第33話 その頃カオは①
隕石落下の翌日、15階の健康管理センターから窓の外を覗き、また外に出ようかと思った時、警備の古池さんに声をかけられた。
「昨夜はここに泊まったのか、鹿野さん、朝飯は食ったか?」
「ああ、昨日貰ったのがまだあったので」
嘘をついた。昨日貰ったのは助けた男性の横に置いてきた。けれど俺はアイテムボックスに食いもんを山ほど持っているからな。
今朝はまだ食べていないが、特に腹も空いていない。
「ちゃんとしっかり食えよ? こんな状態だから食欲が湧かないのはわかるが、こんな状態だからこそしっかり食って何かあっても直ぐ動けるようにしとかないと。それと水も飲め。ちゃんと水分を身体に入れないとな」
「あはは、そうだな」
流石は警備の人だ、体調管理を怠らないのも仕事のうちか。
「昨夜は避難で精一杯だったが今日は怪我人の救助と上の方のフロアに避難場所を作ろうと思ってな」
「あ、だからここに?」
「ああ、ここの管理センターに怪我人を運び込むので先生達に伝えにきた」
「ここに入り切らないんじゃないか? 昨日ちょっと見ただけでも酷い状態だったぞ?」
「ああ……。だが、出来る事はしたい」
「警備が3人と俺を入れても4人か」
「いや、今朝他の非常階段にいた警備員らと合流した。それに動ける社員さん達にも手伝ってもらう」
「ああ、そうか。防災センターの人は?」
「あそこは7階だ。水没した。……逃げたかどうかもわからんが、今のところは見かけていない」
そうか、マニュアル化されてた事が仇となったか。マニュアル外の事態に動くに動けず浸水で……と言う感じだろうか。
「先生や看護師さんを連れて、身近なとこから
「そうか、今、館内はどうなってる?」
40階建てのビル。よりによってこの日、社員全員に通達があると集められていた。各フロアはほぼ通常の社員が待機していただろう。
古池さんが眉間に皺を寄せて口を開いた。
「地下2階から12階までは昨夜水没した。今は10階まで下がっているが、今朝の6時からずっとその状態なので水がもっと下がるには時間がかかりそうだ。12階から下は……諦めて後回しだ」
そうだろうな。今生きてる者、怪我を負ってる者が優先だ。
「申し訳ないが、非常口がロックされている階も後回しとさせてもらう。ゆっくり説得している時間がもったいない」
「まだロックされているフロアは多いのか?」
「17階から21階、28階、30階から35階、37階がロックされている」
「うわっ、多いな。こんな事態なのに篭ってどうするんだ」
「こんな事態だから篭っているんだろうな。まぁ16階から40階まで全ての階の救助は無理だろうし、ある意味、篭ってくれて助かる」
「それもそうか、で? どこからやるんだ?」
「ああ、13階食堂、14階カフェと休憩室は、15階の健康管理センターに運びきれない人のスペースにする。今、中層階の手が空いてる社員に13、14の片付けに回って貰っている」
中層階、23〜27のアンロックのフロアか。
「16階から先生達を連れて回る。その後は23階から上へ、入れるフロアを回る」
「俺はどこを手伝えばいい?」
「鹿野さんは、悪いが
「テッペン?」
「38階は秘書室、役員室なんだが、残って居た秘書さんにロックを解除して貰ってある。39、40階も役員室なんだが屋上へ出れるのはそこからのみなんだ」
屋上にはヘリポートがあると聞いた事がある。役員しか屋上に出られないとは、偉い奴だけ逃げれるようになっていたのか!こすいな。
「屋上にはヘリがあるんだろ? さすがはやまと商事だな」
「いや、ヘリは無い」
「まさか、役員が既にヘリで逃げたあとか?」
「いや、ヘリは最初から無い。有事の際に呼ぶ手筈だ」
「だから昨日が有事で、ヘリ呼んで逃げたんじゃないのか?」
「それが……役員は全員、ここ
「えっ? 偉い人の話があるからと社員全員出勤させておいて、俺は知らなかったけど、派遣だしな。それで社員集めておいて、自分らは欠勤? どういうこっちゃ」
「それなぁ。うん、先輩が言ってたんだが、もしかしたら上の連中は知ってたんじゃないかってさ、隕石がいつどこに落下するか。だから数日前から出勤しなくなってたとさ」
「…………きったねぇ。下々にも伝えろよな」
「まぁ兎に角、それで鹿野さんには屋上に出て、SOSを作って欲しい」
「おう、わかった。そうだな、通りかかったヘリに気がついて貰えるようにしないとな」
「ヘリが通りかかるのはいつになる事やら……」
そうだな、日本どころか世界中に隕石は落ちたはずだ。国内外も今は混乱の真っ最中だろう。
ふと、窓の外に目がいった。
「ほら、あそこのビル。確かあのビル警察庁か警視庁。隣のビルとどっちがどっちか解らんが、それとあの辺はお偉いさんっぽいビルが多い。絶対ヘリの行き来はあるはずだ。通りかかったヘリにひとりでもふたりでも乗せてもらえればラッキーだ」
「鹿野さんはいつも前向きだな、俺もへこたれずに家族の元に帰るぞ」
古池さんは目尻に皺を寄せて笑った後、健康管理センターの奥へと去っていった。
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