第104話 ファンタジーだけじゃない①

 -------------(カオ視点)-------------



 キックの両親に会ったあと俺達はタウさんらと合流、牛久大仏うしくだいぶつ牛久うしくシャトー、アウトレットへと廻るが俺ははしゃぐ気になれなかった。

 マルクもキヨカもずっと俺のそばに居てくれた。弱い親父ですまん。


 俺がしょげていたので、大仏ではその前で記念写真を1枚撮っただけで終わった。

 その後のシャトーとアウトレットはそれなりの収穫になったようだ。


 アウトレットでの収集後は、馬や馬車を収納して、俺のエリアテレポートで一瞬にして洞窟拠点へと戻った。




 翌日から、計画通りに血盟毎に馬車に乗りブックマーク先へと飛び、収集作業、たまに救助救援を行う計画がスタートした。


 『ハケン』チームが割り当てられた先は、何故か県内が殆どだった。キヨカが持っている地図には細かい印が沢山付けられていた。



「店舗はピンクで、救援物資のお届けは緑のマーカー、救助は赤ペンです」



 地図はカラフルだ。



「青は何だ?」


「青はねぇ、避難場所。でも、ネットにヘルプが載って無いんだって」


「ええ、それで通りかかった時に確認だけしてほしいと。ネットの救援SNSを知らないのかも知れないし、特に問題無いならそのままでと言ってました」


「そうか」


「黄色は先日の牛久うしくのように、幼稚園や高齢者の施設です。確認とフォローを。連れ帰り案件になるようならタウさんに連絡を、と」


「タウさんのチキサバチームも出るんだろ? みんなからの連絡も集中するんじゃ大変だな」


「そうですね。でも出来るだけ新鮮な状態で相談が欲しいそうです。洞窟にはLAFの方も入れ替わりで滞在されているようです」


「ああ、テレポートスクロールを渡したからな」


 LAFの社員さんらは、ステータスが表示されてブックマークも可能だ。リアルのアイテムは所持していなかったので、タウさんがスクロールやポーションを融通したようだ。


 一度俺のエリアテレポートで洞窟拠点へ連れて来たら、想像以上の盛り上がりで、各自が洞窟内に早速個室をゲットしたようだ。

 ただスクロールの枚数がそこまで潤沢じゅんたくでないので(実際はかなりの量があったが渡していないだけ)、その都度つど俺が呼ばれて足代わりに使われている。


「すんませんねぇ、カオさん。いただいたテレスクはいざという時の為にとっておきたいんで」


 そう言ってぺこぺこと頭を下げられたら憎めない、ついタクシーになってしまう。

 まぁ、こちらもLAFのゲーム室を使わせてもらっているからな。お互い助け合いって事で。それとマルク達のレベル上げを手伝ってもらってもいる。



 キヨカとマルクふたりの指示に従って、俺は馬車を繋げたサモンへ命令を出す。


「ここ、先に行きましょうか」


「そうですね、午前中ここらの赤点を回ってぇ、それからこのピンクかな」



 頼りになるふたりと同じ血盟になれて良かった。俺だけだと迷って終わりな気がする。



「あ、ここ、ピンクの後でいいけどもう一度行きたいなぁ」


「あら、意外と近いわね。じゃ、店舗の物資収集が終わったら行きましょうか。カオさん、午前中に救助5箇所を回るつもりです。昼前に終わるようならそのまま近場にお店があるので物資収集をしようと思います。よろしいでしょうか」


「おう、勿論だとも。俺はふたりに着いて行くぞ?」


「それでね、父さん。お店で集めるの終わってまだ時間あったらあの大仏だいぶつ様んとこに行こう?お店から近いの」


牛久大仏うしくだいぶつか?」


「そう。父さん昨日は元気が無くて、あそこであまり見れなかったでしょ? だからもっかい行きたかったの」



 くぅぅ、何て良い子なんだ、俺の息子は。



「ありがとう。うんうんそうだな。牛久大仏うしくだいぶつ行きたいぞ? あそこの大仏様はな、中に入れるんだ。大仏様の中を登れるんだぞ?」


「そうなんですね。鎌倉かまくらの大仏様と一緒ですね。鎌倉も中を登れるんですよ? うちは横浜でしたからよく家族で鎌倉にも行ったんです」


「そうなんですか。鎌倉大仏かぁ、行った事なかったな」


「キヨカお姉さんちにもあの大きな神様の像があるの?」


「ええ、そうよ。でも鎌倉の大仏様は牛久とは違って座っているの」


「へぇぇ座った大仏さま。凄いなぁ。父さんの国は沢山凄い物があるね」




 地図の赤い点の『救助依頼』の場所を回る。


 最初のポイントは、近所の避難所がいっぱいで入れなかった家族だ。家の周りはドロドロの火山灰で自宅も一階は浸水した後に割れたガラス窓から泥水や火山灰が入り酷い状態だ。


