第42話 ミレさんホテル到着

 ----------(ミレイユ視点)----------


 芽依めい真琴まことをホテルに残してひとり東京駅を目指した。


 水の無い場所はひたすら走り、水にふさがれた道はアイテムボックスからゴムボートを出して水の上を進んだ。

 ちなみにゴムボートはホームセンターで手に入れた物で、アウトドアグッズ売場にあった結構頑丈な物だ。



 地図を見ながらひたすら南下なんかする。地図はホームセンターに隣接したショッピングモール内の本屋で手に入れた。勿論もちろん、勝手に頂戴ちょうだいした。モールは災害で閉館していたのでコソッと入ってコッソリ頂戴した。


 まだ誰の手もついていない色々な物があった。マルクとカオのもとに行くという目的が無かったら、そこら中から物資を頂戴したいところだ。

 とりあえずブックマークはしたが、戻ってくる頃には新鮮な食材は残念だが腐っているだろう。しかし今は合流が最優先事項だ。



 埼玉と東京、普段電車を利用していた時は近く感じたのだが、ボートをいでの移動はなかなかに大変だ。

 進むほどに陸地や建物よりも水没した場所が増えていく。それでも地形によっては浸水していない地域も残っていた。




----------(その頃の芽依と真琴)----------



「ちょっと!真琴、見た? 見た?見た?見た?」


「お母さん、興奮しすぎ。見たよ、さっき叔父おじさんが出て行ったとこでしょ?」


「凄かったねぇ。パルクールみたいにヒョイヒョイと屋根から屋根に飛び移ってさぁ」


「叔父さん、ダークエルフだっけ? ダークエルフってあんな感じなの?」


「そうねぇ。ファンタジー小説だと忍者みたいな位置付けかしら」


「へぇぇ。まぁ、カッコよかったけどね、叔父さん」


「ふふふふ、ははははは」


「何でお母さんがドヤ顔なの」




----------(ミレイユ視点)----------



 埼玉県川口市と東京都北区は隣り合わせだ。都内入りはスムーズに出来た。水から出ている土地の標識で、北区に入ったのはわかった。陸地を走る方がDEには向いているな。とりあえずひたすら南へ進む。


 どこかでモーターボートでも手にはいればいいんだが。そもそもモーターボートなんてどこに売ってるんだ?



 結局モーターボートを入手出来ないまま、地面の見えない土地が続くようになった。


 都内はかなり津波の被害を受けているようだな。ビルだけが水から頭を出すようになった。と言ってももちろん色んな物が浮かんだり沈んだりしていて、決して綺麗な海の水ではない。


 遠目に高層ビル群を捉えた。恐らく新宿か池袋だろう。

 地図を広げてスマホのコンパスと方向を合わせる。

 自分のステータス画面のマップも開いた。


「ふむ、この四角いのが集まってるあたりが、あそこか……」


 自分のステータスのマップと紙の地図も合わせた。


「このまま行くと新宿だ……。もう少し左手側か?」



 浮かぶ瓦礫がれきけながら進むので思ったより時間がかかった。途中1時間置きに芽依やタウさんらと連絡も取り合った。

 新たな高層ビル群が見えて来る。あの辺りが千代田区だろうか?

確認をしたくとも標識は完全に真っ黒な水の下だ。


 まぁでも、あれだけの数のビルが頭を出しているのだ。丸の内の高層ビル群に違いない。兎に角完全に日が暮れる前にここまで来れて良かったぜ。



 東京駅は水の下か。

 マルクがいるビルはどれだ?


 地図を開く。マルクは『ホテルMAMAN東京』にいると言ってたな。下がみつは銀行のビルか。

 水から突き出したビルはどれも似たり寄ったりだ。たぶん、あれがかくビルだとしたら、そこから真横にあるビルが、いや、どれも似ていて区別が難しいな。




「あの辺だとは思うんだが……。ちょっと確かめるか」



 マルクに電話を入れた。



「はい。マルクですが誰?」


「おう、俺だ、ミレイユだ」


「ミレおじさん!」


「今、近くまで来てる。ゴムボートだ。そこから見えるか?」


「待って、窓のとこに行く」




「見えない」


「ふむ、そうか。マルク、収納鞄に花火は入ってるか?」


「はなび? 無い」


「うぅむ、そうか。それじゃあ俺が今から空に打ち上げるから、何か見えたら教えろ?」


「う、うん。何か?」



 俺はアイテムボックスから花火を探し出した。

 あった、あると思った。何しろセボンの全商品だからな。季節も夏だったしコンビニに並んでいるのをたまに見かけた。


 花火セットの中から、上へ打ち上げるやつを選んで火を付けた。ロケット花火だ。と言っても子供に買うような花火セットに入っているくらいだからショボイやつだが。



パンッ!

