第131話 血盟増える

 病院の増築は着々と進んだ。マルクが皆にウエイトライトをかける。そして俺は病院の駐車場でトルネードを数発撃つ。

 壊されないように病院の建物にはカンさんのアースドスキンを予めかけてある。


 そして若い力達が、俺が出した鉄屑を運んで行く。鉄屑=車なんだが、嬉々として車を持ち上げて運んでいく姿を見ると、魔法のウエイトライトの凄さを思い知る。


 マルクは現在MPを回復中だ。俺の盾『マナクリスタル』を貸している。これを持っているとMPの回復速度が速まる。


 魔法のメディテーションが使えればもっと良い、メディテもMP回復を早めてくれる魔法だ。しかし異世界でマルクはメディテを習得していなかった。と言うか魔法書が無かったのだ。


 仮に魔法書があったとしても、地球では魔法書の使用が出来なかった。持っている魔法書でマルクに試させたがダメだった。因みにWIZ以外の者にもレベル1のライトの魔法書を試させたが、やはり全くダメだった。


 ムゥナではWIZでなくてもライトの魔法書が使用出来たのに。言っても仕方がないか、あっちはもろファンタジーな世界だったからな。



 俺はキヨカの指示に従い場所を変えつつトルネードを放っていく。キヨカはタウさんらと打ち合わせ済みだ。


 病院上空は青い空が見え、久しぶりの光が大地に降り注いでいる。病室の窓がひとつ、またひとつ開いていく。入院や避難をしていた患者や家族、看護師は窓に張り付いて久しぶりの光を嬉しそうに浴びている。


 一応、敷地内は警備員(警視庁やらの人達)が、魔物植物の侵入に備えて盾を構えている。遠くから松がボックリを投げてきても盾で防ぐ為だ。


 病院のエントランスにあった植木(現在は灰で枯れてしまったが)の灰が吹き飛んだ土から、エントがニョッキリと現れる。エントは攻撃の意思が無い証拠に枝を差し出している。


 エントの枝。


 ゲームでは弓矢の矢を作る材料や、エルフの装備作成の材料のひとつだったりした。

 エルフの森の中心にある巨大なシンボルツリーは、中に入れるようになっており、そこにいるNPC(ノンプレイキャラクター)に必要な材料を渡すと作成をしてくれるシステムだった。


 しかしゲームでもファンタジーでも無い、現実の地球に、何故エントが現れたのかは解らないが、エルフの森もシンボルツリーも無い今、枝は何にも使えない。何処で誰が加工をしてくれるのかわからないままだ。


 加工していない枝は、いくらエントでもただの枝である。せいぜい子供達がチャンバラ(今時はチャンバラとは言わないが)で振り回す程度だ。薪に使おうとしたがこれまた燃えにくい枝であった。


 だが、エントが居ると言う事実、そして『枝』と言う実際の物質がある以上、何かに使えるのだろう。

 もしかすると地球上の何処かに『エルフの森』があったりするのだろうか?アマゾンの奥地とか、シベリアの果てとか…だったら行くのは無理だなぁ。




 「とりあえずくれる物は貰っとけ」


 そんな風に保管していたエントの枝だが、凄い効果が発見されたのだ。


 洞窟内のサークルのひとつ、『手作り暮らし』。

 村のお婆婆ばば、じゃなかった、熟女のお姉さま方の集まりで、エントから貰った枝を細く割いて作った作品、それを身につけているとエントの加護を貰える事が発覚した!


 作品は、帽子、手提げ鞄、リース、紐を使ったアクセサリーの数々など色々だ。


 赤ん坊の手足に編んだ紐を付けておくと、ゲームID(エルフ)が無くてもエントは襲って来ないのだ!

 洞窟外にもお届けしようと、現在『手作り暮らし』サークルは大忙しである。


 エントの枝はとても頑丈な枝で、その割によくしなる。力任せに折ろうとしても中々折れない。割くのにもコツがあるようだ。

 『手作り暮らし』サークルに入る人が増えたが、誰もが出来るわけではない。現在7人のお婆婆ばば…じゃなかった、お姉さま方がエントを使った制作が可能らしい。


 因みにこの7人、ゲームでは『れすぎトマト』と言う血盟を立ち上げている。(砂漠がつかないぞ!)


