第24話 マルク地球で初めての災害を体験

 ----------(マルク視点)----------



 ダンジョンの塔から外の景色が見える。窓は危ないから近寄ってはダメだとタウロおじさんが父さんに言ってた。

 今は窓から離れた場所の椅子に座っている。椅子に座っても外が見えるくらい高くて広い窓だ。でも、空しか見えない。


 横の高めのカウンターには頭から血を流したおじさんと、肩あたりの袖が破れて血が出ているお姉さんがいた。

 お姉さんと目があった。



「キミ、大丈夫? 救急箱……この辺にあったはず」



 お姉さんはカウンターの背後の壁に見えた扉を開け、ごちゃごちゃした中を探っていた。



「あった、この中に……冷やせる物があったはず。あ、マネージャー、ガーゼあります。これで頭の傷をおさえた方がいいです」


「いや、お客さまが怪我をされていたらそちらに使いたい。三角巾は入っているか?君こそ腕吊った方が良くないか?」


「三角巾もありますが、お客さまに取っておきます」



 肩から腕に血を垂らしながらお姉さんが僕のおでこに触れようとして血だらけの手に気がつき引っ込めた。

 キョロキョロと見回して、タオルを見つけるとそれで手を拭ってから僕の頭にそっと触れた。



「医務室に連絡が取れたらちゃんとてもらいますね。今はこれを貼っておきましょう」



 そう言ってペタりと何かを僕のおでこに貼った。すぐにヒヤリとした。

 凄いな、魔法のアイテムかな?

 そう言えば子供の頃、ロムが馬車から落ちて足首を腫らした時に、父さんが何かを貼ってあげてた。


 でも結局ヒールで直ぐに腫れが引いてあつ子おばさんに大笑いされてたっけ。あの時貼ったやつと同じ物?

 あ、でもヒールすれば治るかな。僕は貼られた部分に手を当てて唱えた。



「ヒール」



 おでこに触るともう痛みも無く、ボコリと出っぱっていた部分も引っ込んでいた。でもせっかく貼ってくれたのでそのままにしておいた。

 お姉さんの肩とおじさんの頭にもヒールをしてあげようと思った。


 その時に再び、強い揺れに襲われた。


グラグラグラグラ、ガガガガガガガ、ガッシャーーーンガタガタガタガタ


 椅子ごと後ろ方に吹っ飛んだ。


 部屋の中に散乱していた椅子やテーブルがあっちに流れたと思うとそっちに流れたり。



「わあああっ」

「きゃあっ」

「うわっ」



ガッシャーシ、ザザザッ、ガッシャーシ、ザッザザザザッ


 す、凄いな。ダンジョンごと揺れてるの?敵が見えないんだけど何処どこからの攻撃なんだろう?


グワングワングワングワン……

 ドッキンドッキンドッキン、見えない敵、怖い。


 ゆっくりと横に揺れ出した。

 またいつ襲われるか分からないので、慎重に行動する。肘掛けもあるふかふかの椅子から静かに降りて、お姉さん達がいたカウンターへ低い体勢で近づいた。


 壁っぽい後ろの棚の扉がいくつか開いて中の物が降り注いだみたいで、お姉さんとおじさんは埋もれていた。

 気を失っているみたい。

 とりあえずヒールをしてみる。



「ヒール!ヒール!」



 おじさんとお姉さんにヒールをかけた。

 おじさんの頭、血が出ていた付近の髪の毛をまさぐってみたが、怪我は塞がったみたい。お姉さんの破れた肩の辺りの布を捲ってみたけど、こっちも傷は無い。ただ血だらけのままだけど。


 それから、テーブルやら椅子やらがごちゃごちゃした辺りに居たはずのお兄さんを探す。


 呻き声が聞こえた場所のテーブルを持ち上げて退かしていくと、顔の下半分がもじゃ髭のおじさんがうつ伏せに倒れていた。そのおじさんが抱き抱える様に小さな子供がいた。


 怪我の具合が解らないのでとりあえずヒールだな。気を失っているが胸が上下していたので生きていると思う。

 乗っかっていた椅子も退かす。


 少し先から女性の細い声が聞こえた。



「………リ、ンジー……………、ジェフ、あなた…どこ」



 慌ててテーブルを掘り進めると、そこには顔が血で染まり、鼻と口からも血を流している女性がいた。

 こんなに酷い怪我は、ヒールでは治せない。とりあえずヒールはかけるが、父さんのような魔法使いがいないとこれは無理だ。


 僕が持っている回復魔法はただの「ヒール」のみだ。父さんなら「グレートヒール」や「フルヒール』が使えるのに。

 

 そうだ!収納鞄、まだ中は見ていないけど魔法のスクロールが入っていないかな?

