第48話 愛し合いましょう ※直接的な表現はございませんが、行為を示唆する表現がございます

 目の前に広がる光景、置かれた状況から、アルベルクと夜を共にするという未来がさらに現実味を帯びる。


「えっと、その……灯りは消したほうがいいですよね!」


 ベッドサイドで光を放つランプに手を伸ばすが、その手をパシッと取られてしまった。顔を上げると同時に唇を深く塞がれる。視界いっぱいには、アルベルクの尊顔が広がった。


「んっ……」


 キスの角度が変わり、思わず声が漏れてしまった次の瞬間、唇を舐められる。サナは思いっきり目を見開いた。あまりの衝撃に口を開くと、待ってましたと言わんばかりに舌が侵入してくる。逃げようと腰を引くが、肩を押されてベッドに倒されてしまう。そのまま両手を恋人繋ぎされ、動きを封じられた。舌を絡み取られ、口内を蹂躙じゅうりんされる。


「んっ、ふっ……ン……」


 自然とくぐもった声が出る。

 乱暴なのに、節々に繊細なテクニックとアルベルクの優しさが感じられる。それがまた、サナの恋心を加速させた。口端から飲みきれなくなった唾液が流れ落ちると、ようやくキスが終わる。アルベルクは、サナの口端を流れる唾液を舐め、自身の唇を親指で拭う。サナの目には、彼の仕草があまりにも扇情的せんじょうてきに映った。


(お、男の人の目だわ……)


 アルベルクの美しい瞳は、熱を宿していた。彼の全身から溢れ出る男のオーラに、サナは気圧される。ベッドに誘ったのは彼女のほうだ。それにも拘わらず、アルベルクよりも断然緊張しているし、尻込みしてしまっている。

 まっすぐとこちらを見つめてくるアルベルクから目を逸らした時、首元に口付けを落とされ、ぢゅっと音を立てながら吸われる。痕をつけられたのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。


「アルベルク、様……」

「肌が白いから印がよく映えるな」

「え? んっ……」


 アルベルクはサナの首だけでなく、肩、胸元にも痕を鏤めていく。擽ったくもあり、気持ち良くもあるその感覚に、サナは身を捩った。バスローブの紐を優しく解かれる。純白のローブの下から現れた下着に、アルベルクは目を見張った。


「こ、ここ、これは、その、違くて……」


 サナは自身の体を覆い隠しながら、誤魔化そうとした。しかし今、この状況で彼女が纏う下着を見て、その誤魔化しに騙される者などいないであろう。

 純白の生地に、赤色のレースとリボンで彩られた際どい下着。紐と布切れで辛うじて隠れているものの、サナの豊満な体つきを隠し切るには役不足であった。

 アルベルクは、ランジェリーを纏った彼女を凝視し続けている。


「あまり、見ないでください……」

「それは、無理だろう……」


 アルベルクはサナの手首を優しく掴み、そっと体の上から退ける。アルベルクの眼前に晒されたサナのあられもない姿。彼はただただ、彼女の体を眺めていた。


「綺麗だ、サナ」


 アルベルクが呟く。サナの顔がさらに紅潮した。自分ばかりが恥ずかしい思いをしていると感じた彼女は、アルベルクの腰元に手を伸ばす。バスローブの紐を引っ張り解くと、胸元がはらりとはだけた。鍛錬場で盗み見た時と同じ体が目の前に広がった。綺麗に割れた腹筋に、たくましい胸筋。鎖骨を流れる汗から腰元の小さなほくろまで、全てが美しい。サナは芸術的な体に手を伸ばし、胸元をするりと撫でる。


「ん……」


 アルベルクは小さくうめく。サナは、彼の胸の下、そして腹筋をなぞり、臍を触る。どうやらイケメンは、臍まで綺麗みたいだ。まじまじとアルベルクの体を観察しながら、無我夢中で手を這わす。上半身を触るだけでは飽き足らず、さらにその下に手を伸ばそうとした時――。手を取られてしまった。が、サナのほうが一枚上手だった。もう一方の手をすかさずアルベルクの太腿に這わしたからだ。程よく筋肉のついた太腿を撫でて、至福の一時に浸っていると、なぜか殺気を感じる。殺気を放っているのは、間違いなくアルベルクだ。


「アルベルク様?」

「……お前は男を挑発するのが上手いようだな」


 額に血管を浮かび上がらせるアルベルク。


「っ!? ご、誤解ですっ!」


 サナはぴゃっと手を引くが、アルベルクに手を掴まれる。


「男の体を好き勝手触って今さら誤解だと抜かすのか。男を燃え上がらせる口も上手いようだ」

「ち、違いますからっ! 男とかそういうことではなく、アルベルク様の体だから触ってみたかったのです!」


 そう叫ぶと、アルベルクは瞠目した。

 愛する人の体を触りたくないなどと言う者は、少数派だろう。多くの人は、愛する人の体に触れたいはずだ。


「サナ……。頼むから、あまり煽ってくれるな……」


 アルベルクはサナに優しい口付けをしながら囁いた。アルベルクの温もりと優しさを全身で感じたサナは、彼の頬を両手で包み込む。



「いっぱい、愛し合いましょうね」



 間近で見つめる。サナのその一言にアルベルクは溜息をついてから、仕方がないとでも言うように微笑んだのであった。

 夜はまだ、始まったばかり。

 夜がさらに深くなるにつれて、ふたりの愛も深くなる。

 今夜、人生で最大の幸せを噛みしめることとなるだろう。

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