第154話 現実とゲームと⑥
俺たちは、北海道の主要都市のブックマークに続いて、
15分もしないうちにタウさんから運転手の交代要員と共に地図が送られてきた。(呼ばれて俺が迎えに行った)
この先は北海道の内陸を攻めていくのでカイホさんは引きあげた。代わりにきたのはサッチョーさんではなく、警視庁の若者3人だった。
警視庁………シチョー…だと、市長と紛らわしいな。まぁいいか。本物の市長が俺らと行動を共にするはずがない。よし、彼らはシチョーABCだ。
だが宣言はしておこう。後でスピード違反がどうのこうのと言われたくない。
俺はABCに向かってはっきりと断言した。
「言っておくが、この車は法定速度?を守らないぞ。それが嫌な…」
「もちろんですよ」
「チンタラ走ってなんかいられないです!」
「速度守って国が守れるかあああああ!」
「そうだそうだ!」
「犯人捕まえるのにノンビリ走ってられっかぁー!」
「一応、コレ、持ってきました!」
そう言って差し出されたのは、アレだった。あのよく刑事物のドラマで見るやつ。犯人を車で追いかける時に出して車の上に乗せる、赤く点滅するランプ。
「おまっ、どこから持って来たんだよ!」
「青もありますよ。ほら、あの日居たフロアの奥に倉庫があって記念に貰っ…預かっておきました!」
今、貰ったって言いかけたよな?
シチョーBが満面の笑みで俺にソレを差し出してくる。一応貰っておく。アイテムボックスへ突っ込んだ。
しかし『警視庁』なんて怖そうなイメージだったが、うん、暑苦し…熱くて良い若者みたいだな。そうだよな。あの日もボートで救助頑張ってたもんな。
カイホさんらもサッチョーさんらも良いやつだったしな。肩書きで差別をしたらアカンな。
肩書きで言ったら俺なんか『派遣』だからな。
シチョーACは早速キヨカと地図を広げて話していた。
キャンピングカーが動き出す。
運転席にシチョーA、助手席にシチョーC、テーブルのあるソファーに向かい合って俺、マルク、キヨカ、シチョーBが座った。
アネはテーブルのないソファーに座っている。カスパーは相変わらず後ろのベッドに腰掛けている。
「まずは主要の20番までどんどん行きますね」
助手席からシチョーCが振り返って声をかけてきた。慌ててシートベルトをはめた。
「運転上手いですね、キャンピングカーなのに」
キヨカの言葉に隣のBが説明をしだした。
「俺ら大きいのも転がしますから。
かせ…ってのが運転席にいるシチョーAの事か?そしてBよ、お前が何になりたいとか興味ない。
「そうなんですねー。私あまり車とかバイクは興味がなくて。ごめんなさいね」
人の良いキヨカにしては珍しくバッサリだな。
キヨカはテーブルに地図を広げて俺とマルクに説明を始めた。
「本来周る予定の20箇所、右側の7つが除外となりましたので、13箇所。既に7箇所は済んでいるので、残りは6箇所」
「6箇所……案外少ないな」
「ええ、けれど、1箇所1箇所が離れていますから。それと内陸や都市部は今までのようなスピードで走り抜けられないかもしれないですね」
「そうですね、きっと障害物も多いでしょうね」
シチョーBも地図をジッと見ている。
「俺、バイク趣味って言ったでしょ。実は地図を読むのも好きなんです。まぁ、今はこんな状態だからネットも通じないし無線使ってもどこからも情報貰えたりしないんだろうけど、紙の地図だけでも充分ですよ。任せてください」
うおおおお、ここにもまた居たよ。地図読めるやつ。
何なんだよ、何でみんなそんなに地図読めるんだよ。俺か?俺が悪いのか?
思わず落ち込みそうになった俺を救ってくれたのはマルクだった。
「そうなんだー! じゃあ
「えっ、ほんとに?嬉しいなぁ。カオさんチームに入れてもらえるなんて! それってハケンの砂漠に入れてもらえるって事ですか!」
斜め前からBが俺の目を掴んで離さない。いや、目を掴んでって変な表現だが、目線が外せない感じだ。これはイエスと言うまで見つめ合うふたりだ……。
「カオさんチームって言い方、面白い。クマさんチームとかウサギさんチームみたい」
キヨカがケラケラと受けていた。俺は……、はい。負けです。視線を下に落とした。
「……おう。いいぞ。
「えっ!本当に? やったぁ! 言ってみるもんだなー、伝説のクランに、しかも右足で加入だぜ!」
スマン……、どこから突っ込んでいい? 伝説のクランって何?
