第140話 函館上陸①

 そうして俺たちは函館港はこだてこうに到着した。



 函館港はこだてこう苫小牧とまこまいよりも被害があったように見えた。船があちこちの陸上でひっくり返っている。

 津波の被害なのか瓦礫がれきがあちこちの建物につっかえた状態で固まっていた。


 どこが道路かわからない。



「人はあまりいませんね」


「そうだな、山の方か……」



 タウさんらはステータスのマップで確認をしているようだ。俺も慌ててステータスのマップを開いた。

 確かに近場に俺たち以外の黄色い点は無い。


 ミレさんが言ってた山の方を見る。



「あれが函館山はこだてやまですね。ゆうご君がいるのですよね」



 キヨカが山を指差した。俺はその山近辺やまきんぺんが入るようにマップを指で操作する。

 なるほど、黄色い点が山のそこかしこにかなり固まっているな。しかしここからだと距離がありすぎて、細かいところまでは見えない。



「馬車で行けそうですね」



 タウさんの声に振り返ると、俺らが乗ってきた船はもう仕舞われていた。カンさんが馬車と馬を出している。

 馬車は2台。14人なので2台で乗れるだろう。馬はタウさんとカンさんが出して馬車に繋いでいた。



「皆さん、ここを『函館港はこだてこう』でブックマークお願いします」


「はーい」

「おう」

「オケ」




 馬車が進み出して直ぐに止まった。御者席ぎょしゃせきで馬を操作していたタウさんが大きくため息をついた。何か問題が起きたのか?



「この先は馬車で進めそうもありませんね。申し訳ありませんが皆さん降りて頂けますか?」



 タウさんは念話でもう一台の馬車のカンさんらにも連絡をしたようで、彼方の馬車からもゾロゾロと降り出した。


 そう、目の前には急な坂が立ち塞がっていた。函館港はこだてこうからそれ程進まずにもう目の前に山がある。



函館はこだてはこじんまりとした街なんですよ。路面電車やバスもあり観光客には人気スポットで足で回れるんですよ」



 キヨカは俺とマルクに説明をする。



「人気スポット?」



 マルクが興味津々にキヨカを振り返る。



「ええ。今は火山灰で道路が見えなくなっていますが、恐らくここも本当はちゃんとした道路で、坂を上がるとロープウェイ乗り場があるはずです」



 マルクはキラキラとした目で山を見上げた。降ってくる火山灰で見えにくいが、あの辺りにボッコリとした建物らしき物が見えた。



「こんな大災害の世界でなければ、ロープウェイは函館山はこだてやまの展望台行きで、そこからの夜景がとても綺麗なんですよ。最も今は……ね」



 キヨカはとても寂しそうな表情をした。もしかすると思い出の地……なのだろうか。ええと、その、彼氏さん、とかの?

 そうだよな、キヨカくらいの美人さんに彼氏がいないわけがない。そう言えば彼氏は無事に避難出来ているのだろうか?き、聞きづらいな。セクハラになるかもしれん。聞かんでおこう。うん。



「キヨカお姉さんは夜景観に行った事があるの?」



 マ、マルクくぅん、それ、聞いちゃダメ。



「はい。かなり前になりますが、大学の卒業旅行で友人達とここに来ました」



 そ、そうか。友人か。うんうん。ようキャが行くと言う『卒業旅行』か。俺には縁が無かったが、キヨカは友人も多そうだな。



「カオるん、トルネードでここら辺をちょっと吹き飛ばしていただけますか?」



 タウさんから言われてすぐにトルネを放つ。

 本当だ、広く綺麗な道路が灰の下から現れた。


 それにしても恐ろしく急な坂道だな。これ災害前は普通に車で登れたのか?

 ちゃんと歩道もあるが手摺りが無いぞ?この傾斜は手摺りかロープが必要だろう?何にも掴まらずに進むのは至難の技だ。


 それどころか、この傾斜で直立すると、横から見たらアレだな、あの、マイケルの身体が斜めになるダンス、まさにあの状態だ。



「これは馬車は無理だなぁ。灰でスリップして進まないだろ」


「それどころか下手すると落ちて行きますよ」



 ミレさんやカンさんも近くで坂を見ている。



「足で行きましょう。少し時間はかかるかも知れませんがその方が確実です」


「そうだな」


「カオるん、サモンを出しておいてください。どこから何が襲ってくるかわかりません。皆さんもそのつもりで警戒をお願いします。カイホさん達を中央に、それを囲む陣形で上がって行きます。カオるん、犬も出してマルク君達に付けてください」



