第54話 洞窟

 俺たちはカンさんの家を拠点きょてんとしての生活がスタートした。

この大災害で水の被害が無かった事、インフラが整っていた事は大きい。


 カンさんの仕事がらか自宅には大きな発電機と井戸がある。この辺りは都市ガスではなくプロパンガスなので、これまた仕事がら予備ボンベもあった。俺みたいな素人がガスボンベにれるなど怖くて出来ないが、カンさんは資格も保有しており安全安心だ。


 タウさんは建築関係の諸々もろもろの資格を持っているそうだし、ミレさんはシステム系の有資格者だ。

 俺は……、資格を何も持って無い。運転免許さえ持っていなかった。俺だけただのオッサンだ。



「俺……、この拠点では無免許無資格の役立たずだな。馬にも乗れないし」



 俺がしょげているとミレさんの妹の芽依めいさんに背中を思い切り叩かれた。



「何言ってるんですか! カオさん、これからはカオさんの時代ですよ?」



 んん?俺の時代? どういう意味だ?



「ラノベの流行はやりは、最早もはや、俺TUEEEEEEEじゃないんですよ! モブですよ、モブ! チート無しのモブのオッサンの成り上がりが、今はグングンと売れ専に上がってきてるんですよ! モブの下剋上げこくじょう!!! カオさん、売れっ子間違い無し」



 ええと?すまんな、ますますわからんが、俺がモブなのは確かなようだ? 連呼されてるしな?

 何だろう……、応援されているのは解るが、悲しさが増した。ただ、マルクはキラキラ輝く目で俺を見ていた。



「父さん、カッコいい、父さんの時代が来るんだ」


「…………モブですが?」


「そう! それですよ! タイトルは……『モブですが何か?』いや、それはどこかで既に使われてたか?『モブですが文句あるやつかかってこい!』カオさんはかかって来られるの嫌そうですね。『モブですが?モブなのでそっとしといてください』うん、これだ!」



 ミレさん、腹を抱えて笑っていないで、君の妹を止めてほしい。




 カンさんとタウさんは家(拠点)の設備を整える作業を始めた。ミレさんと俺とマルクの3人は物資の収集を行う事になった。

 勿論、この辺りではない。ここらは住んでいる人や避難中の人達がそれなりにいる。そこから物資を奪ったりはしない。


 今朝の話し合いで、『避難済みで人が居ない地帯』から物資を取って来ようと決まった

 俺らなら大概たいがいの場所でも移動が可能だし、放置して使えなくなる前にアイテムボックスに収納してしまおうとなった。


 勿論、個人宅から金品を盗る事はしない。狙いは人のいない大型スーパーやショッピングモールなどの店舗関係だ。

 それと人のいない孤立地帯の農作物なども、枯れる前に頂戴しておく。


 残りの女性陣、タウさんの奥さんと美穂みほさん、美咲みさきさん、芽依めいさん、真琴まことの5人は、翔太しょうたの案内で近所を回る。

 田舎の近所を舐める事なかれ?隣家まで500メートルとかカンさんが言ってたな。どこまでが『近所』なのだろうか?


 6人は重要な役割だ。この地域の被害と避難状況を調べてもらい、かつ、連絡表を作成して行く。


 最近は固定電話をはずしたスマホだけの家も増えている。電話(MTT)がいつまで使えるか解らない。その他の手段を持っているうちに聞き込みも行ってもらう。スマホの番号、メールアドレス、パソコン有無、ケーブルテレビなら使っていないがアドレスや電話番号を所持している場合もある。


 それと無線機の有無。田舎は山に入る時用にトランシーバー(無線機?)を案外持っていたりするそうだ。

 隣の家はここら一体の地主の杉田さん一家だが、杉田の爺さんも無線機を使えるとカンさんが言っていた。お孫さんと翔太君がたまにそれで遊んで怒られた事があるそうだ。


「何かね、使っちゃいけない電波とかあるんだって」



 そんなわけで、俺らは積極的に動き始めた。



 

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 俺らはショッピングモールから戻り、布団や衣服、食料の管理についてタウさんの指示を仰いだ。



