第25話 その日、世界が沈黙した①

 ----------(カオ視点)----------


 非常階段は非常灯のみの点灯でかなり薄暗い。12階まで上がってきた水は、今は10階まで下がりそこで止まったようだ。しかしいつまた揺れや津波が起こるかわからない。隕石落下が終ったのかも不明だ。


 スマホで時間を確認した。非常階段を降りたり登ったりしているうちにいつの間にかもう14時過ぎになっていた。

 俺は22階……、いや、22階は無くなったんだ、23階の階段に腰掛けて身体を休めていた。


 さっき警備の古池ふるいけさん達が、階段にいる人達に水と乾パンを配っていた。13〜15階に収納されていた防災用品を運び出したそうだ。

 とうに昼を越えていたのだが、配られた物を食べている人はいなかった。皆、階段に座り込んで項垂うなだれていた。


 それはそうだろう。こんな未曾有みぞうの災害を誰が予想しただろうか。少し前に14階の社員カフェの窓から外を覗いた。

 周り一面が流された瓦礫がれきとその間から見える黒い水だった。14階から見て2階ほど下までそれら瓦礫と水がうごめいていた。


 恐らく10階より低い建物は完全にあの水に飲まれてしまっただろう。日比谷公園は見えなかった、公園の端にあった日比谷図書館……も見あたらなかった。図書館は確か四階かそこらだったよな。


 もちろん地下鉄の入口などは水の底だろう。銀座側……、JRの新橋駅も探したが見つからなかった。ここら一帯は瓦礫が浮かぶ黒い海と化していた。10階以上の高い建物だけが水から頭を出している状態だった。


 これはもう、帰宅困難どころの騒ぎでは無いな。東日本の災害の時は交通がストップした事で道は帰宅困難者で溢れていた。道路は車で大渋滞、歩道は徒歩帰宅者で大混雑だった。


 だが、今のこれは……。帰る帰れないの問題ではない。生き残った者は救助を待つしか無い状態だ。だが果たして救助は来るのか?

 日比谷公園の向こう側に水から頭を突き出したビルのひとつは警察庁だろう、その隣は警視庁だと聞いた事がある。警察に助けを求めても、あちらも似たような状態だろうな。


 

 明日になったら水は引くのだろうか?

 そもそも全く情報が入ってこないのがキツイな。被害を受けたのはこの辺りだけなのか?日本で無事な所から救助を出してもらえるのか。


 国会議事堂も武道館も見えない。そう言えば、日本の政府はどうなっているのだろう。

 タウさん達とも連絡が取れない。タウさんらは家族に会えただろうか?スマホは相変わらず圏外だ。


 あ、そう言えば俺のスマホはzuで職場ではいつも圏外だった。外の、確か日比谷公園では繋がった事あったよな?てか22階では繋がらず日比谷公園の地面に近い位置で繋がるとは、電波は高い位置の方がキャッチしやすいわけではないんだな。


 しかし今は低い位置は水の中だ。さすがに水の中こそ圏外だろうな。いや、その前に水に潜った時点で俺のスマホは壊れる。それにあの黒い海にはとてもじゃないが潜りたく無い。


 水の中は兎も角、このビルから離れれば繋がる可能性はあるだろうか?外に出て見るか……、いや、どうやって?泳ぐ?日比谷公園があった辺りを見るが、流れてきた瓦礫でゴチャっとしていて今は泳ぐのも無理そうだ。



 もっと近くで水面を確認しようと思い、23階から階段を降りて再度13階まできた。


「はぁはぁ、降りるのもひと苦労だな。いや、今日、何回往復したよ……そうだ! 13階もブックマークしておくか」


 さっきは23階の非常階段をブックマークした。13階もブックマークをした。現在非常階段に避難して来た社員達は、16〜18階のフロアか、20階以上の階段にいる。このあたりは今はひと気がないので助かる。

 魔法を使った。



「小さいライト!」



 豆電球くらいのライトが宙に浮かんだ。ふむ、地球でも魔法が普通に使えるんだな。階段の壁、『13F』の文字の横にライトを固定した。

 小さいとは言え非常灯よりは明るく階段を照らしてくれた。


 13階のフロアに足を踏み入れる。廊下にも小さいライトを貼り付けた。13階は社員食堂だがこんな災害時に食堂にくるやつはいない。それに今は10階で止まっている水がいつまた12階以上に上がってくるかわからないので、ここらに来る社員もいないだろう。

 13階のブックマークの方が人目に付きにくくて良いな。


 このフロアは東西南北の4つのスペースに分かれて4つの社員食堂となっている。そう、『社員』食堂なので派遣には使えない。支払い方法が社員カードのみなのだ。


 なので派遣であった俺はもっぱら安いランチを探して新橋駅からガード下辺りを毎日ふらついていたのだ。結構隠れた名店もあったのだが、今はそれも水の中かぁ。もう行けないと思うと惜しくなる。唐揚げ定食なんて週一で食べてたなぁ。それも10年前かぁ。いや、つい先日の事か。


