第41話 ミレイユ、水の都TOKYOに辿り着く

 ----------(ミレイユ視点)----------


 昨日泊まった避難所を出て、妹と姪っ子を連れて埼玉を南下していた。

 ホテルが在れば泊まりたかったが、どこも閉まっていた。

 都内へ近づくにつれて、水没して通れない道が増えている。徒歩で移動もそろそろキツい。


 泊まれる所を探していたら目の前にラブホテルがあった。受付は自動のやつだ。今夜はここに泊まるか。

 電気はきているようでチェックイン出来た。一応部屋は最上階にした。もしも何かで水が上がってきたらと考えての事だ。



 真琴(姪っ子)の教育に悪いと言われるかと思ったが、芽依(妹)は逆に興味津々で楽しそうだった。

 電気がきているうちにお風呂に入りたいとふたりが言い出して、俺はドアの外に追い出された。


 1時間以上経った頃、呼ばれて中に入った。


「お兄ちゃんも入っちゃいなよー。 真琴、ジュースあるよ!飲もう」


 俺が風呂に入る時は出ていてくれないのか。透明なガラス張りの風呂へささっと入った。

 芽依とは子供の頃は一緒に風呂に入っていたし、真琴は小学校に上がる前までは俺が風呂にれる事もあった。充分見られているから今更だがな。


 風呂上がりにビールを頂く。

ぷはーっと一息つく、口の横の泡を手で拭ってから、俺はサラッと2人に打ち明ける事にした。


 姪の真琴の方を見ながらまるで世間話のように口にする。



「叔父さんなぁ、エルフなんだよ。 エルフ! しかもダークなやつ」



 そして即座にDE装備を身にまとった。



「え!うっそ、ナニ?ナニ? どゆことぉ!」



 飛びついたのは妹の芽依だった。

 芽依はシンママ(シングルママ)として働きながら真琴を育てていたが、実はその仕事と言うのがラノベ作家だったのだ。


 俺が異世界に転移した10年を話して聞かせると、


「待って、メモらせて、ええ! 何それ、ズルいズルいズルい」


と羨ましがられた。



「この話、ノンフィクションで出してもいい?」


「いいけど、誰も信じないんじゃないか?」


「てか、お母さん、それ、ただの異世界転移のテンプレストーリーだからね」



 真琴は母の小説に感化され、母ほどではないにしろ異世界ファンタジーの小説を読んでいたようだ。


 興奮しまくっていた芽依が落ち着いてきたのを見計らって、今後の話をした。




「じゃあ、その魔法使いと合流するために都内へ?」


「でも東京はここよりもっと災害が酷いんでしょ? 東京湾から津波も来てるんでしょ? 電車も止まってるよ?きっと」


「ああ。電車が止まってるどころか、駅はきっと海の下に沈んでいるな。都内はかなり浸水しているらしい」



 真琴は不安そうな顔になったが、芽依は職業柄なのかワクワクした表情だ。



「そのカオさん? 魔法使いかぁ。見たい、魔法見たい! お兄ちゃん、絶対合流して! 連れて来て!」


「あ、あぁ。うん。それでな、お前たちはここで待機していて貰いたい。都内がどんな状態かわからないからふたりを連れては行けない。 カオと合流したら連れに戻る」


「叔父さんは? 叔父さんは危険じゃないの?」


「大丈夫だ。俺は、ダークなエルフだからな」



ニヤっと笑って真琴にウインクをした。



「お兄ちゃんズルいぃぃぃ」


「おっ、そうだ、これを渡しておく」



 俺は魔法の収納鞄を渡した。それからアイテムボックスから色々と出して、収納鞄へと入れてもらおうとしたが、鞄は芽依の手を弾いた。


「んん? 入らない! お兄ちゃん、何コレ!」


「悪い、使用者の変更をしてなかった」



 油性ペンで鞄の内側に『上杉芽依・上杉真琴・上杉悠人』と記入して、芽依に手渡した。



「うひゃあぁぁぁ、何これぇぇ」


「お母さん! 私もやりたいやりたい!貸してぇ」



 俺がベッドの上に出した食料やミネラルウォーターのペットボトルを、芽依は鞄に入れたり出したりを繰り返した。

 それを見た真琴もやりたがった。



「うっそぉ、こんな小さい鞄に、ペットボトルより小さいのに入るー」


「叔父さん、これ、いくつ入るの?」


「あ、ああ、ええと、1種類が10個で、50種類だったかな?

全部で500入るはずだ」


「こんな小さいのにぃぃ、500個だよ!お母さん!」



 ポーションやスクロールも鞄に入れておいてほしいが、渡すのは明日の朝にしよう。

今はふたりともテンションマックスで、部屋の中の物をいれまくっていた。



「ちょっとぉ、真琴! 見て見て、冷蔵庫入った! 中身入りだよ?中身が入っていても冷蔵庫で1個なのよ! 凄くない?」


「凄いよ、お母さん! それって500以上いけるじゃん。あ、私のリュック入れて」


「私のバッグも入れちゃえ! 凄いわぁ」


「ねぇねぇ、お母さん、他の部屋のも貰っちゃわない?」


「ふふっ、流石私の娘。 それ、私も考えてた」


「いい加減に寝なさい!」



 大丈夫かな、このふたりを残して……。不安だ。

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