パンッパンッ!


 続けて三発打ち上げた。



「何か見えたか?」


「んん〜? ん? あ!何か落ちて来てるの見えた!」



 おお、落下傘らっかさん付きの打ち上げ花火だったか。



「その下辺りにいるんだが、ボートが見えるか?」


「んー、うんうんうん! 見えた」



 こちらからは見えないがマルクの方からは海に浮かぶボートが見えたようだ。



「そっちに近づくから、方向がれたら教えてくれ」


「わかったー」




 その後、真っ直ぐだのもっと右だのとやり取りを繰り返して、無事にホテルMAMANのビルに到着した。


 到着したが、このビルはどこから入れるんだ? はめ殺しの窓だしこれだけ高いビルは外に非常階段はないだろう。

 何処かに出入り出来る場所は無いかと、ビルのまわりをゴムボートでぐるっと回った。



「おじさぁぁん!ミレおじさぁん!」



 マルクの声に気がつき、声のした方を見た。水面ギリギリの窓にマルクが顔を出していた。開く窓があったようだ。





「38階までは階段で降りれたんだけど、そこから行けなくて時間かかっちゃった。父さんの国の大聖堂は難しい造りだね」



 そこから中に入ると、警備服の男性がいた。



「あのね、このおじさんが案内してくれた。ありがとう!」


「良かったな、坊主。叔父おじさんと会えて。 いやぁ、このビルディングは複雑ですから」



 マルクに笑顔を向けたあと、俺の方を向いた。



「ホテルは38階から49階です、3階から37階はみつは銀行なんですよ。因み私はみつは銀行の警備をしとりまして。ホテルと銀行はお互い行き来は出来ないような構造になっております。ホテルのお客様は1階から48階のフロント直通のエレベーターを利用されますし、銀行の方や関係職員さんは2階から一度3階へと上がり、そこから低層、中層、高層とエレベーターが分かれています。一般の顧客は入れないようになっているんです」



 うわっ、知る人のみしか使えない構造かよ。



「それは……難しいですね」



 俺が苦笑いで答えるとその警備員はさらに続けた。



「ええ。普段はショッピングのお客様が2、3階でよく迷われていますね。ただ今回は……」



 それまで滑らかだった口が突然止まる。



「その……、今は、11、2階あたりまで水が……」


「ああ、そうですね。俺もゴムボートで渡ってきましたから」


「ええ。それで38階のホテルから連絡をいただいて、そちらの少年が下に降りたいとの事で、警備員用の非常階段にご案内致しました。いやぁ、階段でここまで降りたので大変でした」


「それは、本当にありがとうございます」



 俺が頭を下げたのを見たマルクも横で慌てて頭を下げた。



「けーびーんのおじさん、ありがとう!」


「おう、良かったな。ホテルに戻られるのでしたら階段をご案内いたしますが、ちょっと、休ませてください」



見ると警備員さんの足はガクガクしていた。そうだな。38階から12?13階?まで降りたばかりだからな。これからまた38階へとなるとな。



「階段まで案内して頂ければ、あとは自分らだけで上がりますが?」


「はぁ、そうですね。 普段なら銀行内をお客様だけでの移動は禁じられているのですが、こんな状況ですからね。銀行強盗でもないでしょうし」



 マルクの顔を見ながら和かに階段まで案内してくれた。



「若い子は凄いな」


 と、ぶつぶつ言いながらマルクを眺めていた。マルクも異世界転移の補正で何かしらのスキルが発生しているのだろうか?

 ステータスは見えないと言っていたが、その辺の事も落ち着ける場所で話したい。


 警備員と別れて階段を上がっていく。38階まで休憩無しで登れた。これもDE(ダークエルフ)補正がかかっているおかげだろうか。



「マルク、大丈夫か?」


「うん、平気!」



 それにしてもと、まじまじとマルクを見た。まさかカオるんを追って異世界から来るとはな。

 異世界人であるマルクが転移のゲートをくぐる事が出来たのは、養子とは言えカオるんの息子だったからだろうか?