 鞄に手を入れると目の前に透き通った一覧表が現れた。


 一覧表を目で追う。

 あった!グレートヒール!

 父さんが入れてくれたんだ!20枚もあるよ。


 一枚取り出したが、そこで悩んだ。スクロールは自分が使う事が殆どだ。でも、攻撃魔法とかは敵に向けて放つ事が出来るんだから、回復魔法も人に向けて放てるはず。


 スクロールを開いて「グレートヒール」と唱えたら、自分に掛かってしまった。僕は何処どこも悪く無いのに勿体ない事をした。

 ……、人に使うのは無理なの?


 半分意識を失いかけているその女性にスクロールの端っこを触らせる。そのままスクロールを開いた。

 すると女性は薄い光に全身が包まれた。


 よっし、少しはマシなはず。



「おおい、大丈夫かぁ」



 カウンターの中に倒れていたおじさんが目を覚ましたみたいだ。



「ここです、ここに3人倒れてます!」



 お姉さんも目醒めたみたいでおじさんの後ろをついて来た。



「パターソン様、大丈夫ですか?」



 おじさんが髭もじゃおじさんに声をかけている。



東条とうじょうさんはどこでしょう?」



 お姉さんが心配そうに辺りを見渡した。



「僕が捜してきます。おじさんとお姉さんはこの人たちをお願いします」


 ふたりは頷くと、お姉さんが子供を抱き上げ、おじさんは女性を抱えて起こそうとした。


 僕は散らかっている椅子を避けながらお兄さんを捜す。あの時、お兄さんが歩いて行った方はこの辺だが、その後椅子やテーブルが結構流されていた。右側の流された辺りをまずキョロキョロと見て行く。


 あ、誰かの腕を発見。

 被っている重たいテーブルを退かすと、お兄さんがいた。腕が変な方向を向いている。息をしているか胸を触って確認しようとしたら、突然血を噴いたので驚いた。



「ガハッ、ゲホ……ぐっ」



 ああ、これもやばいやつ。僕のヒールじゃダメだ。鞄から「グレートヒール」を取り出して、お兄さんの曲がった腕の先の手に握らせる。

 ダメだ、掴んでくれない。左手は何処だ?

 左腕は完全に身体の下敷きなってダランとしている。


 どうしよう、こんな時、父さんならどうする?


『手がダメなら足があるじゃないか』


 父さんの言葉を思い出した。両手に荷物持っていた時に足が痒いと言い出した父さん。その時父さんがそう言ってサンダルを脱いだ右足で左足の脛をポリポリと掻いていた。


 僕は直ぐさまお兄さんの靴を脱がせて履いていた靴下を剥ぎ取った。

 足の親指をツンツンと触るとピクっと動いた。よし、指は生きてるぞ。そして足の親指と人差し指の間にスクロールの端っこを挟んで、スクロールを開いた。


 お兄さんの身体が薄く光ってスクロールが消えた。

 良かった。お兄さんの胸が上下して呼吸も上手く出来てるみたい。曲がってた腕も普通の角度に戻って、お腹の上に乗せていた。



「お兄さんはここにいましたー」



 髭もじゃおじさんを両側から支えて運んでいた2人に向かって叫んだ。

 あと他にもまだいるみたいな話をしてたよね?確か『ふた家族』って言ってたのが聞こえた。さっきの髭もじゃさんがひと家族だとしたら、もうひと家族がこのどこかにいるはず。

 もういちどカウンターの方へ向かって叫んだ。



「すみません、もうひと家族って何人ですか?それと、どの辺にいたかわかりますか?」



 お姉さんとおじさんが顔見合わせながら何か話してから大声で返事をくれた。



「もっとあっちの窓際に、いました。最初の揺れの前なのでどこに飛ばされたかはちょっと……。あとご夫婦です。お年を召したご夫婦でイギリスからいらしたお客さまです」



 もっとあっちか。椅子やテーブルの上を気を付けながら渡り、左側の方へ、さらに窓の方へと移動する。タウロおじさんが窓は気をつけるように言ってた。怖いけど、行くしかない。