 俺はタウさんの指示通り、サモンとイッヌ達を出した。

 それにしてもキツい坂だな。そう思いながら進んでいると先頭を歩いていたアネが俺の側まで下がってきた。



「カオるん、トルネじゃなくてさ、さっき船で出した精霊さんに頼んでこの辺の灰を吹き飛ばしてもらえないかな」


「そうですね、カオるん、頼んでみてください」



 アネとタウさんに言われて俺は精霊を召喚してそれを頼んでみた。すると精霊は何でもないと言わんばかりにささっと灰を吹き飛ばしてくれた。

 俺のトルネのような攻撃ではなく、フワッと?ブワッと?そんな感じで、山の斜面に沿って風を操って灰を吹き飛ばした。



 これ、病院拠点造りの時に思いついていれば……。タウさんもカンさんも同じ事を思ったようで苦々しい笑顔になっていた。


 坂の上、いや、途中か、坂はまだまだ続いているからな、そこにロープウェイ乗り場が現れた。

 しかし当然動いていない。だが、山の散歩道さんぽみちのように蛇行した綺麗な道が展望台へと続いているのが見えた。


 蛇行した道を皆で進む。以前は綺麗な花や木が植えてあったのだろう花壇もある。現在は枯れた木と土だけだが、ヒョコっとエントが頭を出した。エントだよな?


 ヒョコ、ヒョコ、ヒョッコリ。

 火山灰が無くなり、かつ少しの間とは言え上空からの光もある。エント達が集まってきたのか?


 頭を出したエントの近くにいたひとりのカイホさんが、腕を前に突き出した。

 手首には『手作りくらぶ』のエントミサンガが巻かれている。


 エントは手(枝?)をゆっくりとそのカイホさんの手首へと伸ばして、チョンチョンと触れていた。

 そして地面からニョキニョキと本体である身体の大木を表すと、ワサっと揺らしてえだを数本落として拾い、それを彼に差し出した。



「エント エダ ヤル」


「あ、ありがとうございます!」



 カイホさんAは嬉しそうに受け取っていた。あ、スマン。カイホさんの名前覚えてないんだわ、俺。だからAで。



「不思議ですね、エントは何処どこからきたんでしょう」



 カンさんの疑問に皆が頷く。そうだ、どこから来たんだ?ファンタジーな異世界から転移してきたのか?


 もしかして、『地球が大災害に襲われる、地球人が主人公の話』ではなく、これは、『エントが異世界から転移してくる、エントが主人公の話』なのだろうか?



「少なくとも、本州だけにいるわけでは無いようですね。灰さえどうにか出来れば魔物植物を何とか出来そうですが」


「問題はその灰だよなー。こんだけ世界中で火山噴火してると灰をどかしようが無いぞ?カオるんが1万人くらいいれば別だが」


「カオるん、分裂出来ないの?」



 アネさん、無茶を言う。俺は人間だっつーの。



「分裂どころか、伸びたり縮んだり巨大化したり変身したりなんて出来ないからな!」


「変身は出来るじゃん」

「変身は出来るだろ?」

「変身は出来ますね」


「いや、それは、君らも出来るからな」


「えっ、カオさん、変身出来るんですか?」



 あーっ、カイホさん達が期待の目になってしまった。

 カイホさん達はさておき、エントにはお礼にヒールとライトをかけた。今は頭上から光があるからライトは必要ないかもと思ったが、とりあえずセットで。


 すると、山肌の土の部分から、ヒョコヒョコと顔(頭?)を出すエント達。俺はサモンに『敵対の意志』を感じるモノへは攻撃するように指示を出してある。

 頭を出す植物に反応をしないので、それらはエントなのだろう。テッペンにひとつだけの実もなってるしな。


 カイホB〜Gさんは、さっきのAさんの真似をしてエントにミサンガを見せてえだを貰って喜んでいる。

 ただ、彼らはまだリアルステータスの表示がないのでアイテムボックスもない。それらを預かるのは俺らの役目だった。


 アイテムボックスの中で元から持ってたのと合体するので面倒なんだよな。元の数字を覚えるかメモるしかない。

 見かねたキヨカがカイホのえだを預かってくれた。


 えだを貰った時の喜び方を見ていると、もしかしてミサンガが全然行き渡らず、カイホさんらも苦労しているのかな。洞窟に戻ったら優先して渡すように『うれとま』の婆ちゃん…姐さん達に相談してみるか。


 その話をカイホGにしたら、ミサンガは全員持っていると言われた。



「実は、養老ようろうの砂漠に弟子入りしていまして、矢を作りたいんです」



 養老ようろうじいさん達、弟子取ってたのか。

 その後、タウさんに急かされて展望台への遊歩道ゆうほどうを急いだ。結構キツい坂だった。マルクは途中途中でエントにヒールをするついでに俺にもヒールをしてくれた。



 タウさんらはマップ確認をしつつ、展望台への遊歩道から人が集まっている方向へと進む。



「この先辺りだと思うのですが……」


「だな、ゆうごんちは展望台までは行かない坂の途中とあったよな」


「ええ、ただ避難民が展望台にいるのでそこと往復しているともありました。ゲームで繋がらないと北海道組とは連絡が取れないのが痛いですね。とりあえず黄色い点が多く集まっている展望台を目指しますか」


「そうだな、そこでゆうごの家を知ってる友人に会えるかもしれない」



 そうして俺たちはマップの黄色い点が集中している場所、函館山はこだてやまの展望台に到着した。

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