 なんて事を考えながら初めて入る食堂の中を通って窓へと近づく。

事務フロアの窓ガラスは衝撃波で割れていたのに、どうして食堂フロアの窓は割れていないんだ? うぅむ、わからん。まぁいいか。

 出られそうな窓を探すが、何故か頑丈なはめ込み式の窓ガラスで開ける事は出来ないようだ。


 だが俺は知っている。と言うか、清掃管理の秋元さん情報なのだが、ビルは全階嵌め込み式の窓ガラスだが開く窓が各フロアに2箇所ずつあるそうだ。

 それを探して食堂内を移動する。



「見つけた!」



 食堂と調理室の間の、備品室のような小さな部屋の窓に把手とってが付いていた。開けるための把手。



「おっと、ここもブックマークしておこう」



 そうして把手を回して窓ガラスを押してみた。全開はしないが60度くらいは開く。頭を出して下を覗く。

 ベランダや柵があるわけではなく、ただ各階のあたりに突き出たコンクリの足場がある。


 普段なら13階と言う高さは恐ろしくて降りようなどと思わないが、今は3階下辺りに水…車や何かの箱やら何やらが壁近くにまっている。


 非常階段の水は10階あたりまで引いているので、そこから外に出られれば良いのだが、11、12階は非常口から中へ入る扉が開かず入れないのだ。一度は開いて社員達が出てきたそうだが、階段を水が上がってきた際に水圧で中へと扉がめり込んでしまったそうだ。

 水は一度12階まで浸水したが、中がどうなっているのかわからない。


 という訳で外へ出るには13階から飛び降りるのが早そうだ。としても三階程の高さか。ステータスがゲーム仕様なら飛び降りても問題はない(はずだ)。だが足場が……、足場でさえない状態だからな。どうする?


 躊躇ちゅうちょしていると大きなトラックが流れてきた。荷台が箱状のトラックだ。ネコの宅配車か。それが丁度この窓の下で壁にピタリとついて止まった。



「よしっ!」



 窓から身体を乗り出し窓枠に捕まるようにぶら下がった。そして手を離す。



「うひゃぁぁぁぁ」



 上から見るよりも結構な高さがあったな。心臓(と股間も)が縮み上がったぞ。


ガコンッ


 トラックの荷台に足から落下して尻餅をついた。浮いていたトラックが俺が飛び降りた振動でグラグラと揺れたが、横倒しになったり沈んだりはしなかった。



「ふぅぅ。上手く、いったな」



 水面に近づいた事で尚更災害の酷さを目の当たりにする事となった。

 黒い水の下は底どころか少し下でさえ全く見えない。これは……落ちたら死ぬな。


 トラックは荷台が浮き袋の役目を果たしているのか、半分くらいが水から浮き上がっていた。近くに幾つもの車が流されて固まっていた。乗用車は天井近くしか浮いておらず車体の殆どは水に浸かっていた。


 俺が乗ってる荷台の直ぐ横に押されて来た乗用車の、少し空いた窓から腕が出ていた。腕が動いた気がして俺は慌ててトラックの運転席側へ移動、足をかけて降りられるとこまで降りた。


 そこから乗用車の屋根に飛び乗ろうかと思ったが、乗用車は俺が屋根に乗ったら沈みそうだ。乗用車の窓から腕をダランと出した男の顔は、辛うじて水から出ている。だが意識は無いようだ。


 トラックを足場に乗用車の男の方に腕を伸ばす。



「掴んだ!」



 男の腕を掴んだと同時にテレポートを使った。



「エリアテレポート!13階の窓!」



 次の瞬間には、さっき出てきた13階の把手のある窓の内側、ブックマークした場所にいた。もちろん腕を掴んだ男性も一緒だ。


 床に寝かせた男性に回復魔法をかける。



「ヒール!フルヒール!」



 男性が呻きながら薄く目を開けた。良かった。やはり生きていた。もしも死んでいたら回復魔法は効かないからな。

 とりあえずここに寝かせておく。横にさっき秋元さんから貰った水と乾パンを置いておいた。



 そうだ、助けるなら早い方が良い。時間が経てば経つほど命は失われていく。もちろん俺如きが全ての命を救えるわけでない事はわかってる。

 だから俺は、目の前の出来る事だけをやる。近くで助けられる人を助ける事にした。


 暗くなったら見つけるのは困難だ。陽が沈むまでが山だな。そして窓からさっきのトラックの上に降りた。トラックの上もブックマークをした。毎回あの窓から落ちるのは、ねっ?


 それにしても、沈む車と浮かぶ車の違いがわからない。下手に乗っかるのは危険だな。目の前で流れてきた車がまた一台沈んでいった。

 どう言う流れなのか、このトラックの前は色々な物が流れていくが、トラックは丁度その流れから外れたのかやまと商事にビルの壁に付いたままだ。


 だが、グラグラした足場からもちょっとした弾みでこのトラックも流されるか沈むかするかもしれない。と考えた側から、向こうから大きいトラックがこちらに向かって流されてきた。


 マズイな、あれがぶつかれば沈むか一緒に流される。俺は慌ててアイテムボックスからWIZの杖を取り出し右手にしっかりと握った。


 結構なスピードで流れて来たトラックがこっちにぶつかる寸前に、杖で突いてアイテムボックスに収納した。



「ふぅ、危なかったな」



 それにしても『杖』は使える。これで近づいてくる物をどんどんと収納しよう。アイテムボックスにゴミ収集は少し気が引けたが、この際仕方がない。


 向こうの世界ではボックスの収納の限界を知る事は出来なかった。とにかく何でもどれだけでも入ったからな。

 なのでここでも限界が来るまで流れてくるゴミ、特に大物をバンバンと収納しよう。



ポコっ「収納」

ポコン「収納」

ポコリ「収納」



 荷物に掴まった状態の人を見つけた。だが、遠い。助けたいが目の前から5メートル以上先で届かない。



「ヒール!」



 とりあえず、投げヒールだけしておいた。すまん。




---------------------------------------


すみません、区切りが悪くてもう1話あります。

よろしくお願いします。╰(*´︶`*)╯♡


あと、どうしよう……タイトル詐欺?世界が出て来ん……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る