 それとも、俺らが転移するために開いたゲートに飛び込めば、誰でも転移出来たのだろうか?

 まぁ、今となってはもうゲートは閉じているし、どうでもいい事か。


 40階を超えたあたりでマルクに声をかけた。



「マルクは何階の部屋に泊まったんだ?」


「昨日は48階……あ、47かな? あの……ミレおじさん、父さんは今、何処どこにいるの?」



 マルクがおずおずと尋ねてきた。



「ああ、多分だけどな、日比谷ひびや…つってもわからねぇか、ここから徒歩2〜30分くらいのとこに居るはずだ。今は街中まちじゅうが浸水しているから徒歩じゃ行けないけどな」


「そっか……、父さん、元気かな」


「あのカオるんが元気じゃないわけあるか!元気に決まってる」



 マルクは収納鞄からスマホを出した。



「これ、キックおじさんのスマホなんだけど、父さんの番号が無くて……」


「どれ、見せてみ」



 マルクから携帯を受け取る。キックもLAINEは使っていたようだ。まぁ今時使っていない方が珍しいか。

 LAINEにはホテルマンに操作を手伝ってもらった俺らのグループの他、キックのプライベートの知人の名も並んでいた。

 だが、カオるんの名前『鹿野香』は見当たらなかった。


 同じ職場でもLAINEをするような仲では無かったのか。

 アドレス帳を見た。俺の番号は入っていたがカオるんの名前はやはり無かった。異世界では当然通信は繋がらないのでスマホは使えない、わざわざ登録したりはしなかったのだろう。

 それはそうか、俺らはステータスでいくらでもメールも念話も出来たからな。


 俺が知ってるカオるんの電話番号を登録しようとして、同じ番号があるのに気がついた。

 その番号の氏名欄は『スーパー派遣』となっていた。



「ぶっ、はははは、ああ、ほらここにカオるんの番号あったぞ」



 そう言ってスマホを返すと、マルクはすぐに通話ボタンを押していた。

 しばらく耳に充てていたが、繋がらなかったのだろう。しょんぼりと、また収納鞄にしまっていた。



 俺はステータス画面を開いて、マルクにカーソルを当てフレンド登録を試みたが、反応しなかった。芽依や真琴に試したものと同じ結果だった。

 異世界から来たマルクならもしかして、と思ったがダメか。


 やはりフレンド登録はステータス画面がある者限定なのか、それとも地球ではもうステータスの念話やメールは使えないのだろうか?


『登録ボタンがあるんだから出来るさ』そう笑い飛ばすカオるんが浮かんだ。カオるんなら、そう言うな。


 都内に入って水死体が浮かぶ中を移動してきて、どうやら俺はナーバスになっているようだ。

 あの能天気な男を早くゲットしなくてはとつくづく思った。



 スマホが振動したので画面を確認すると、タウさんからの電話だった。



「もしもし、タウさん?今どの辺だ?」



 驚いた事にタウさんはかなり近くまで来ていた。聞けば、モーターボートで海を渡って来たと言う。

くっそぅ、俺は必死にゴムボートを漕いで来たと言うのに。



 マルクにホテルマンの元に案内してもらい、屋上へと出る事が出来た。流石は世界に名だたる有名ホテルだ。屋上にはヘリポートがあった。


 ホテルMAMANの屋上から千葉方面を眺める。一隻のモーターボートが近づいて来る。花火を上げる事を伝え、誘導した。


 先程ビルに入った水面近くのフロアをブックマークしておいたので、マルクを47階に残してタウさんを迎えに行った。勿論テレポートでだ。




 タウさんと感動の再会を果たした。


 タウさんからフレンド申請が飛んできた。地球へ戻って初めての『フレンド』だ。

 マルクの時と違い、はじかれる事なく承認に成功、フレンド欄に『タウロ』と表示された。


『ほらな』とドヤ顔で笑うカオるんが浮かんだ。

 さっそくフレンド欄からメールと念話を試した。



『タウさんお疲れ様』

『お疲れ様です。念話が使えると安心しますね。パーティも組んでおきましょう』



 タウさんからパーティの申請も飛んできたので承認した。

 それから階段へ案内したが、俺はテレポートで47階へ戻らせてもらう事を伝えた。(38階のホテルマンにも伝えてある。さっき38階もブックマークをしておいたからな)


 タウさんは少し引きった顔をしていた。

 いや、決して、モーターボートでらくに来た事の仕返しではない。

仕返しではないぞ?

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