「ミレ、カオ、それとうちタウは着の身着のままで来たので、とりあえず着替えをそれぞれキープしてください。残った物を拠点の物資として管理します。食料など消費期限のある物は、アイテムボックスへ保管をお願いしたいのですが、どこに何を入れたか解る様に書き出しをお願いします」




 しばらくはそんな感じでミレ、俺、マルクの3人は収集に力を入れてた。ある日。


 カンさんの家の裏の畑からゆるい崖を登っていくと洞窟がある。そう、ここは筑波山つくばさんの麓の村。(いや、現在隣町と合併中だったそうだ)

 洞窟はそこに限らず、散見出来るそうだ。と言うのも、昔、石材の切り出しを行った跡地あとちで、洞窟の中はかなり広く、平らな部分が多い。


 今はもう石切りは行われていないが、カンさんの自宅裏にも大きな洞窟があったのだ。


 タウさんはそこに目を付けた。

 カンさんによって洞窟内にエリアアースをかけてもらい、頑強な避難場所を造れないかと考えたそうだ。

 この先、地球がどうなるのかわからない、拠点は多いに越したことはない。



「けどさ、カンさんのアースは一生涯継続する魔法なわけじゃないよな? 定期的にカンさんの魔法が必要になるぜ?」


「ええ、そこなんですよ。とりあえず避難拠点としてエリアアースをかけてもらい、その後は強度を保存出来る何かを設置していく方法を探っていきます」


「カンさん、アースの持続時間ってどのくらいなん?」


「ゲームでは2〜30分はったよな?なら現実は結構長いんじゃないか?」


「はい。実は庭のプレハブで試して見ました。一回で12時間くらいは保つかと」


「うおっ、流石土エルフだな」


「カンさんのアースは最強だ」


「なので、しばらくは1日2回、カンさんにかけてもらう事になります。カンさん、お手数ですがよろしくお願いします」


「はい、大丈夫です。時間を決めましょう、朝夕6時でいいですかね?」


「そうですね、それでお願いします」



 その後皆で洞窟を見に行った。緩い崖とは言えそれなりに切り立ち、樹木きぎも生えていて階段などない。それどころか足場になる道もない。


 ダークエルフのミレさんがヒョイヒョイと登って行き、所々にロープをかける。手摺てすり代わりだ。やはりダークエルフは凄いなぁ。ズルいぞ?ミレさん。


 目の前の崖は、離れていると緩やかに見えたが、直ぐ下まで来るとそれなりに急だった。



「まずはカオるんに登っていただいてブックマークをしていただけますか? 今日は見学だけなので皆をエリアテレポートで運んでください。後に階段か坂道を造ります」


「お、おう。任せておけ」



 ロープを掴み、足をかけられそうな石に左足をかけたがズリっと滑った。間違えた。左は利き足じゃないからな。み、右なら……。


ズズズリッ。



「あの、俺、ロープクライミングなんてやった事なかったわ」


「流石です!モブ王、カオさん」



 何だよ、モブ王って。いつから俺はモブ王なんだよ、芽依さんや。




「カオるん、サモンを出してください。彼方の世界でファルビニア遠征をした時に、崖を登るのに確かカスパー(※カオのサモンモンスター)に押してもらってましたよね」



 タウさん、よく覚えていたな。俺は忘れていたよ。



「何ですか?カスパーって」

「カオさん、異世界でもモブ王だったんですね、流石です!」



 俺は少し顔を赤らめ、カスパーではなくライカンスロープを出す事にした。カスパーは黒いマントを羽織った闇の魔法使いでいかにも怪しい風情ふぜいだからな。

 その点、ライカンはモフモフの狼男?のような感じだ。



「サモン、ライカン1匹だけ!」



 ライカンが現れた。



「きゃあっ!」

「うわっ」

「ひゃっ、何!」



 あれ?毛皮モフモフ系は女子供にウケが良いと思っていたのに、女性陣が後ろに飛び退いてしまった。大人の狼(男)はダメなんか?


