第66話 血盟の謎は深まる

 北海道のゆうごから、夜にLAINEビデオで話をしたいとタウさんに連絡があった。


 そうだよな、そろそろゆうご救出の計画も立てないとだな。ゆうごも婆ちゃんとふたりだと心細いだろう。友人も一緒とか言ってたか。

 カンさんちの裏山の洞窟の拠点造りも落ち着いたようだし、あまりゆっくりしているのもと思う。



 母家に集まって夕食を摂ったあと、約束の18時を待った。因みに災害時でも電気は復活していたが節電のため、20時消灯とこの町で決まった。ゆうごの所は電気が復活しておらず夕方からランプか蝋燭ろうそく生活だそうだ。なので、夕方日が暮れるより前に夕飯と風呂は済ませているそうだ。


 俺たちは、魔法で照明を出せるので困らないのだが、その事はまだ町の人達に話していない。隣の杉田の爺さんとかは薄々勘づいているふしもある。案内した洞窟の壁に謎の灯りがくっ付いていたからな。


 ゆうごはブランクスクロールに魔法を詰めた「ライト」を持っているだろうが、婆ちゃんや友達にどこまで打ち明けているのだろう。



 俺らは母家の広い一室に大きく立派なテーブルを出してもらい、そこで各々がスマホを手にスタンバイしていた。



「スマホって画面が小さくて見づらいよな」



 決して老眼のせいではない(と思いたい)、そもそもこんな手のひらサイズの画面に、参加者全員の顔が表示されるのだ。見える方がおかしくないか?


 俺がぶつぶつ言ってると、ミレさんがパソコンを持ってきてそこにLAINEを落としてくれた。LAINEってパソコンでも出来るのか。

 うん、見やすくなった。



「ミレさん、サンキュー」



 俺がミレさんにお礼を言っていると、パソコンを持ったカンさんがミレさんの横にやってきた。


「あの、僕のもお願いできれば……」



 タウさんはいいのか?羨ましそうに俺らのパソコンをチラ見していたが、タウさんはスマホで頑張るようだった。流石だ。

 それと子供らもキョトンとしていた。若い君らにはわかるまい。

 俺はカンさんと目を合わせて頷き合った。


 そうこうしている間にゆうごがインしていた。



ゆうご『こんばんは』

タウロ『こんばんは』

ミレイユ『ばんわー』



 不思議だ。画面で見てる口と若干のズレがあるのか?それとタウさんやミレさんの、直ぐ近くから聞こえる肉声とパソコンから聞こえる声のダブルだ。しかも若干の時差付き。



カンタ『こんばんは』

マルク『こんばんわー』



 翔太や女性陣は家族のスマホを覗き込んでいた。



ミレイユ『ゆうご、ちょっと待ってくれ。こっちは副音声すぎて混乱する』



 ミレさんがそう言うと、全員にイヤホンを配った。紐の無いやつだ。



「これ使ってくれ。全員の声と端末からの声で混乱するw」


「そうですね」



 タウさんは直ぐに耳に挿していた。俺も耳に突っ込んだが、これで聞こえるんか?



「あーあー、聞こえますかー」


「カオるん、待ってくれ、ちょっと貸して。セットしないと」



 横でマルクがミレさんのやっているのを見て自分のをやっていた。俺はミレさんから受け取ったのを耳に挿した。



「聞こえますかー」



ゆうご『聞こえますよ、カオさん』

カンタ『大丈夫みたいですね、カオるん』

タウロ『ちゃんとマイクから声が入ってますね、カオるん』



 マイク……、そうだ、コレ。耳に挿しただけなのに何故俺の声が入るのだ。どうなってる、謎イヤホン。

 ま、まさか、俺の耳から声が出ている……のか?



「もう少し離れて座りましょうか、隣の声も漏れて聞こえますね」


「ああ、じゃあ、女性陣にもパソコンを渡すか。スマホは見にくいだろう。翔太は父さんのでいいか」



 結局、タウさん含め全員がパソコンやイヤホンを渡されてセットしていた。



タウロ『お待たせしました、ゆうごくん』


ゆうご『いえ大丈夫です。でもそっちは色々整っていて羨ましいです』


タウロ『さて、まずはゆうご君の話を聞きましょうか』


ゆうご『はい。血盟の事です。何故ブランクだったステータスに血盟が表示されたのでしょう。異世界に行く前にゲームで加入していた月の砂漠、異世界に転移した時はブランクになっていました。向こうで加入した時ステータスに月の砂漠と表示されました。それは、向こうの世界がゲームに近い世界だからだと思っていました』


タウロ『ええ、そうですね』


ゆうご『こちらに戻った時、ステータスの血盟欄はブランクでした。向こうに行った時もそうだったので驚かなかったです。それにこちらはゲームとは違う現実世界、血盟なんて無い世界ですから』


ミレイユ『けれど、こっちでもステータスが表示され、ゲームで血盟に加入した途端にブランクだったそこに表示された。まぁステータスがある事自体がイレギュラーだからな。あるんだから表示されてもおかしくないんだが』


ゆうご『ステータスがある謎はひとまず置いておいて、何故、血盟が表示されたのか。ゲームで血盟に加入しただけで? 僕はそこに引っ掛かってます』



 俺は頭が悪すぎて、皆が何に拘ってるのかさっぱりわからなかった。血盟が表示されると何か問題があるのか?