 イギリスが何か解らない、あと、『おとしをめした』もよく解らないけど夫婦だから2人か。

 窓に近い場所で2人が折り重なっているの見つけた。


 けれど…、首がおかしな方へ曲がっていたので、多分もうダメだろうと思った。

 お爺さんとお婆さんだ。一目見て、ダメなのがわかった。


 ムゥナの街から馬車で王都へ移動した時に、途中で魔物に襲われたらしい馬車の残骸を見つけた。

 「もう……」とか「死んでるな」とか、大人達が言ってた。5年くらい前かな。父さんは子供でも「人の死」は経験しておいた方が良いと言い、僕らに見せた。


 動かない。人の身体から何かが抜けた塊のような感じがした。

 父さんはそれを「魂が抜けたからな。人は死ぬと魂が抜けるんだ」と教えてくれた。

「抜けた魂はどこに行くの?」そう聞いたら、「神さまの元に行って、また新しく生まれ変わるんだよ」と教えてくれた。


 この2人はもう、魂がここに無い気がした。


 僕が2人の横で座り込んでいたら、おじさんとお姉さんが来て、お爺さんの首に手を当てていた。

 おじさんはお姉さん向かい、顔を横に振った。そしてお婆さんにも同じ事をした。


 お姉さんは僕を抱え込むようにして立ち上がらせてカウンターの方へと連れていった。



「ごめんね、ごめんね」



 何度も僕に謝っていた。何でだろう。

 僕をさっきの椅子に座らせたあと、何処どこかから持ってきた白い大きな布をお爺さん達にかけていた。


 それから僕ら、おじさんとお姉さんとお兄さん、髭もじゃさんとお姉さんと子供と僕の7人は、廊下を進み階段をひとつ降りて、階段に近い部屋に入った。


 その部屋には大きなベッドがふたつあった。

 髭もじゃさんとお姉さんと子供をそこに寝かせた。ヒールで傷が治っても失った血液は直ぐには復帰しない。みんなふらふらだったからね。

 おじさんはその部屋に残った。


 僕らは隣の部屋に入り、お兄さんお姉さんと僕がその部屋のベッドで横になる。

 大きなベッドがふたつあったが、大きなソファがベッドに変わった。父さんの国はビックリする事が多いなぁ。



「少し休もうか」



 お兄さんがそう言ってベッドに変身したソファーに横になった。お姉さんが僕をベッドに寝かせて、余ったベッドに横になった。

 ふたりとも直ぐに寝息が聞こえてきた。


 部屋は灯りが点いておらず、お兄さんが持っていた灯りがベッド横のテーブルに置かれた。

 どうしよう、ライト魔法が使えるけど、ふたりとも休みたいならこのくらいの暗さの方が良いのかな?


 僕もベッドに横になった。

 物凄くふかふかのベッドだ、頭の所にクッションが沢山ある。1、2、3、4、全部で4つ。このベッドもかなり大きいし4人用なのかな?


 ベッドの感触を楽しんだけど、眠くはならない。僕は血が出るような怪我はしていないし、特に体力使ってない。

 さっきヒールを何回か使ったけど、魔力はどの位減ったのかな?


 父さんはよく魔力を『MP』と言ってた。それで、MPの量が判るみたいで、パラおじさん達とダンジョンに行くと、

『MP半分きった』とか『MP満タン』とか言ってた。


 冒険者の知り合いで魔法を使える人に聞いたけど、

『自分の魔力の残量?そんなの判らないよ。魔力切れになる直前はかなり気分が悪くなるのでそれで気がつくかな?』

とか言ってた。


 今、別に気持ち悪くないし、魔力切れは大丈夫かな。


 そうだ、収納鞄の中身を見てみよう。何が入っているのかな。鞄に手を入れて一覧表を出す。


帰還スクロール 10

テレポートスクロール 10

解析スク 10

解呪スク 10

変身スクロール 10

復活スクロール 10


 おおお、スクロールが沢山入っている。帰還スクロールはダンジョンに行く時は必須だって父さんが言ってた。『マズイと思ったら即帰還』が生き残るコツなんだって。


 ダンジョンで帰還スクロールを使うと街の門の中に戻るんだけど、ここで使ったらどこに戻るんだろう?解らないから使わないでおこう。父さんに会ったら聞いてみよう。


 テレポートスクロールもある!そうだ、ここをブックマークしておかなきゃ。テレポートはブックマークが基本って言ってた。

 ええと、ここは……『父さんの国の大神殿』でいいかな。その名前でブックマークした。


 解析スクロール?解呪スクロール?どっちも使った事ないな。これって女神像では作れないスクロールだよね?