 2階には両親の寝室と六畳の和室があった。そこに祖父母と両親と子供ふたり、それと避難所に入れず困っていた大学生の合計7人で暮らしていたそうだ。



「飲み水は吸水ポイントまで毎日貰いに行ってます」

「けどもう食べる物が底を突きそうなんです」



 どうやらネットの救援掲示板を見つけたのは大学生らしかった。


「本当に来てもらえるとは思いませんでした。釣り…かもとも思っていたので…」


「ええと、救助スレの方にカキコミがあったのですが、救助ではなく救援なんでしょうか?」



 キヨカが優しい口調で大学生の青年へ問う。



「あ、うーん。どちらか悩んだのですが、救援スレだと食糧や物資ですよね。確かにそれも必要なんですが、こちらの家族のお爺さんが、その心臓が悪いみたいで」


「はい。すみません。うちのお義父とうさんなんですが今93歳で、ペースメーカーも入ってるんです。それでここ数日、息が苦しいと言うんだけどこの辺にはやってるお医者さんがなくて」


「避難所でも見てもらえなくて……」


「そうですか、ちょっと待ってください?」



 キヨカはスマホを出してどこかに電話をしているふうを装って、実際は念話でタウさんへと連絡をした。



『7人ですか。ふむ。現在の自宅の2階がまだ生活可能なら、お爺さんと付添い1名のみを洞窟へ。洞窟の診療所へ連絡を入れてください』


『わかりました。他のご家族はここに残留で物資を置いて行きます。ある程度回復したら、お帰りいただくと言う事で』



 キヨカとタウさんの念話のやりとりを聞いていたマルクは、馬車の中で早速物資を箱詰めし始めていた。



「今、私どもの避難所と連絡が取れました。ご家族7人全員を向かい入れる事は無理なのですが、診療所も医者も居りますのでお爺さんと付添いの方のみの受け入れはオッケーだそうです」


「ありがとうございます!」


「あの、出来れば食糧を……」



 頭を下げる夫婦の横で青年が慌てた。救助がメインであるが救援も受けたい、と言うところだろう。



「大丈夫ですよ。食糧他を置いていきますから」



 マルクが箱を抱えて馬車から出てきた。入れ替わり俺も馬車へと入る。床には箱が5、6個置いてある。出来た息子だ。


 キヨカが青年へSNSの鍵付き掲示板を教えていた。


「今後はここに書き込みをお願いします。お爺さんの状況もお教えできます。ところでどなたが付き添われますか?」



 お婆さんと旦那さんと奥さんの3人で揉めている。


 付き添いはお婆さんに決まった。ここに居ても役に立たないからと言っていた。

 まぁお婆さんもそれなりの年齢なので洞窟で医者が近くにいた方が安全かも知れない。


 そして物資を渡してお爺さん夫婦に馬車に乗り込んでもらい出発した。

 見送る家族から見えなくなった所に馬車を止めて、マルクとキヨカには外へ出てもらう。


「ミストスリープ小」



 魔法で眠らせた。マルク達と馬車をそこに残してエリアテレポートで洞窟拠点の診療所へと飛んだ。

 ふたりを引き渡してさっきの場所へ戻った。


 そして次のポイントへ向かう。


 次のポイントも、そのまた次もその次も、避難所へ入れない病人を抱えた家族だった。

 やはり、災害での病人が増えていっている。洞窟拠点よりも何処かに大きな病院がほしいな。病院を見つけたらブックマークをしておこう。


 馬車の中でその話をすると、キヨカがタウさんへそれを伝えた。タウさんは即全員へ『病院をブックマークしておくように』と皆へ念話で指示を出していた。


「薬を取ってくる薬局ばかりを探していましたが、そうですよね、病院と言う施設が使えた方が良いですよね」


「父さん、凄いなぁ」


「そ、そうか?」



 ちょっと照れた。息子に褒められると嬉しい。顔には出さないが。(←出てる)



 5件目の赤ポイントへ向かった。


 そこには高校生くらいと小学生くらいの兄弟がいた。



「兄ちゃん、ホントに来たよ」


 道路をウロウロしていた少年が大きな声で兄を呼んだ。弟は元気が良さそうだったが、兄の方は暗い表情だった。

 馬車から降りたキヨカがふたりにゆっくりと近づいた。



「ご連絡をいただいたモリイチさんですか?」


「……そ、です………」



 俺とマルクも馬車から降りて近づく。



「救助という事ですが、お話を伺えますか?」


「あの、俺……俺…」



 そこまで話すと兄貴の方は泣き崩れてしまった。それを見た少年も兄の背に縋り大きな声で泣き出す。


 俺達は泣き止むまでそのままじっと待った。マルクは俺の腰に抱きついていた。


 兄の背中に付いていた弟は痩せていた。蹲っていた兄が顔を擦りながら立ち上がった。

 兄の方はもっとガリガリで顔色も酷く悪かった。青白いを通り越して浅黒い顔色だった。

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