第130話 富士山④
それにしても、寒くなったなぁ。
洞窟のライカンの元に訪れて、見張りの2体を労っていると珍しくアネが来た。
「アネ、出かけるのか?」
「うん、ちょっと手が空いたからブックマーク先で……物資を調達してくる」
「ひとりで行くのか?危険だぞ?」
「うーん、ひとりでパパっと行く方が早いのよ。もしも魔物が出てもバシっと倒すか即帰還できるし」
確かにそうだな、テレポートスクロールもそうそう使えないし、リングを持ってない仲間は連れて行きづらいよな。
そう言えば魔物植物はどうなってんだろう。ネットを使えないので情報が入って来ないな。
「店内に植物が入ってくるとは思えないが、気をつけろよ? てか、俺が一緒に行こうか?」
「う〜ん、来てほしいけどカオるんのブックマークがない先だからいいやー」
そうか、チーム別に回っていた先か。ブックマークは行った先で登録するから、当然行った事がない先のブックマークは出来ない。
あのゲームはブックマークの共有とかなかったからなぁ。
「あのさぁ、カオるん……カオるんは頼み事を断らないって解ってて頼むから、頼みと言うか強制っぽい気がして言いづらいんだけど」
いつもハッキリモノを言うアネにしては珍しく口籠っている。
「ん? 何だ? 俺に出来る事だったらやるぞ?」
「うん、あの……、山梨と神奈川の人をエリアテレポートでここまで連れて来てくれないかな。カオるんの神奈川のブックマーク地点まで自力で来れた人だけ、運んで欲しいの」
「おう、いいぞ? ブックマーク地点に来た人だけでいいのか? 来れない人のとこも行くぞ?」
「ううん、それはいいの。それを言うと関東近辺の人全員を救わないとならなくなるでしょう? 私も別に神奈川と山梨の全員を救いたいわけじゃないの。救えるわけないってのもわかってるしね。だから、私も線引きはした。私が引いた線まで来れた人に手を差し伸べるって。でも私の手だと差し伸べても出来る事が限られちゃうんだよね。だからカオるんにお願い。どうか運んでください」
アネが俺に頭を下げた。
「よせよ、頭を下げるな。 アネはアネの出来る事を、俺は俺の出来る事をする。ただそれだけだ」
「うん!ありがとっ!」
アネの頼みを受けてから、避難民が洞窟に入りきるのか不安になった。タウさんに聞いた方がいいか。
「あ、タウさんなら、カオるんがOKなら良いってー」
良かった、タウさんには確認済みか。それにしても現在ネットが不通状態でどうやって現地と連絡をとっているのか不思議に思ったので聞いてみた。
すると、ラジオや無線を利用している、と言った。
なるほど、アレだな。ゾンビ映画とかパニックものでたまに出てくる、『◯◯に避難所がある』と言う情報をラジオで繰り返し流すやつか。
映画や小説だと、主人公達がようやくそこに辿り着いた時にはもう避難所が襲われて無くなってる事が殆どだがな。
今回アネは、俺の了承を得てから『俺のブックマーク』先を指定の場所としてラジオで流すらしい。
幾つかのブックマーク先と、迎えに行く日時等はキヨカと計画すると言っていた。うん、そうしてもらえるとありがたい。
それと物資収集しながら、その辺りの情報も流してくるそうだ。頑張れ。
「そうか、うん、じゃあ気をつけて行ってこいな」
「そうだ!トルネブッパして、この辺をスッキリさせて!」
トルネをブッパ?魔法のトルネードをぶっ放せって事か?唐突だなぁ。まぁいいが。
「おう。トルネェーーード!」
俺の魔法のトルネード、竜巻がこの辺りの火山灰を巻き上げて渦になり、それは空高くまで渦巻いて登っていった。
竜巻が上がった先にあった暗雲も巻き込まれてその上の青空が垣間見えた。
「おお、いいねぇ。雲の上は晴天かー」
アネは嬉しそうな表情をしてテレポートをして去っていった。
洞窟前の崖や階段は灰が吹き飛ばされて(ヤバイ、灰以外も吹き飛ばされた!)スッキリした、が、空に穴が空いている。
空に穴、と言うかまるで台風の目のように空の暗雲に穴が開いたままだ。穴はゆっくりと回っているように見える。そのうちまた塞がってしまうのだろう。
階段は無事だったが、周りの崖に生えていた樹々が多少……結構……かなり、薙ぎ倒されていた。
アネは居ないし、これ、俺が謝る案件だよな。タウさんに自首してこよう。(泣)
念話でタウさんの居場所を問うと本部に居ると言う。話があるので行く事を伝えた。
拠点本部にはタウさんの他にカンさんも居た。
「タウさん、ちょっといいか?」
「どうしました? カオるん」
「カオるんから折角材料の鉄を貰ったのですが、病院の増設は暫く延期ですね、前回よりも火山灰の量が半端ないです」
「富士山以外も流れてきていそうですね。しかも、終わりが見えない」
タウさんとカンさんがため息をついた。頑張っても頑張っても障害が目の前に現れて疲れきっている、そんなふたりに言い出しづらい。
「その……火山灰の事なんだけど、ちょっと洞窟入口まで来て貰えるか?」
不思議そうな顔のふたりをエリアテレポートで洞窟入口へ運んだ。さっき放ったトルネードは、竜巻は収まっていたが空に開いた穴はまだそのままだった。勿論、崖の倒れた樹々も。
それを見て驚いたようにタウさんが俺を振り返った。
「すみませんでした。俺が木を倒しましたー。ごめんなさい」
俺は身体を90度に曲げて頭を思いっきり下げた。そしてトルネードを放った事を話した。
「なるほど、トルネードで巻き上げると、暫くは上空の雲が巻き込まれたままになるのですね」
タウさんもカンさんも上を見上げている。あれ?木は別にいいのか?階段を壊したわけでないからいいのか?
