第71話 未来が見えない③
避難者はボチボチと洞窟拠点に集まり始めた。
最初に洞窟に来たのは、交通がストップしたせいで自宅に戻れずに村民会館の避難所に居た数名だ。
避難所ではする事がなく、相部屋に数人が一緒に寝泊まりしていた。最初の頃は暖かい食事も出ていたが、気温低下で畑がやられたあたりから、食事は乾パンやレトルトになっていった。
レトルトが無くなると乾パンのみになったが、無理を言えず、しかし自宅に帰る事も出来ずにどんどんと気持ちが沈んでいった。
そんな時に洞窟避難所に来ないかと言う話を聞き「もうどこでもいいか」と来てみたら、あまりの心地良さに瞬時に虜になった。
食事も暖かい物が三食もらえる。寝る為の個室もあり、余暇を過ごす施設もある。洞窟内を散策するのに夢中で余暇がない状態らしい。特に学校の先生が嬉々として洞窟内を歩き回っていた。
最初の避難者である彼らが他の村民の説得にも参加してくれた。
お陰で、カンさんが親しくしている人達も徐々に移動して来ている。
隣家である杉田家は、最初は爺さんのみだったが、様子を見に来た孫達が居座り、戻って来ない息子娘を呼びにきた爺さんの息子さん夫婦達も移動を決めた。親戚にも声掛けている。
ちなみに避難の手伝いだが、まだステータスや異世界の話を完全に打ち明けたわけではないので、人は徒歩で洞窟へ向かってもらい、まとめてある荷物はこっそりアイテムボックスで運び込んだ。
翔太君と同じ中学校の生徒や先生も何人かやって来た。カンさんから相談されたタウさんは『勉強エリア』を急遽増設したが、子供らには不人気だった。
それから村内でも動物を飼っているうちが率先して洞窟拠点への移動を申し出てきていた。
ここらの地域では犬は庭飼い、猫も放し飼いだったのだが、灰にやられる犬猫を見て家に入れたがトイレの処理などに困り、洞窟の話を聞いて見学に来て、それからここに避難したいと頭を下げられた。
ふふふ、洞窟内の換気はちゃんとしているからな。いや、俺は仕組みはわからないが、その辺はカンさんとタウさんが、な。
いやマジどうなってるんかね?
なんだかんだで278人が避難してきた。
それ以上は知らん。「来たい」と言う人が来た時に『部屋』が空いていればタウさんは許可を出しているようだ。
洞窟はあっという間に賑わっていた、外は灰の吹雪がかなり積もった状態になっていた。
畑は、もう無理かも知れん。
火山灰がいつまで降り続けるのか、止んだ後に畑を復活出来るのか。出来ない場合の食料はどうするのか。
問題は山積みである。相変わらず国からの救助の話は聞かない。
一度タウさんらと日比谷の警視庁のビルへテレポートで行ってみた。
茨城に降っている火山灰は当然都内にも大量に降り続けていた。どのビルも屋上には雪のように灰が分厚く積もり、海の水は引かないまま灰が沈み海のどす黒さが増していた。
海をボートで進むのが難しくなっている。以前にブックマークをした場所にのみテレポートで移動した。
あの災害直後はヘリが飛び交っていた警視庁や警察庁も、ヘリが飛べない状況で来なくなったみたいだ。
と言うか、そもそもあのヘリ達は何処へ行っていたのだろうか?そこに偉い人達の隠れ家があるんじゃないか?
残された人達は警察でも下っ端なのだろうか?他のビルにも救助に向かった形跡は見られない、置いて行かれた人達がいる。
水と食べ物もそろそろ尽きるかも知れないと言っていた。
この辺一帯は皆こんな感じだろう。俺たちに全てを救うのは無理だ。だが……。
「ここだけでは無いはずです。都内はどこも水浸しで救助を待っている人は大勢いる。僕らに出来る事は限られています」
「そうだよなぁ、全ての人を洞窟拠点には連れていけないよなぁ」
タウさんやミレさんの言う事はわかる。それしか無い事もわかる。解ってるんだ。
「せめて……地面に。あぁでも今は地面も火山灰だらけか」
俺は床を見ながらボソリと言うくらいしか出来なかった。タウさんやミレさんを責めるつもりもない、自分が出来ない事を自分自身がよく知っている。
一緒に来たマルクが俺の手をぎゅっと握った。
「父さんはどうしたいの? それをするのは難しいの?」
「俺は……せめて地面がある場所に彼らを」
「けど、それをすると魔法の事を知られるぜ?」
「いつかは知られると思っていますが今は時期尚早かと……」
「じゃあ、知られないようにこっそりやってみれば?」
「……こっそり?」
それが出来れば……。
「そうです! それですよ。カオるん、眠らせる魔法がありましたよね?」
「あ、あぁ、ある。ミストスリープ。 それで眠らせるか!」
「ええ、眠らせてエリアテレポートで地面のある場所へ運ぶのはいかがでしょう」
「それはいい。カオるん、埼玉のどっかをブックマークしてあるだろ?埼玉は水害が少ない。そこからは自分らでどうにかしてもらうさ」
「ここに孤立しているよりはいいでしょう」
おおおぅ、何てこった。流石だ。タウさんミレさん!俺は良い仲間を持った。
そして俺の息子は素晴らしい!
俺はマルクをぎゅうっと抱きしめた。
そのあとの作業は大変だった。疲れたがやり切った感はあった。
彼らがこの先、生き残れるのかは、彼ら自身の問題だ。うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます