第47話 スマホ機種変

「とにかく一旦丸の内へ戻ろうぜ」


 ミレさんはそう言うが、俺は戻るも何も丸の内はブックマークが無い。日比谷から出るなと言われていたから日比谷近辺のブックマークのみだ。



「そうですね。ホテルMAMANに戻りましょうか。あ、勿論ボートでですよ?」


「丸の内近辺は高層ビルも多いし、スマホ、タブレット、PCや充電器を手に入れ易いんだ。俺、学生の時にバイトでハードバンクにいた事あるからスマホを入手出来れば使えるように出来るぜ? カオのスマホをSOKOMOに変えようぜ」


「そうですね。zuはちょっと基地局が少ないのか沈んでいるのか、兎に角、カオるんのスマホを変えましょう。今となっては念話が使えますが、ゆうご君やマルク君とはスマホ連絡が必須になりますから」



 俺たちはやまと商事の屋上からモーターボートで移動する為に10階まで降りる事にした。



「あ、その前に39階でニャン太をピックアップしていくから、ちょっと寄り道させてくれ」


「ニャン太?」

「何だ?知り合いか?」


「いや、猫拾った。39階の役員用の豪邸で預かってもらってる」


「父さん、猫拾ったの?」


「おう、可愛いぞ?まだ仔猫だ。あ、タウさん、ニャン太飼っていいか?」


「それはカンさんに聞いてください。この先は茨城のカンさん宅にお世話になるのですから」


「そうだな。新しいスマホを貰ったら連絡しとくわ」




 39階の豪華な役員専用宿泊施設で可愛がられていたニャン太を引き取り、下へと向かった。勿論、俺のエリアテレポートで一瞬で12階に、そこから非常階段を降りて、水がヒタヒタの10階の廊下を進み、外へ出られる窓へと向かった。


 タウさんらが乗って来たボートに乗って、4人と1匹は一路丸の内へと。操縦はタウさん、その横にミレさん、後部座席には俺とピッタリくっ付いたマルク、それとマルクの膝にはニャン太がいた。



「そう言えば、マルクはテイム魔法は修得済みだったよな?」


「うん。覚えたよ? 父さんに貰った魔法書で女神さまのとこで修得したよ?」


「そしたらニャン太をテイム出来るか、やってみるか?」


「うん、どうやるの? 魔法を唱えればいい?」



 うぅむ、ゲームではただテイム魔法をクリックするだけだった。異世界ではテイム魔法を使った事が無い。俺にはサモンがあったからな。

 だがマルクにはまだサモン魔法は無い。だからいざと言う時のためにテイムをしておいた方がいいと思う。


 ウィズは他の職と違い、物理防御も物理攻撃も弱い。魔法もMPの枯渇を考えるとやはり変わりに戦ってくれる仲間が必要だ。

 変わりに……ニャン太を見て思う。戦うのは無理だな。こんなに小さくか弱いのだ。だが、可愛さはある意味、武器になる。



「触れて、唱えてみろ」


「わかった。 テイム!」



 マルクが触れたニャン太が一瞬淡く光る。テイムは成功したのだろうか?



「父さん、名前を付けてくださいって……。でもニャン太はもう名前あるよね?ニャン太だよね?」


「ああ、それな。ニャン太は仮の名前だ。実はニャン太は女の子なんだ。可愛い名前を付けてあげなさい」



ぶふっ


 ボートの前座席から誰かが吹き出した。ミレさんか?



