皇城のパーティー ②
次の日の夜。
サナとアルベルクは、パーティー会場であるベルガー皇城にやって来た。ド派手なパーティーが開催されている来賓用の宮に案内される。
「南部リーユニア領主、アルベルク・ド・エルヴァンクロー公爵並びにサナ・ド・エルヴァンクロー公爵夫人のご入場です!」
サナとアルベルクは歩幅を合わせて入場する。
漆黒のマーメイドラインのドレス。そこに施された青色の繊細な柄が美しい。ホルターネックのため胸元は覆い隠されており、白く滑らかな肩や腕は大きく露出している。スカート部分のスリットからは、艶かしい脚が見え隠れしている。ローズブロンドの長髪はお団子にして纏め、その周りを三つ編みでぐるりと彩り、青と黒のリボンで飾りつけている。耳や首元、腕で光るアクセサリー類は全て、皇都の貴族たちも喉から手が出るほど欲しい高級品であった。
アルベルクの服装も、サナと対になっている。シャツからベスト、ボトムス、マント、何から何まで漆黒で埋め尽くされており、ところどころ青色が鏤められている。ネクタイは、21歳の誕生日にサナがプレゼントした物だ。
ふたりの左手の薬指には、銀色の揃いの指輪が光っている。
「エルヴァンクロー公爵よ……!」
「公の場にいらっしゃるのは何年ぶりかしら?」
「相変わらずハンサムだわ……」
「お歳を重ねると共にますますかっこよくなられましたわね」
未婚の令嬢たちも、既に結婚している夫人たちも、アルベルクの類稀なる美貌を褒め称える。
今回、パーティーに出席する女性陣の中には、アルベルク目当ての者も数多くいるだろう。簡単に落とせる相手ではないことは百も承知のはずだが、彼の妻が元悪女ともなれば話は別。ワンチャンあるんじゃね? と浅はかな期待を寄せていることだろう。
(まぁ、そんなチャンスないんだけど? ワンチャンどころかゼロチャンなんだけど? この人は私のだから。それが分かってても近づいてくるなら、相手してやるわ。あなたたちの期待をへし折ってやるから!)
サナは瞳に闘志を宿し、メラメラと燃える。
「綺麗だな……」
「あぁ。認めたくないが、帝国でも一、二を争うほどの美人だ」
「クソッ……。悪女じゃなければアプローチしてたのに……」
「だが正直、あの見た目だったら悪女だろうがそうでなかろうがどうでも良くないか?」
「確かに……」
女性陣に続き、男性陣も騒ぎ始める。結婚してますま美しく成長したサナに、心までも奪われそうになっているのだ。
「エルヴァンクロー公爵と結婚して落ち着いたらしいし、今ならチャンスじゃないか?」
「おい……! 相手はあの南部の覇者だぞ!? 喧嘩を売るようなものだ」
「でも、愛し合ってないならいいだろ?」
聞こえてくる下品な声に、サナは深く溜息をつく。アルベルクを狙う女性陣にもチャンスは与えないが、自分を狙う男共にもチャンスは与えない。何より、隣にいるアルベルクがそれを許さないだろうから。
サナはアルベルクの顔を見上げる。絶対零度の目。血の気も引くような冷たい視線に、サナはもちろん、下品に会話を
「皆さん、私たちが物珍しいんでしょうね」
「………………」
「かつて皇都を騒がせた悪女と滅多に姿を現さない謎に包まれた貴公子の夫婦が、結婚後初めて、公の場に揃って姿を見せたのですから」
サナとアルベルクは、結婚後初めて公の場に姿を現した。皇都で最も評判が悪かったサナと、地位や品格、名声はもちろん、
「一年経った今でも、離婚するだろうと囁かれているようですが、仲睦まじくパーティーに出席したのですからその噂もなくなるでしょう」
アルベルクに微笑みかける。悪女が見せた可憐な笑みは、男性だけでなく女性までも魅了する。
これまではエルヴァンクロー公爵城に大事に秘められていたサナの魅力だが、公の場に出席したことで、多くの人々に彼女の魅力が知れ渡ってしまう。それを恐れたアルベルクは、彼女の顔を隠すように近づく。
「アルベルク様?」
「大勢の人間がいる場で、不用意に笑うな。変な気を起こす輩がいたらどうする」
「そ、そんな無茶な……。ほかでもないアルベルク様に向けた笑みなのに……。そ、それを言うならアルベルク様だってその顔自体が罪ですよ」
アルベルクは目を見開く。
「その無駄に美しい顔を見せびらかさないでください」
「……それこそ無茶な頼みだ」
周囲の人々は、目の前で繰り広げられる会話が信じられなかった。サナとアルベルクが可愛らしい言い争いをしているなど、信じたくないと言ったほうが正しいかもしれない。
明日には、皇都に噂が広まっているだろう。サナとアルベルクがすぐに離婚するという噂は虚偽で、ふたりはほかの誰も入り込めないほど愛し合っているという噂が――。
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