右足加入って何だ?…………俺の知らない世界。世界は広い。
「ええー!ちょっとズルいぞ!クマシゲ! カオさん、俺もハケンに入りたいです!俺車転がしが得意なので是非カオさんの左足に!」
「ちょっ、
助手席から後ろを向いて叫んでいたシチョーCだったが、足元にあったらしい荷物から小型の弓矢を出してこちらに掲げた。
「俺、趣味はアウトドアと言うか、実家の爺さんに山ん中連れ回されてたので、猪や鹿くらいなら狩れます! 俺、カオさんの弓になります!」
…………俺の弓になる? スマン、意味わからん。それに俺の弓は既にある。エルフのロングボウやハンターボウ、エルブンボウもあったな。
「いや……、俺の弓は間に合っている」
そう答えたら、Cが涙目になった。いい歳した男が泣くなよ。
「わかった、弓はともかく、3人とも
「カオさん、私が控えておきますね」
「キヨカ、ありがと、頼む」
うん、今言われても覚えておけない。今だってAがカセでBがクマ?Cは何だっけ?さっき本名の自己紹介はあったが、流してしまった。
「運転しているのが
キヨカは俺にわかるように聞き返してくれた。カセ、ナラ、クマ……何か特徴が欲しいな。
クマが熊のような大男なら覚えやすいのに、なんかシュッとした優男だ。
ナラって奈良か?はっ!ナラは鹿狩りが得意と言ったよな?奈良の鹿、覚えやすい。………ちょっと待て、奈良の鹿って神様だから狩ってはいけないんじゃないか?
「ナラ……さん、奈良は鹿狩りって禁止されてんじゃないか?」
「俺、奈良県在住じゃないですよ。うちの実家は……実は、北海道です」
えっ、それって、ここって事か?
あれ?
周りの皆も一瞬沈黙になった。警視庁の仲間たちも知らなかったのか。
「あ、でも今回運転手チームに参加したのは実家とは無関係ですよ」
「お前……、言わなかったから知らなかったぞ」
「北海道のどこなんすか」
「いやいやいや、俺の実家の事はいいんよ。だってみんな実家や家族と会えないままじゃん。俺だけ帰りたいとか絶対言わないから」
絶対言わない…つまり言いたいけど言わないって事か。
仲間も家族と会えないから自分も言い出せない、その気持ちはわかる。けど、それはダメだ。
俺はこないだの病院の駐車場での自慢大会で思った。
大変だから我慢。
みんな大変なんだから我慢。
みんな不幸だから幸せになっちゃいけない。
全員で不幸になろう。
それ、絶対に違うから。我慢は人間の敵だ。頑張ると我慢は別物だと思ってる。我慢してまで頑張ってはダメだ。
「おい、奈良! 俺のハケンチームに入るんだよな!」
「えっ? はい。入れてもらえるなら入りたいです!」
「わかった。許可する。その代わりに言え」
「……? 何を……、俺、犯人じゃありま…」
「奈良、お前の実家だ! 北海道のどこだ」
「え……ですからそれはいいと」
「血盟主の命令だぞ? 言え、どこだ」
ナラが、俺から目を離して下を向く、そして顔を上げて運転席のカセを見て、それから後部座席のクマを見てまた下を向く。
「
クマくん、ちょっと黙ってて?
「ナラ、実家は北海道のどこ?」
ナラは眉間に皺を寄せて苦しそうに口を開いた。
「す、すみません。
ナラは助手席で身体を小さく屈めた。
逆に皆の身体から力が抜けた。
「カオさん、この先、
「馬鹿者、
車内に笑いが起こった。助手席からは啜り泣く音が聞こえた。
「あのさ、カセ…さんと、クマこうさんも、実家とか家族の住所はちゃんと教えておいてくれ。今は北海道だから直ぐには無理だけど、うちの血盟はホワイトだから社員への待遇もちゃんとするつもりだ」
「ありがとうございます」
「ありがとう…ざいます。あのでも、俺、クマコウさんって、コウは名前じゃないです。
「さっきかせさんがくまこうって呼んでたよ?」
マルクも聞いてたよな。うん。呼んでたよな。
キヨカは地図の端っこに漢字を書いた。
「これで、
そうだったのか。それにしてもクマの漢字が難しすぎるな、これで『クマ』って読むのか。知らなかった『たままろ』と読むとこだぞ。クマコウめ!
俺たちはブックマークの旅を進める。カセの運転技術は凄いのかもしれないが、激しくカーブするのが続くと酔ってきた。
俺、こんなに乗り物に弱かったか?
ソファーから後部のベッドへ移り寝ていたアネも、何度か転げ落ちて怒りながらソファーへと戻ってきた。
だが、誰に対しての文句言わずに座っていた。俺はキヨカから酔い止めをもらって飲んだ。酔ってるのって俺だけ?
実家の両親や祖父母、姉達一家などは無事だった。エントのミサンガや弓矢セットを渡した。
それと、薪と魔物植物の核も渡す。
奈良の実家は
実家に残るかと聞いたら、後ろに居た家族から罵倒が飛んできた。
「こんな事で家に帰ってくんな!軟弱もん」
「お前、警視庁の意地見せてみろ」
「バッチが泣くぞ」
奈良の姉ちゃんらと妹が強い。
「警視庁はもう無い…」
「アホか、無くなった今だからお前が頑張らんか!」
「俺、公僕なのに、こんなに優先されていいのか」
車が走り出した後に
「ナラ、お前はもう国から給料貰ってないからいいんだよ!うちが給料代わりに現物支給していると思え。ほら、バナナもやるから食え」
「うめぇー」
「これがあの、噂の王様バナナか!」
え、何?王様バナナって?
その日の深夜に予定のブックマークが終わった。3日はかかると思っていたのだが、裏道だの最短の道だので、陽がくれてからも後少しなので、と周ってしまった。
いや、闇夜のドライブ怖えええ。時々何かを踏んではバウンドしていた。怖すぎて眠れなかったし酔わなかった。
なななんか生き物、踏まなかった?人じゃないよね?
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