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