「カオるん、メスなのにニャン太って呼んでんたのかよw」



 仕方ないだろう、拾った時、確認する余裕は無かったんだ。ニャン太と呼んだら返事もしていたし。



「うーん、うーん、どうしよう。お前、何て名前がいい? 女の子かぁ。ニャン…ニャル子、にゃるみ……にゃるみんみん」



 前の座席からミレさんが振り返り、面白そうな顔でマルクを眺めている。



「頑張れw マルク。ネーミングセンスが問われるぞ」


「うんと、ナリーにする。ナリー、お前はナリーだからな」



なぁーなぁー


 ナリーと命名された元ニャン太が可愛く鳴いていた。



操縦席から前を向いたまま、タウさんが話しかけてきた。



「カオるんは、あっちでテイムを使った事はあるのですか?」


「いや、無いんだよ。俺はサモンがいるし、それとイッヌ達もいたからな」


「そうでしたね。こちらで犬を出して見ましたか?」


「いや、まだ無い。カンさんちへ避難して落ち着いたら出したいなぁ。それもカンさんに許可をもらっておかなくちゃな」




 そうこうしているうちにタウさんの操縦でボートは丸の内、ホテルMAMAN東京へと到着した。

 部屋は48階のロイヤルスイートだそうだ。空いていたから勝手に使用しているらしい。



 マルクの話では、隕石落下の災害直後は46階の部屋へ、ホテルの従業員と一緒に泊まったそうだ。

 が、タウさんらと合流後に48階ロイヤルスイートへ移動したそうだ。



 やまと商事の役員宿泊部屋も豪華だったが、ここは比べ物にならないくらいの豪華さだった。庶民の俺は落ち着かない。

 茶室だと言う小さな畳の部屋へ集まった。はぁ、落ち着く。



 その畳の上に胡座をかいて座り、各自の帰還後の状況を話した。


 タウさんはワイ浜のデスティニーランドホテルに家族(妻とふたりの娘)を待機させている。

 ミレさんは都内ちょい前の水没していない地にあるホテルに家族を待機させたそうだ。


 カンさんがいる茨城の自宅は、茨城の中でも比較的被害が少ない地域らしい。ああ、俺のアパートがあるあたりはきっと完全に水没しているんだろうな。まぁ大した荷物があったわけでないからいいけど、もし異世界へ行かず自宅に居る時に今回の災害が起きたら、と考えるとゾッとした。大家さん、避難出来たのだろうか?


 カンさんは今、息子の翔太君を自宅に置いて陸地寄りの千葉県方面へ向かっているそうだ。


 ゆうごとは連絡は取れているが、こちらより通じにくいそうだ。連絡は比較的通じやすい朝と昼に来るらしい。


 そしてアネからの返信は未だ、無し。アネよ、頑張れ!生き残れよ。




 ステータスは現在連絡が取れている帰還メンバー5人(タウさん、カンさん、ミレさん、ゆうご、俺)の全員に表示されている。マルクはもとからステータスは無かった。


 とりあえず、帰還メンバーは第一目標であった『家族』との再会を無事に果たす事が出来たようだ。


 マルクは俺の隣にピッタリとくっ付いて静かに皆の話を聞いていた。俺は皆の話がひと段落ついたので気になっていた事をマルクに尋ねた。


 俺は向こう、やまと屋のリビングであった事を思い出す。

 時間になった時、目の前に選択ボタンが現れた。『戻る』ボタンに触れた途端に視界が真っ白になり気を失った。その後のやまと屋のリビングで何が起こったのかは見ていない。



「それで、父さんの足元から光が上がってきて父さんが見えなくなった。そこに突っ込んだんだ」



 む、無茶をする。



「その時、やまと屋には他に誰がいたんですか?」


 タウさんの神妙な顔つきから、口にはしないが同じ思いだったんだろう。無茶だ、と。



「ええと、みんながどんどんと飛んでいって、あつ子おばさんも飛んで……、ええと、廊下にはダンとアリサと、あと、ユイおばちゃんがいた。僕を捕まえてた手が緩んだらゲートに飛び込むつもりだったんだけど、ゲートが想像と違ってて慌てた。みんながゲートって言ってたから門みたいのを想像してた」



「門とか魔法陣みたいのじゃなくて、ただの白い渦巻くモヤだった」


「そうですか……」

「そうなんだ」


「そんで、白いモヤモヤに飛び込んで、気がついたら綺麗な石畳に寝ていた」


「ああ、隕石落下の前、まだこの辺りが水に沈んでいない丸の内ですね」


「うん。それでね、起き上がったら足元にこれとこれが落ちてた」



 マルクが畳の上に出したのは俺が女神像クエストで貰った収納鞄だった。俺が帰還前にあっちゃんに渡したやつ。異世界に置いていくマルクへ宛てた色々な物を入れた鞄だ。



「ユイおばちゃんが投げ込んでくれたのかなぁ? 何で父さんの鞄をユイおばちゃんが持ってたんだろう? あとこっちはキックおじさんのスマホだった。あの時キックおじさんは居なかったのに……」



 キックのスマホ?



「ああ、どうもキックが自分のスマホを渡したようだ。こっちでマルクがカオと連絡取れるようにと。もっとも、カオのスマホ自体が繋がらんかったがな」



 ミレさんが笑いながらキックのスマホを操作していた。

 手渡されたスマホはメモ帳アプリが開いていた。



『カオさんへ伝言』……メモのタイトルが俺宛だった。



『もしも無事に帰還してマルク君と再会が出来、このスマホを見る事があったら、そして茨城を通りかかる事があったら、お願いがあります。そこに菊田弘一郎と菊田詩乃が生きていたら伝えて欲しい。俺は遠くで幸せに生きている。帰れないのが心残りだがふたりの子に生まれた事を感謝している。心配を沢山かけたけど幸せだった。今は隣に嫁さんがいる。レモンさんとの写真を見せてあげて欲しい』



 そしてメモの最後には住所が記されていた。そっか、キックも茨城県在住だったな。確か高齢の両親と住んでいたと聞いた。

 うん、そうだな。機会があれば届けたいと思う。生きている事を願う。



 そうだ、収納袋にはタブレットが入っているはずだ。あっちゃんがくれたタブレットには赤面モノの動画が入っている。もう会えないと思っていたマルクへ宛てた恥ずかしい動画だ。回収、回収せねば!