 洞窟内の避難民でゲームを始める時はタウさんの『地球の砂漠』を一旦経由してもらっている。ステータス表示の可能性が高いからだ。


 しかしこのババらは、チキサバには入らず自分達の血盟を立ち上げたようだ。

 その名も『れすぎトマト』。

 ゲームのレベルは平均23と極めて低い。だが平均年齢は83歳と極めて高い。加入条件は75歳以上だそうだ。



 そして、この『うれトマ』に対抗する血盟がひとつ。

 『養老ようろうの砂漠』。(こっちは砂漠だ……)


 こちらは一旦チキサバを経由して立ち上げた有志5人。5人のじじぃでなる血盟だ。しかもファーストキャラが全員ダークエルフと言う、5人のDEの血盟だ。一応セカンドにエルフは取っているが、5人共にDEのレベル上げに熱を上げている。

 ミレさんの所を何度か訪ねてDEの勉強に注ぐ熱量は半端ない。


養老ようろうの砂漠』

 現在平均レベルは70超えの強者達5人。平均年齢も85だ。『れとま』の83に勝っていると密かに喜んでいるそうだ。


 このじぃさん達はライバルである『うれトマ』のエント製品を使う事を良しとしない。

 自分達で加工してエントの枝から弓矢の矢を作成している。そう、ここにエントのえだから矢を作る達人たつじん達が誕生していた。


 そして洞窟周りの山へ狩りに出ているそうだ。勿論ギルドへキチンと報告をしている。元々、山で猪狩りなどをしていたメンバーだそうだ。現在は猟銃ではなく弓矢を使用している。


 俺はその話を聞いた時から、筑波山は……エルフの森なのでは?と疑っている。一応『養老』の爺達の耳は尖ってはいない……。





 タウさんらは、病院の敷地の拡大と建物の増築を完了した。中身は追い追い整えていくのだが外側をしっかりと造りあげる事が出来て喜んでいた。


 俺とマルク、キヨカは病院建築の手伝いは一旦終了した。


 この病院拠点と洞窟拠点は、筑波山の麓をグルリと4分の1ほど回った場所に位置する。

 タウさんらは、洞窟拠点からここまで地下道を引く予定だと言っていた。すげぇな。



「外を回らずに洞窟と病院を行き来出来たらと思います。カオるんのエリアテレポートを使わずに皆が安心して使用出来る拠点を目指しています」


「そうですね。私達はテレポートリングがありますが、それも5人のみ。テレポートスクロールはいずれ使いきります。自分達の足で移動しなければならない時がやってきます」


「ええ、それまでに出来る事はやっておきたい」



 凄いな、タウさんらはそこまで考えていたのか。俺は自分がWIZで困る事が少ないから、そんなとこまで深く考えていなかった。



「それに、病院側の山の麓にも、拠点として使えそうな穴が大量にあるんです」


「あれは男心をくすぐりますね」



 タウさんとカンさんが見合ってニヤリと、ほんの少し悪い顔で笑った。



「あ、あぁ。手伝える事があったら言ってくれ」



 とりあえずそう言っておいた。


 これはLAF情報なのだが、ジュピターサーバーの自衛隊員達、陸自の砂漠50人全員がレベル45までいってるそうだ。

 海自の砂漠と空自の砂漠が現在レベル30前後らしい。



「ピタ鯖はちょっと怖いよな。恐らく一般人はひとりも居なそうです」


 と言うのはジュピター鯖から戻ってきたまめうさ(桂木)だった。


「あっちは全員念話なのか誰もチャットで喋らないんだよ。話しかけても返事は、はい、いいえだけだぜ?」


「上司に言われているのかもしれませんね、何も話すな、と」


「スマンけどタウさん、俺マースに戻る。このキャラはレベル15エルフだけど今からこいつをレベル上げしてこっちに居させてくれぇ」


「はい、すみませんでした。検証とかも彼方では無理かもしれませんね」



 タウさんと桂木の話を聞きながら、そう言えばとサンちゃんらが気になった。サンちゃんは『空自の砂漠』だったよな?