「カオるんのトルネードを使って病院の火山灰を除去出来ますね。この状態がどのくらい保っているのか分かりませんが、病院の増築を進められるかもしれません」
「カオるん、これはいつやったのですか?」
「あ、あ、3分くらいか前か?」
「ちょっと時間を測りましょう」
「ギルドに依頼を出しました」
カンさんがタブレットをしまいながら言った。俺とタウさんの話を聞いて即ギルドに依頼を出すとはカンさん、流石だ。
「空が戻りかけたらカオるんに再びトルネードを掛けてもらえば作業は問題なく進められますね」
「そうですね。病院の増築に踏み切りましょう。絶対に必要になりますから」
「ええ」
洞窟の階段横の樹々を倒した事は怒られなかった。
洞窟の中からギルドの依頼を受けた青年がやってきた。説明をして、空の穴が塞がるまでの時間を測ってもらう。その間、俺たちは他にやる事が沢山ある。
テレポートで本部に戻ろうとして、ふとライカンの居る掘建て小屋を見るとそこに馬が繋いであった。
最近は洞窟内の移動に自転車の他に馬を使う者も出てきているそうだ。洞窟内には馬も数頭飼っているからな。馬の運動も兼ねているそうだ。
勿論、地球産の馬達だ。どこぞの馬場から貰ってきたとか。
洞窟はどんどんと広くなっているので徒歩での移動は大変だそうだ。フリーの自転車もあちこちに設置してある。
さすがに洞窟内で、バイクや車は禁止だ。排気や事故の懸念もあるし、この先ガソリンの入手も難しいかも知れないからだ。
あ、俺が見つけた幾つかのガソリンスタンドは、ミレさんやカンさんを連れていったので、必要な物(ガソリンとか?)は収納済みだそうだ。
本部へ戻るとマルクとキヨカもそこに来ていた。タウさんとカンさんとキヨカは病院拠点の増築について話している。俺とマルクは大人しくソファーに座って待つ。
タウさんがこちらを見てマルクに話しかけた。
「マルク君、確認ですが魔法のトルネードは使えますか?」
「ううん、使えない」
「そうですか、ありがとうございます。では、ウエイトライトは?」
「それは使えます!」
「ありがとう、ではウエイトライトはマルク君に任せてカオるんはトルネードを頑張って貰いましょう」
本部の外、廊下に出るとそこにはガタイの良い若者がズラリと集められていた。先日洞窟拠点に連れてきた警視庁やら何やらの若者達だ。
「病院拠点の増築作業に参加していただく皆さんです。カオるん、『病院ホール』でブックマークがあると思います。そこに全員を運んでください」
「おうよ」
彼らはあっという間に洞窟拠点に馴染んでいた。勿論ゲームでもIDを作成、エルフキャラを作ってもらっている。
ぱっと見30人は居ない。一回で飛べそうなので周りに密集してもらった。うんうん、コナン君やコロンボちゃんは居ないな。
肉壁に埋もれて、ふと見ると、タウさんらは肉壁の外に居た。
「では、ホールで」
「先に飛びますね」
「カオさん向こうで」
「お、お父さん、頑張って」
う、裏切り者ぉ。
タウさん、カンさん、キヨカ、マルクがテレポートをしたのが見えた。俺も急いで飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます