第128話 富士山②
「富士山が噴火しました」
タウさんが静かにそう口にした。その後をアネさんが続けた。
「富士山が噴火した。うちの砂漠が見た」
「アネさんの王家の砂漠は
「うん、だがら慌てて戻ったの。テレポートスクロール使った。私はリングがあるけど皆は無いからね」
「ええ、勿論必要と判断したら使ってください。その為のスクロールですから、使い渋って取り返しのつかない事にならないように。カオるんから預かっているスクロールはまだ十分あります。他の方々も緊急時は即使用するように」
「そんでね、富士山のテッペンじゃなくて、かなり
「位置はどの辺りでしょう、こちら側でしょうか?」
「失礼します!」
洞窟内を徒歩移動していた者らが続々と本部へと入ってきた。
全員が揃うとタウさんはもう一度同じ説明を始めた。
「富士山が噴火をしました。山梨県で救助活動をしていた王家の面々が現地で目撃しました。アネさん、続きをお願いします。噴火の位置はどの辺りでしょうか」
「ええとね、位置は低い、山の
こっちから見たあっち側?
「アネさん達が山梨に居た、そこから向こう側となると……、静岡県でしょうか」
「ハッキリとはわかりませんが、富士山の南西……いえもっと西寄りか」
隼人さんの言葉に各血盟が地図を開き出す、うちもキヨカが大きな地図を広げた。マルクがそこを覗き込む。
「ネットが……酷いな。あちこちからの書き込みで大混乱だ。……恐らく、静岡県側で合ってると思うぞ。そこらの書き込みが酷いな」
ミレさんがパソコンを2台同時に操作しながら情報をあたっていた。
『ヵおっさん、富士山噴火したぞ!とりあえず報告しとく』
自衛隊のサンバから、フレンド念話が届いた。俺はサンバの事をサンちゃんと呼ぶが、サンバは俺の事をカオっさんと言う。おっさんが強調されて『ヵおっさん』と聞こえるのは気のせいだろうか?
サンバからの情報をタウさんらに伝えようとしたが、タウさんへはハマヤから連絡があったようだ。
「今、自衛隊の
そこでタウさんは一度唾を飲み込んだ。いつでもクールなタウさんにしては珍しい。口にするのを戸惑っているよう見えた。
「富士山が噴火しました。…………それだけでなく、西日本の数カ所でも噴火が上がっているようです」
……えっ?
富士山だけでなく?他の山も……噴火?
「あの、九州であった噴火以外もって事ですか?」
誰かの質問がスローに聞こえた。
九州……の噴火以外、……富士山噴火、…………そこ以外も?
「はい。シェルターからの情報なのでかなり信憑性の高い情報かと思われます。以前にあった九州の噴火、そこも再度噴火をしたようです。それと富士山、そしてそこ以外の休火山も噴火が見られたと」
それ……日本、大丈夫なんか?
皆が黙り込む。誰かの荒い鼻息だけが聞こえる。俺か!自分の鼻息だった。マルクが俺の手を強く握る、ゆっくりと振り返ると不安そうなマルクの目と目が合った。
しっかりしろ!俺!
俺はマルクの手をぎゅっと握り返して、一文字に食いしばってた口を開けた。(口を食いしばっていたから鼻で息をしていたようだ)
「ふぅぅ。大丈夫だ、マルク」
俺は笑顔を作ってマルク見る。強張ってたマルクに少しだけ笑顔が戻る。
「日本は火山大国だからな」
「そうだよね、災害王国なんだよね」
「そうだ。そして地震大国なんだ」
「最近は魔物植物国になりつつもあるよな」
ミレさんが笑いながら口を挟んできた。周りを見ると、皆も肩の力が少し抜けたようだ。
「ここら一帯はエルフの森化もしてますからね、大抵の災害は乗り切れますよ、きっと」
「そうだよね、僕らエントと仲良しだし」
カンさんと翔太も笑い合っていた。
「もうひとつシェルターからの情報があります。火山噴火は日本だけではないようです。海外でもいくつか確認されたそうです」
うわぁ、そう来るかぁ。地球が怒って爆発してるのか。
俺らが頑張っても頑張っても仕掛けてきやがる。上がりかけてた皆の笑顔がまた固まった。
「私は、知っていた気がします。あの神託で……」
タウさんがいつものクールなタウさんでなく、細く頼りなさそうな声で話した。
「あちらの世界で、夢で神が見せた光景。戻る地球は人類が激減している、残った者も平穏ではない世界……。走馬灯のように一瞬で流れた風景、私はそれを見た。それでもここに戻った。妻や娘達の元に」
「僕もそれを見ました。それでも翔太の元に戻りたかった。どんなに頑張ってもあの風景を止められないのはわかっていました。僕は翔太とその周りの為だけに頑張る自己中な男ですよ」
「父さん!」
翔太がカンさんに抱きついた。
「俺だって、俺はその走馬灯を見ていないが、俺は芽依と真琴を助けられればいいと思ってたし、今も思ってる」
「兄さん……」
「伯父さん」
「私は見てないけどー、家族と一緒にいれば頑張れる。富士山が噴火しちゃったのは悲しいけど、今まで富士山は何度か噴火してるって話だしそれでも富士山だから!」
「莉緒……」
「莉緒ちゃん」
「タウさん、どこが噴火しても何が起こっても、俺らはいつも出来る事だけするしかない。俺はこっちに戻ってそれを実感した。異世界でウィズだ何だと言っても、結局手の届く範囲しか守れんよ。俺はマルクを守る。それから血盟のキヨカを守る。この拠点の仲間を守る、それだけだ」
タウさんが大きく息を吐きながら皆を見回していた。有希恵さんや美穂さんらがタウさんの後ろにしっかりと立っている。
「そうですね。ありがとうございます。皆さんと仲間で良かった。色々あると思いますが頑張りましょう、守りたい者を守れるように」
「僕、父さんを守るね!」
マルクが大きな声で言った。
「私もカオさんを守りますね!」
「ええっ、キヨ姉、家族よりカオるんを守るんだぁ」
「だって、莉緒なら自分で守れるでしょう?」
「確かにそうだな」
「だなー」
「俺もカオるんを守るぞ?」
「僕も守りますよ」
「私もカオるんをまもりますよ」
「俺も守ろうかなー」
あれ?皆に笑顔が戻ったのはいいけど、何でか俺が守られる側の意見が殆どなんだが?
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