「空自がレベル30って血盟主はサンバのままだろ? サンちゃんはレベル90行ってたよな?」



「ああ、サンバさん、フジさん、ハマヤさんは血盟を脱退していますね。別血盟に加入しています。ええと……」



 桂木がパソコンを操作して何かを確認している。



「ああ、『国の守護』ってやつに加入してますね。盟主は……レベル46のナイトか。3人ともそこに入っています」


「なるほど。上の指示で逆らえず、話せずってところでしょう。組織ですから仕方がありませんね」


「じゃあ今の陸自の砂漠は全然知らんやつが50人か」


「はい。それと、45超えると『第一陸自』ってとこに移動していますね。それから、レベルごとに血盟を移動させているみたいです。レベル30までは『地面の陸自』、それから『30陸自』『40陸自』と上がっていくみたいです」


「それって、同じ血盟の仲間って感じじゃないじゃないか」


「そうですね。単なるレベルの通り道。近いレベルで切磋琢磨させているのでしょう。ゲームではなく、仕事、ですね」


「うへぇ、楽しくねぇぇ」


「これは完全に上に乗っ取られていますね」


「そう言えばタウさんが言ってた、マースサーバーにもスパイが来てるってやつ」


「ええ、血盟未加入だったプレイヤーはジュピターで血盟加入済みの自衛官だろうと思っていました。けれど、最近はジュピターで未加入でマースで血盟を立ち上げるグループも出てきているようです。先日剣王子から聞きました。鯖の掛け持ち、しかもジュピターとマースの掛け持ちは、恐らく自衛隊でしょうと」


「俺らには動きが見えちゃいますからね」


「ありがとうございます。いつも素早く情報をいただけて助かります」


「マースで何を調べてるんだろう」


「恐らくこちらの情報、レベルとかリアルステータスの情報でしょうね。こちらは皆普通にチャットで話していますから。洞窟の情報も漏れているでしょうね」


「タウさん、漏れると困るか? 自衛隊が敵に回るか?」


「いえ、そこまで国の組織が愚かとは思いたくありません。甘いでしょうかね」


「いや、俺も、信じてる。サンバ達を。それに知られて困る情報はない。誰かが攫われたり此方を攻撃してきたら話は別だが、こっちが気になるなら見にくればいいさ」


「そうですね。疑心暗鬼で敵対し合う事ほど馬鹿らしい事はありません」


「うん、それにさ、先日運んできた警視庁やら海上保安庁やらとかさ、本当はみんな誰かを助けたい人達なのに、線引きで置いて行かれたじゃないか。俺さ、置いていく方も苦渋の決断をしている者も多くいる気がする。船が難破した時に救命ボートに10人しか乗れなかったらさ、助かった10人はきっと苦しいと思うんだ。俺さ、今回の災害で全員助けるのは無理ってなって、じゃあどの手を掴んで、どの手を無視するかって、無視された手の持ち主は怒り狂うだろうけどさ。じゃあ怒られない為に全員で死ねばいいのかって、それは絶対違うと思う」


「そうですね。私達に出来る事は限られている。だから今回も丸の内に取り残された彼らが来てくれた事はとても有難い。LAFの桂木さん達と会えた事も、病院の棚橋さんらと出会えた事も。私達だけでは足りない事を補える人との出会いは本当に有り難いです」


「うん。だから俺、自衛隊との出会いも良いものである事を願ってる。それにシェルターがどうなってるのか誰が居るのか今はわからないけど、『いつか』に繋がればいいなぁ。俺って甘いかな」


「ふふ、私も甘いですよ」


「俺らも甘い砂漠の皆さんと会えて良かったなぁ」



 こんな時代だから、笑って楽しく頑張りたい。だって悲しい事や辛い事で直ぐにどこからでもやってくるからな。

 あぁマルクとキヨカの顔が見たい。


 そう思った時、弁当を持ったふたりがやってきた。



「父さーん、もうお昼にしようよー」

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