第76話 他も検証

 翌日も朝食後に『拠点本部』に全員が集合した。


 皆の顔がワクワクを隠せないという感じで輝いていた。反対にタウさんは少し疲れた顔をしていた。血盟主ともなると色々大変なんだな。


 俺はタウさんに言われてアイテムボックスからミスリルシャツとミスリルズボンを取り出した。勿論人数分だ。

 と言ってもタウさん、カンさん、ミレさん、俺、マルクは既に持っているので女性5人と翔太の分だ。



「カオるん、これは強化済みですか?」


「ああ、と言ってもプラス6までだ。OEはしてない」



 ミスリルシャツとズボンとは、異世界の女神クエストで入手出来た。しかもクエストは何度でも可能だったので暇が出来ると材料集めをしてミスリルセットに交換していたのだ。


 そして『強化』とは、ゲームにあった『装備強化』があちらの世界でも可能だったのだ。

 装備を強化する事で防御力がアップする。(武器なら攻撃力がアップする)


 例えば、殴られて吹っ飛びアザが出来たのが、装備強化をする事で殴られても吹っ飛ばない。もっと強化するとアザも出来ない。


 『強化』に必要な強化スクロールはダンジョンで入手出来た。


 ただ装備強化は6回まで、6段階アップが限度であった。それ以上強化をすると装備が破壊された。

 だが稀に7回目の強化が成功する場合もあった。


 ゲームではそれをOE(オーバーエンチャント)と呼び、ゲーム内の資金が潤沢でスクロールや装備を山ほど持っているプレイヤーがOEを繰り返し、プラス10を目指すのだ。


 タウさん、カンさん、ミレさんが持っている装備は勿論『プラス10』だ。

 俺のWIZ装備は資金不足でそこまで至ってはいなかった。弱いし金は貯まらんしで、しかも途中でやめたからな……。



 ムゥナの女神クエストで入手したミスリル上下セットも、ダンジョンで手に入れた強化スクで地道に『強化』をしていった。


 完成したミスリルセットはやまと屋の子供らへと出来るたびに渡していった。かなり地道な作業だったな。


 全員に行き渡った後はアイテムボックスに保管していた。たまに洗濯で縮んでしまうやつもいたから予備は必要だよな。




 今ここに出したのはプラス6まで強化したミスリルセットだ。タウさんが説明をして皆へ渡していく。

 それを見ていたマルクが俺の背中に張り付いてぐずぐずと泣き始めた。



「…………父さん、僕、ない。ミスリルの、着てたはずなのに、ぐすっ、無くなってた ぐすっ」



 俺は慌ててマルクに向かい詳しく聞く。



「どうした? どこかで失くしたのか? 最初のホテルか?」


「ううん、こっちに来た時 もう 無かったと思う ぐす……ごめんなさい、父さんに作ってもらったのに……失くしてごめんなさい」


「ああ、恐らく転移のタイミングで消えたのでしょう」



 タウさんが思い出したように上を向いた。



「僕らは転移の時にゲームキャラが身につけていた装備はアイテムボックスに入っていましたよね? けれどマルク君は転移の時はまだアイテムボックスが無かった。なので転移のタイミングで消失した可能性がありますね。マルク君、一応アイテムボックスを確認してください? もしかすると入っている可能性もありますよ?」



 マルクは空中で手をゴソゴソさせていたが消沈した顔のままだった。



「……無い。無かった…………です」


「大丈夫だ!マルク! まだまだあるからな? ほら、これを着ろ?」



 俺はアイテムボックスからミスリルセットを出してマルクに手渡した。




 皆は服の上にミスリルシャツを装着していたのでそれを見たタウさんが慌てて訂正をしていた。



「ミスリルセットは服の下に装着してください。インナー、ミスリルシャツ、服、の順番が良いと思います」


「なるほど。何かしっくりこないと思った」


「上に着たら鎧だよw」


「ちょっと別室で着替えて来ます」


「待ってください」



 タウさんが慌てて皆を引き留めた。



「この後装備の装着も試してもらいますので、出来れば体操服とジャージを着用してもらえますか?」



 タウさんはそう言ってジャージ上下や長袖のTシャツをテーブルの上にどさりと置いた。

 皆はその中から自分のサイズに合ったものを選び、それを持って部屋から出て着替えに行った。


 マルクは理解出来ずにキョトンとしていたが直ぐに翔太と真琴が両脇から、これがいいとかそっちは大きいとか言いつつ選んでくれていた。

 良い友達が出来たなぁと、父として嬉しく思った。(けどほんの少しだけ、俺が選びたかったぞ……)



 着替えた皆が戻って来た。紺色に白ラインのジャージ上下が似合ってる。勿論マルクの事だ。


 俺はタウさんに言われて、皮セットの装備も取り出した。

 レザーアーマー、レザーブーツ、レザーキャップの3点だ。レザーシールドを出した時にミレさんから突っ込まれた。


「盾はいらんだろ? 何と戦うんだよw」


「そうですね。とりあえず着れるかどうかの確認だけなので」



 そ、そうか。

 どっちにしろ、ステータスに防御力とかが出るわけではないし、ましてやステータスが無い者が殆どだからな。


 ゲームの装備は着る者にサイズがピッタリになる不思議アイテムなのだ。たぶんタウさんはそれを確認するのだろう。ゲーム仕様がステータスの無い皆にも反映するのかどうか。

 


 ジャージの上着を脱いでミスリルシャツを着けた者達から称賛の声が上がった。



「何これぇ、凄いピッタリ」

「こんなフィットするものなの?」



 その上からジャージの上着を着てもらい、更にアーマーを着けてもらう。

 女性陣の士気が下がった。



「何これ……、ちょっとダサい?」

「んー……、森…………とかに似合う、かも? ハンティングとか?」

「弓とか持ったら似合いそう!」


 ミレさんの妹の芽依さんだけは盛り上がっていた。



 タウさんやミレさんは苦笑いだった。



「着れるのが判っただけで良しとしましょうか。この先何かあった時には着てもらうと思います」


「おとん、着ると何かあるの?」


「恐らくですが防御力が上がります」



 タウさんの言葉を聞いた翔太がマルクと手を合わせて喜んでいた。いやマルクや?何故一緒に喜ぶ。君は知ってるだろう?向こうで着てたじゃないか。



「父さん、僕これ着るぜ! 毎日着たい、ずっと着たい」


「お父さん僕もこれ着るぅ、あっちではいつも着てたし!」


「クラマス!お願いします、これ着ていいでしょ?」



 翔太はタウさんの事をクラマスと呼ぶ。どうやらクランマスターの略のようだ。ゲームでタウさんが盟主をやってる血盟に入ってるからな。俺もあっちに移りたい……。


 タウさんは子供達には念のため着せようと言ったが、真琴は渋い顔になった。どうやらオシャレでないのが嫌なようだ。ミレさんからもっとオシャレな装備は無いか聞かれた。「無い」と答えた。


 真琴はとりあえずミスリルセットだけ身につけてくれるようだ。

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