カオ『あのさ、俺たち、異世界転移で神様がいる事がわかったじゃないか? 神様が俺らを選別するのにゲームのデータを使ったっぽいんだよな? こっちに戻してくれてステータスまで土産にくれた。それってこっちの世界に多少……ゲームっぽい要素を神様が追加してくれた、とか、無いかな』



 皆が無言になった。馬鹿な発言と思われたか。神さまがお土産の追加とか、ちょっとアホ過ぎただろうか?



タウロ『そ……う、ですね。そうでした。私達はいつも神に助けられている。今回のゲームの血盟が現実のステータスに表示されたのも神からの贈り物』


カオ『たださぁ、やっぱり神様ってのは気まぐれだろ?いつでもこっちの都合では動いてくれないと思う。俺たちは神様の差し出してくれた手…物?をどう使うか、それを考えるのは貰った俺たちだ。土産の調理の仕方まで神様に教えて欲しいと言うのは図々しいよな』



ゆうご『そう……ですね。そうか。友達もゲームをすればステータスが出てこないかと期待して、出てこない事に焦りを覚えてました。僕らが使える色々な事だけでも十分な贈り物ですよね』


カンタ『ゆうご君は、自分だけってことに複雑な思いが出てしまったんですね。友達には出ず自分だけ。こっちはタウさん、ミレさん、カオるんもいますから重石おもしを分け合えるので気が付きませんでした。申し訳ないです、ゆうご君』


タウロ『すまない、申し訳ない、ゆうご君。私たちも早くそちらと合流するために動くべきでした』



 うぉぉぉ、すまん、ゆうご。迷子になってる場合じゃ無かった。その上偉そうな事を言っちまったぜ。反省ぇぇぇ。



タウロ『ステータスがあっても目の前に居なければフレンド登録は出来ない。念話もメールも送れない。けど、今回、理由は不明でもゲームで血盟に加入した事で血盟念話やメールで漸くゆうご君と繋がる事が出来ました。本当にお待たせしました』


ミレイユ『悪かったな、ひとりでよく頑張ったな』



 一瞬画面からゆうごの姿が消えた。しゃくり上げている鼻声が聞こえた。そうだ、ゆうごはまだ大学生だった。婆ちゃんとふたりであの災害を乗り越えてたんだ。俺だってミレさんらが迎えに来てくれるまで不安だった。


 ゆうごが画面に戻ってから話を再開した。



ミレイユ『ステータスに血盟が表記されるのは俺ら帰還組だけの特典か?』


タウロ『今のところ、そうですね。こちらでもカンさんのところの翔太君やうちの家族、ミレさんの家族もLAFのアカウントIDを取得しました。ゲームも時間があればやってもらっていますが、現実にステータスが現れる事はないですね』


ミレイユ『マルクと翔太も一緒にレベル上げしてるが、今のところ翔太に変わりはないか』


翔太『はい。翔太です。残念だけどゲームはただのゲームですね』


ゆうご『そうですか。やはりステータスは転移者の特典なんでしょうね。ゲームで色々と検証してみたいのですが、こちらは電波が不安定なのかラグいです。あ、今はラグいとか言わないのかな』



「父さん、らぐいって何?」



 横に座っていたマルクが俺を見上げた。



「ん?えーとな、ラグいってのはパソコンの画面がラグラグになる状態だな」


「んん? ラグラグ? ぐらぐらするって事?」


「まぁ、そんな感じだ。画面がぐらぐらするんだ」


「カオるーん、聞こえてるぞ!嘘を教えるなー」



 ミレさんが向こう側から突然こっちに向かい叫んだ。



「マルクー、違うからな。ラグいっつのはだな、ラグっぽい。ラグは遅いとか遅れるとかだからつまり、パソコンの画面の動きが遅いとかだ。ゲームをしていて、突然動きが遅くなったりカクカクしたりだな。オンラインゲームは電波の悪いとこでやると電波が途切れやすくて動きが悪くなるんだ」


