第159話 基本はここから⑤

 結局、LAFのサーバーの移動が済むまで、俺たちはフリーになった。

 最初はゆっくりするように言われたが、タウさんらが休みなく働き続けているのに、俺だって何かしたい。


 これは、『誰かが不幸だから幸せになれない』の法則とは違う。タウさんが忙しいから自分も忙しくなろう、では断じてない。


『頑張ってる人を見ると自分も頑張りたくなる』芋づる式の法則だ。

 それでマルクとキヨカに相談をして、久しぶりに物資収集の旅に出る事にした。



「どうせだから、新血盟員達も誘いましょうよ」



 そうだな、そうしよう。


 現在『ハケンの砂漠』は、盟主が俺カオ。

 マルク(WIZ、ELF)

 キヨカ(KN、ELF)

 高沢彩たかざわあや(WIZ、ELF)

 加瀬かせ(ELF)

 奈良なら(ELF)

 球磨くま(ELF)

 洸太こうた(ELF)


 すっかり忘れていた高沢彩たかざわあやさん、キヨカの職場の後輩さんだ。フットワークが物凄く良いらしい。

 洞窟内でも、ギルドの依頼をしょっちゅう受けているそうだし、クラブが8つ、サークルが2つの掛け持ちで洞窟拠点を満喫されていた。


 カセ、ナラ、クマは最近加入した警視庁トリオだ。ええと、ナラが鹿狩りで北海道に実家。

 カセが車でクマがバイクの、どちらも暴走族。(勝手な想像)


 そして近所に越してきた洸太こうたにせがまれて、つい昨夜ハケン加入を承認した。洸太こうたは、ゆうごの親友である大地の従兄弟だ。今はマルクの弟分だそうだ。


 いっ時俺の『ハケン』に入っていた棚橋たなはしドクターと伊藤いとうドクターの妻は、『医療の砂漠』が出来てすぐにあっちに移動した。というか、棚橋たなはしが『医療』の盟主だ。


 それから翔太しょうたの従兄弟、つまりカンさんのお兄さんの子供である田中亮治たなかりょうじと、憲鷹けんようの高校の先輩の桜井拓巳さくらいたくみも、今はカンさんの『筑波つくばの砂漠』に入っている。



 他にもゲーム内で『ハケン』に加入申請はよく届くのだが、知らない人は皆断っている。

 そう言えば、タウさんやミレさんとかどうしてるんだろう。血盟未加入だと他の血盟のメンバーとかが覗けるのだが、血盟に加入してしまうともう、他所の血盟は覗けないのだ。


 みんな、血盟員を増やしているのかなぁ。そのうちゆうごやアネに聞いてみよう。




 さて、血盟で物資収集の旅を考えていたが、流石に洸太こうたは連れて行けない。危険すぎる。

 マルクもまだ12歳だが、マルクはリアルステータスもあるし、異世界のダンジョンやらで魔物と戦った経験もある。しかし洸太こうたは普通の小学生だからな。


 だが、ひとり除け者にして内緒で行くのは気が引ける。とりあえず血盟オフ会を開いた。場所はうちだ。

 まずは自己紹介からだな。



「ええ、こんにちは。ハケンの砂漠の盟主のカオです。職はメインがウィズ、サブがエルフ…他です。魔法が使えます。……次、どうぞ」



 隣に座っていたマルクを手で促した。



「こんにちは、マルクです。職はお父さんと一緒でウィズです。最近エルフも始めました。魔法使えます!」



 マルクの横に座ってた洸太が立ち上がった。



「こ、こん、にちは、洸太こうた、です。三年二組です。あ、今学校はないです。ゲェムはエルフです。まだレベル8です」


加瀬かせでーす。職はエルフです、始めたばかりで、ええとレベル言った方がいいのか?」


「どっちでもいいよ」


「そっか、エルフを極めたらウィズやってみたいなぁ、よろしく!」


球磨くまです。同じくエルフだ。よろしく」


奈良ならです、同じくエルフです。あ、属性は風だ。弓特化型にする予定だ。リアルでも弓は得意だ」


高沢彩たかざわあやです、こんにちは。アヤちゃんと呼んでくださいね。ウィズで作ったんだけど、エントの関係で急遽エルフのレベル上げをしています。現在エルフは48よ」



 そこで皆からスゲェと声がかかった。



「よろしくね。あ、キヨカちゃんと同じ会社で働いていました。後輩でーす」


「キヨカです。よろしくお願いします。職はメインがナイトで、サブにエルフを作りました。あ、リアルステータスがあります」



「いいなぁ、キヨカちゃん。私もリアルステータス欲しいー」


「なぁに? リアルステータスって」



 洸太こうたに聞かれてアヤが分かりやすく説明をしていた。



「じゃあ、今のところハケンでリアステがあるのって、カオさん、マルク君、キヨカさんの3人かぁ」



 そうだった。物資収集に行こうと思っていたが、皆にアイテムボックスがあるわけではない。うっかりしてた。

 今日は別の事にしよう



「リアルステータスが無いにしても、ブックマークはした事あるか?リアステ無くてもブックマークが出来る場合もあるんだ」


「試してみましょうよ」



 キヨカが皆にブックマークのやり方を説明した。それから俺がエリアテレポートで何度か皆にテレポートの経験をさせた。

 数回くらいでは無理かもしれないが、地下シェルターの自衛隊でも出た人はいる。何がキッカケかは全くわからない。


 だが、驚いた事に、カセ、ナラ、クマに、アヤと洸太まで、ブックマークが出来たようなのだ。

 検証のためにテレポートリングを貸そうとしたキヨカを止めて俺はスクロールを渡したのだ。


 地下シェルターの自衛隊のフジが、テレポートリングを喪失した事件を思い出したからだ。

 確かにスクロールは一回の使用で消費して消えてしまう。リングなら何度でも使用可能だ。


 しかし、フジのように、何が起こるかわからない。キヨカには絶対に指から抜かないように後で言っておこう。


 それにしても洸太こうたまでとは!

 これは即タウさんに知らせ…、忙しいと申し訳ないので、念話ではなくフレンドメールで知らせた。

 『知ってる情報かも知れない……』で始まり、『返信不要』で閉じたメールだ。


 ちゃんと、届いたか不安ではある、ステータスのメールってめったに使わないからな。

 そう思った途端にタウさんから念話が届いた。何で!返信不要なのに!



『ありがとうございます。北海道からこちらへ来たばかりの洸太こうた君にブックマークが可能とは! これは早々に拠点の避難民の方達にリアルステータス有無やブックマークについてを確認した方がよさそうですね』


『ビックリしたな。気がつかんかったぜ』


『そうなんだー』


『うちの血盟にも調べるよう翔太しょうたに伝言しました』


『あっちでは出てなかったのに……』



 タウさん、盟主パーティのグループ念話を使ったな、みんなから即反応があった事に驚いた。

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