第278話 番外編 ナヒョウエ①
今日もゲーム内でゴザエモンへと向かう。
ゴンちゃんのスクロール屋だ。
ゲーム内でも課金店舗は数々あるが、そこで購入した物がリアルアイテムボックスからも取り出せるのはゴンちゃんの店だけだ。
タウさんやゆうごも色々と検証はしたらしい。
「結局、ゴンザレスさんの店だけでしたね」
「異世界帰りが店主ならあるいは、と思ったのですが……。何か条件が足りないのか」
「ええ。
タウさんにそう言われて俺たちは課金エリアの店舗を購入していた。うん、課金だからお支払いが発生するのだが、もはや昔の通貨は一切使えない今の世の中である。
キングジム様にお願いをしてちょちょいとね?
そんな日々を送っていたある時、物凄い事が発覚したのだ。
今まで『閉店中』だったナヒョウエに、マルクが入れたのだ。客としてでなく、店員側からだ!
「父さーん、バナナ売ってる!こっちでもバナナ売ってるんだね」
最初は何を言っているのかわからなかったか、春ちゃんがマルクの後ろから覗き込んで固まった。
春ちゃんの驚愕の顔、珍しい。え?顔よりこっちに来い?
皆がマルクの後ろからパソコンを覗き込んだ。マルクはなんか居心地が悪そうに身体を
「今までずっと閉店中だったナヒョウエに、マルク君が入れたんです」
「表はまだ閉店中ですよ?」
パソコンでゲームにインしたカセがナヒョウエへ飛んだらしい。
「どうして入れたのでしょう……」
皆がパソコンを持ってマルクの近くに寄ってくる、俺もログインしてナヒョウエへ飛んだ。
確かに『閉店中』だ。
「マルク、どうやって入った?」
マルクは何を怒られているのかわからずモジモジしている。いや、誰も怒ってないからな?ビックリしてるだけだ。
キヨカが連絡したのかタウさんらも集まってきた。
涙目になったマルクを慌ててフォローする。
「大丈夫だ。誰も怒ってないぞ? マルクのミラクルをみんなが知り
たくて集まったんだ」
「……ミラクル?」
「そうだぞー。ミラクルだ! 誰も入れんかったナヒョウエに入れたんだ。どうやったんだ?」
「んとね、裏から入った。前はいつも裏から入ってたでしょう?」
前はいつも裏から……。マルクのその言葉で記憶が
「そうだ……、そうだった! マルクは共同経営者、つまりあっちじゃ店主のひとりだった!」
「カオるん?」
「カオるん!」
あ、これはタウさんらがちょっと怒ってるな、俺に。
もっと早く思い出せ?はい、すみませんでした。
「マルク、中から店舗を開店に出来るか?」
「うん」
マルクが何かを操作すると、今まで『閉店中』だった店の入り口が『開店中』へと変わった。
「おお!」
「それで? カオるん」
「ああ、ええと何年前か忘れたが、俺が店長にも店員にも戻れなくなった事件」
「ええ、覚えています」
「あの時な、確か……、店主として残ったのがリドル君とアリサとマルクだったかな。そんで店員としてあっちゃんとロムだったか。何年も前だから今はわからんが」
「つまり、マルクは店主のまま、こちらへ転移したと。ゴンザレスさんと同じ状況ですね」
「リドル君と言うのはあちらの世界の方ですか?」
そっか、
「やまと商事の22階フロアごと転移した話はしたよな? その時一緒に転移したあっちゃんの旦那が、別のゲームで転移してたんだよ。凄い偶然であっちで再会した」
「ああ、その話ですか。中松……そうちゃん、と言う人でしたか?」
「そう、中松あつ子さんの旦那で
「向こうの現在がどうかはわかりませんが、ゴンザレスさん同様、マルク君がこちらへ転移する時はナヒョウエの店主だった。それでマルク君も入れたのですね」
そっか、『勇者』はゴンちゃんだけでなくマルクもだったのか。
ナヒョウエが『開店中』になった事で表から客が入れる。タウさんとゆうごがさっそく入っていた。
ちなみに店舗は狭いのでゴンちゃんの時と同様にふたりも入ればいっぱいである。
タウさんもゆうごもナヒョウエの商品を購入しているようだ。
タウさんはテーブルにバナナを置いた。
「買えました、いえ、リアルに持ってこれました」
「えっ、これ、ナヒョウエで買ったバナナか? 他の品は?」
「ナヒョウエの店舗で購入したバナナです。他の品はありませんでした」
「マルク君、何か他の品を作れる? 料理系のやつ」
ゆうごに優しく言われてマルクは何やら一生懸命操作をしていた。
「ええと……バナナジュースでいいかな。他は材料が足りなくて」
作りあげたのかマルクがフンスと言う顔をした後、ゆうごがグラスに入ったバナナジュースをテーブルに置いた。
「買えました。自分のアイテムボックスに入りました。取り出せました」
「の…飲んでみろよ」
皆の視線が集中する中、ゆうごはバナナジュースをひと口飲んだ。
「普通に美味しいバナナジュースですね」
「バナナジュースの効果は……確かHPが100増加でしたっけ」
「50だったかな、ゲームでは大した効果がないんで使った事がないです。しかも3分くらいで効果が切れたんですよね」
「リアルステータスは数字表記が無いのでわかりませんね」
「普通に美味しいジュースって事でいいんじゃないか? それよりそのグラス」
「ああ」
ゆうごがバナナジュースを飲み干すとグラスが消えた。
「おお!」
「まさにゲームアイテムですね」
やっぱりな。かなり以前だからハッキリと覚えてなかったが、食べ終わったら入れ物が消えた覚えがうっすらとあったんだ。
「カオるん、カオるんはもう店側には入れないんですよね?」
「そうなんだよ、すまん……」
「いえ、それより、異世界で操作した店舗の事を思い出せる限り話していただけますか?」
うえぇ、無茶を言う。物覚えが悪くて物忘れの早い俺に何年も前の事を語れとは。
「あー、ええと、店舗内には倉庫みたいのがふたつあった」
「うん!今もあるよ」
おう、マルクが助けてくれる、有難い。
「そんで、ひとつは『製造倉庫』だ。そこに必要な材料を入れて製造する。確か……材料以外は入れる事が出来なかったはずだ」
「うん、そこにバナナ入れた」
「もうひとつは『保管倉庫』だな。製造された商品はこっちに自動的に移動してくる」
「うん、バナナジュースがこっちに入った」
「保管倉庫は……確か結構重宝してた。出来上がった商品だけでなく、製造予定の材料を突っ込んでおいたり、他に何でも入った記憶がある。ゲームでも異世界でもなんか色々突っ込んでたような?」
「と言う事は、今も色々と入っているのですか?」
「ううん、空っぽだったよ? あ、んと、バナナだけあった」
「ああ、じゃあ、俺が店を抜けた後にあっちゃんが出してくれて渡されたかも知れん。うん、そんな気がしてきた」
「カオるんの事だからゴミ入れまくって怒られてそうだな」
ミレさん、失礼な!………………あ、うん、そうだった。怒られたんだ。ミレさん見てたのか?
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