 ゴンザレスおじさんの店で作った物かな?ゴンザレスおじさんは王都で『ゴンザエモン』と言うスクロール屋さんをやってるんだ。父さんの友達でたまに遊びに行ってた。


 変身スクロールも使った事ないや。あ、復活スクロール!これは犬や馬とか動物を飼ってる人は必須だって言ってた。可愛がってる動物に何かあった時に使うんだって。死んでしまったら即復活させるのだけど、出来るだけ死なないようにするのが飼い主の勤めだって言ってた。


 あ、さっき使ったグレートヒール以外も色々ある!


ヒール 10

グレートヒール 17

ライト 10

テレポート 10

ヘイスト 10

ブレスドウエポン 10

ブレスドアーマー 10

シールド 10

ファイア 10

アイスダガー 10


 ヒールとかライトとか習得済みの魔法のスクロールだけど、魔力が不足しても使えるようにブランクスクロールには常時詰めておくんだって、父さんが言ってた。さすが大魔法使いの父さんだ。




初級回復薬 10

上級回復薬 10

魔力回復薬 10

毒消薬 10


 凄いな、回復薬も沢山!毒消もある。父さんは毒消の魔法が使えるけど、僕はまだその魔法は習得していない。


魔石 100


 魔石が百個!でも僕が習得している魔法は魔石を使わないモノばかりだ。そのうち習得出来るかなぁ。この国の魔法習得の女神さまの像は何処にあるんだろう?父さんに会ったら聞いてみよう。


+7シルバーロングソード

+7オークボウ

アロー 10

シルバーアロー 10

ミスリルアロー 10

オリハルコンアロー 10


 武器は…、剣と弓か。あれ?僕はウィザードだけど杖が無い!杖が無くても魔法は使えるからいいけどさ。でもちょっと杖に憧れはある。父さんが杖を持ってる時ってカッコいいんだよね。あと、物を拾う時に便利?ダンジョンで魔物が落とした物を拾う時に父さんはよく杖で突いてアイテムボックスに収納している。

 屈んで手で拾うよりスマートだよね。



+10コットンローブ

+6マジックヘルム

+6マジッククローク

+6レザーブーツ

+6パワーグローブ

+6レザーシールド


 ん?この辺は装備かな?魔法使いのローブと、帽子とマント。それから靴と手袋と盾。うわぁ、着てみたいなぁ。

 あと…、フルーツ?ダンジョンのフルーツだ。うちの店でも売ってるやつだ。やまと屋でお弁当とセットで売ってた。『サンドイッチとバナナ』とか。


 ダンジョンバナナって名前で王都では有名なんだって。凄く美味しいんだよね。うちでもみんなよく食べてた。

 あ、うちのデラックス弁当も入ってる!これ高いやつだ。


バナナ 10

リンゴ 10

オレンジ 10

メロン 10

やまと屋デラックス弁当 10


プレゼント 3

タブレット


 ん?プレゼントって何だろう?それも3個?

 気になったので収納鞄からひとつ出してみた。



 綺麗な布に包まれてリボンもかけられていた。そしてメモが挟んである。


『13歳のマルクへ』


 これ、今開けてはいけないやつだ。

 僕はまだ12歳だから、これはしまっておく。13になったら開けるんだ。楽しみだなぁ。


 タブレットって大きなスマホ……かな?父さんは持って無かった。あつ子おばさんが持ってた?



 収納鞄に入っているのはそれで全部か。

 それと気になっている『スマホ』。マルクへとメモがゴムで留めてあったけど、誰のスマホだろう?

 使い方が解らないから、明日、お兄さんかお姉さんに聞いてみようと思う。


 何か眠くなってきた。今日は色々あったからな。ちょっと休もう。それで、明日、起きたら父さんを探すんだ。

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