 収納鞄からタブレット取り出す。それを見たマルクが蔓延の笑みを浮かべた。ま、まさか?



「み、みみみみ見たのか?」


「うん。見た」


「え?何? 俺にも見せてよ」



 ミレさんがタブレットを手に取ろうとする。



「ダメだ。絶対ダメだ。今すぐ消去だ」


「消しちゃダメ!僕が貰った、僕の宝物なんだから、もう父さんにも消せないの!」


「マァルクゥ? 後でこっそり見せて」


「マルク!見せたら叩き割る」


「ふっふふん〜僕の〜宝物ぉ」


「はいはい、そこらで。各自ステータスの検証はどこまでしましたか? 特にカオるんの魔法の検証は」



 タウさんが止めに入った。マルクは収納鞄にタブレットを仕舞い、収納鞄を服の下に仕舞い込んでいた。



 タウさん、ミレさん、俺の3人がステータスの話をし始めたのをマルクは大人しく聞いていた。



「どうやら向こうの世界のステータスのまま、地球に戻れたようですね」


「直に会わないとフレ登録やPT登録が出来ないのが面倒いな」


「けれど、何も無い一般人に比べたら月とスッポン以上の僥倖に恵まれてますよ、私達は」


「確かに。アイテムボックスが使えるだけで万々歳だよな」


「カオるん、アイテムボックスの中身確認しましたか?」


「ああ、……うん、確認と言うか、いっぱい入ってるなぁと」



 アイテムボックスにはあちらの世界で入れた物が全て入っていた。いや、全てかどうかは俺にはわからなかった。書き出したリストなど無いので全て入っていたかなど判らない。ただ、いっぱい、だ。



「カオるんの言う通り念のためはいるだけれて良かったです」


「だよなぁ。最後の10日間ダンジョンB2通いして良かったぜ」



 一応武器装備のアイテムボックスからの装着が可能か確かめた。可能だった。

 ミレさんがDEの武器(割と小さめの両手剣)を使って見た所、物凄い切れ味だったそうだ。


 こちらにはモンスターはいないので今後使う事はないだろう。

 盗賊……は、もしかしたら今後、この地球、日本でも強盗とか怖い奴らが出るかもしれないが、その時に使えるかどうかは俺たちの気持ち次第だな。


 やはり日本で人に向けて武器を使うのは難しいのではと思った。

 しかし、相手が襲って来たら俺はマルクや仲間を守るために使うぜ!


 テレポートリング、変身リングはタウさんが試したそうだ。

 この現代日本で変身が必要になる事はなさそうだがな。何しろ変身出来るのはゲームに出てくるモンスターなのだ。そんなものに変身するリングの必要性を全く感じない。


 スクロールは、ミレさんも試したそうだ。妹さんからリクエストされて使ったそうだ。テレポート。ホテルの部屋から廊下へと。リングを妹さんに貸してみたが妹さんには使えなかったそうだ。


 アジト帰還スクロールはやはり使用不可だったそうだアジトも何も、そもそも血盟が未加入状態だからな。



 ブランクスクに詰めたヒールも使って見たそうだ。

 ヒールスクロールは姪っ子が擦りむいた膝に使ったそうだ。ちなみに、妹さんがヒールスクロールを使おうとしてもやはり使用出来なかったそうだ。



「テレポートスクロールはブックマークが無い関係で使用不可なのかと思いましたが、ヒールスクロールも使用出来ないとなると、スクロールはステータスの表示の有無によると思っていました」



 タウさんがマルクを見て続ける。



「しかし、マルク君はステータスが無いにも関わらず、ヒールスクロールを使用出来た」


「てぇ事は、異世界帰りがキーかも知れんな」


「そうですね。当たり前に魔法があるあの世界に居た。もしそれがキーとすると、地球人には金輪際使用不可能と言う事でしょうか」


「ああ。俺達以外は、だがな」




 最低限の確認を終えた後、話し合いは一旦お開きとなった。ミレさんが近場にショッピングに行くと言って出て行った。

 俺のスマホをSOKOMOに変えるらしい。



 タウさんはブックマークした家族の元にちょっと戻ると言って飛んで行った。


 戻ってきたミレさんからSOKOMOスマホを渡されて、色々と説明をされた。

 覚えきれなかったが隣でマルクが聞いてくれていたので大丈夫だろう。

 ミレさんはマルクの分のスマホも持ってきてくれた。俺とお揃いだとマルクは喜んでいた。



 ミレさんもテレポートで家族の元へと飛んでいった。


 ふたりから念話で今夜は家族と過ごすと連絡がきた。

 俺はマルクと覚えたてのLAINEでやり取りをして夜を過ごした。


 同じ部屋にいるのにLAINEでの会話はどうなんだろう?楽しいからいいか。

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