「ぐらぐらと近いじゃないかぁ」


「違うわっ!」



 ミレさんに怒られた。



ゆうご『実はログインしている時にプレイヤーを見かけまして、僕らと同じ帰還組ではと思って話を振ってみたんです。でも鼻で笑われてしまいました。一般人だったようです」


タウロ『そうですか。こんな災害時なのにゲームにインをしているプレイヤーを見ると、てっきりそうかと思いますよね。実は私も数人にそれとなく話を振ってみたりしました」


ミレイユ『いやさー、この災害にゲームしてるってLAFプレイヤーはいい根性してるよな。そもそも災害前にすでに寂れかけてたゲームなのにな』


タウロ『元から寂れていたところにこの災害、LAFが動いている事自体が奇跡ですね


ミレイユ『運営って何処だっけか?』


ゆうご『兎に角ゲームが何かしらのトリガーなのは確かです。こっちでも繋がる時に人を増やしてみます。タウさん達もお願いします』



 結局ゆうごの疑問は解消されないまま、LAINEは終わった。ゆうごの疑問というか全員の疑問でもあるのだがな。




-------------(タウロ視点)-------------


 北海道のゆうごとのビデオLAINEが終わった2時間後、カオ以外の4人でもう一度集まった。

 今度はLAINEではなく、血盟念話だ。血盟が違うカオるんの耳に入る事はない。



ミレイユ『タウさん、どした? あの場で言えない事って』


カンタ『カオるんに聞かれては困る事ですか?』


タウロ『ええ、カオるん抜きで話したかったんです』

タウロ『まずはゆうご君、本当に申し訳なかったです』


ゆうご『あの、もうやめてください』

ゆうご『さっきはちょっと泣いてしまいましたが』

ゆうご『別に皆さんの事をどうこう思ってませんから』


ミレイユ『いや、俺も呑気に構えていたのを反省した』


タウロ『さらにもうひとつお詫びしなければならない事があります』

タウロ『ゆうご君の元へ行くのに時間がかかるかもしれません』


カンタ『それは飛行機も新幹線も動いてないので仕方がないのでは』


タウロ『徒歩移動で時間がかかる、という意味より』

タウロ『もっと遅くなるかもしれません』


ミレイユ『どう言う事だ?タウさん』


タウロ『北海道への移動はどうしてもカオるん頼みになります』


カンタ『そうですね。どうしてもウィズのエリアテレポートは必要でしょうから』


タウロ『はい。ですが僕らはこちらに戻ってから』

タウロ『その理由でずっとカオるんを酷使しています』


カンタ『カオるんは気にしてないと思いますが』


タウロ『そうでしょうね、カオるんなら』

タウロ『私たちは向こうの世界で10年間、家族を捜していました』

タウロ『王都の周りの街から他の国まで』

タウロ『5人、アネさんを入れてですが一緒に、時には分かれて、あちこちを周り情報を交換していましたよね』


ミレイユ『ああそうだったな。懐かしい。もうずっと昔の気がする』


カンタ『つい最近までですがね』


タウロ『たまにムゥナの街に戻りカオるんやパラさんらと会ったりもしました』

タウロ『でもあの頃の私は、家族と会えて街で生活する彼らとは一線を引いていました』

タウロ『幸せな彼らを見ていたくなかったのだと思います』

タウロ『私は心が狭い』


カンタ『それは……、僕らは皆そうでしょう?』

カンタ『仕方ないと思います』


タウロ『ええ、ですが、こちらに戻ってからずっとカオるんに頼り切っている事に申し訳なさを否めないのです』

タウロ『だから私は、今すぐ北海道へゆうご君の救出に出向いてくれとカオるんに言えないんです』


タウロ『ゆうご君には本当に申し訳ない』

タウロ『私がウィズだったら今すぐにそちらに向かいたい』


ゆうご『タウさん……』


カンタ『それは僕もです』


ミレイユ『そうだよなぁ』

ミレイユ『俺が今そっちに行っても、婆ちゃんを連れて飛ぶ事は出来ないからなぁ』


ゆうご『大丈夫です、気にしないでください』

ゆうご『僕だってダークエルフです』

ゆうご『婆ちゃんを守ってやっていけます』


タウロ『出来るだけ早く、でもカオるんに負担がかからない、皆が公平な作戦を立てるつもりです』



 カオるんに知られたら直ぐにでも飛んで行くだろう。マルク君も着いて行きたがるかもしれない。

 ゲームで血盟主と偉そうにしていても現実では所詮この程度な自分に腹が立つ。


 外で念話をしていたが、部屋に戻ると有希恵がコーヒーを入れて寝ずに待っていてくれた。


「あなた、ご苦労様です」



 家族と逢えて良かったと、

 ゆうごに申し訳ないと言ったばかりなのにもかかわらず、思ってしまう自分が居た。

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