 俺はライカンに尻を押して貰いつつ崖をよじ登った。何故あのゲームに浮遊魔法とか空を飛ぶ魔法が無いんだ!カッコ悪すぎるぞ、俺。


 何とか背後のライカンに助けられつつ崖を登り切った。因みにライカンはロープを掴まず、崖に爪をブスブスとぶっ刺して登っていた。俺のケツを刺さなかったのは偉いぞ。


 サモンに餌は不要なのだが、俺はボックスから燻製の厚切りベーコンを出してライカン1号に渡した。


 ライカン1号は一瞬ポカンとした後に嬉しそうな顔になり、あ、俺の主観で嬉しそうに見えただけだが、ベーコンを大きな口にポイっと放り込み、美味しそうにモグモグ食べていた。美味しそうにも俺の主観だ。



 ライカンを送還した後、洞窟入り口をブックマークして、崖の下に戻りそこに居た皆をエリアテレポートで洞窟内へと連れて飛んだ。



 洞窟と言うとツルハシで掘ったようなデコボコした狭い穴を想像していたが、そこはまるで違う世界だった。


 石切場と言うのも頷ける綺麗に切り出された広い空間だ。しかもかなり奥へと穴は続いていて、穴の先は天井も高くもっと広い空間へと繋がっていた。


 広い空間には幾つもの穴があり、まだ先へと続いているようだった。



「凄いですね」

「うわぁ、何か神秘的」



 勿論俺のライト魔法で洞窟内を明るく照らしている。

 


「うわっ、ツルツルしてる。それに固い、しっかりした石ですね」

「カンさん、この辺りはもうアースかけてんのか?」



 ミレさんが壁をドンと叩き強度を確かめていた。



「ええ、かけています」


「何か面白いわね。あの遺跡に似てるわね、カッパドキアの洞窟?」


「それよりも空間が広いし綺麗な感じ。他の遺跡で似たようなとこなかった?」


「茨城にこんな遺跡があったなんてな」


「カオるん、ここは遺跡じゃないですよ。ただの洞窟」


「ええ、ただの洞窟ですがどうです? 避難拠点に向いていると思いませんか?」


「いいな、ここ。空間も広いし小部屋になりそうな穴も多いし窮屈じゃない。避難に持ってこいじゃないか?」


「換気とかどうなんでしょう?大勢でこもった途端に呼吸困難になると大変ですね。それと冷暖房。洞窟内は夏は涼しく冬は暖かいと言われているけどどの程度か気になるわね」



 見学しながら問題点も洗い出し、一旦下へと戻った。



 今後、タウさんとカンさんで洞窟拠点の検証、問題点の解決を行って行くそうだ。


 と言うのも聞いて驚いたのだが、俺に『派遣魔法』があったように、タウさんのステータスの職業欄にあった『DIK』と、カンさんの『MCN』。

 これらが拠点造りに大いに役立つとの事だった。


 タウさんの『DIK』によるスキル

 改築:壊れた建物の修復が可能(多少の材料必須)

 建築:建物の構築が可能(材料必須)


 カンさんの『MCN』によるスキル

 修復:物の修復が可能(多少の材料必須)

 構築:製品を構築(材料必須)


 タウさんが大工であったこと、カンさんが整備工であったことがこれらのスキル習得に関係したのであろう。


 つまりタウさんは建物などのガワを造る事が出来、カンさんは家の中身、生活に必要な家電とかが作れるのではないか、と言う話だ。

 詳しくは実際にやってみないとわからない、とも言われた。


 因みに、魔法では無いので魔力(MP)は使用されない、無くても問題ないそうだ。



「タウさんがDIKで、カンさんがMCN、そんでカオるんがHKNだろ? いいよなぁ。俺も何か欲しかった。 システム系の資格は持っててもそれに関わったのは正味しょうみ三年ぐらいだからなぁ。その後は営業に回されたし。 くっそう、羨ましいぜ」



 いやいや、ミレさん、俺のHKNって『派遣』だからな?正社員でさえないからな。しかもモブだ。

 よし、今夜はミレさんと飲み明かそう。俺はアルコールダメだからお茶だが。

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