第8話 ポートグレイス

 少年に腕を引かれながら、カロンは薄暗い通路を駆け抜ける。足の速い少年に強く引かれていると、自分の足の速さが追い付いていなくて、まるで一歩一歩飛んでいるかのような錯覚さえした。

 普段は体感できないスピードなのだが、この状況で楽しむことなどできるはずもなく、足をもつれさせて転ばないようにするのが精一杯だ。

「……あっ! ちょっと戻って!」

「はぁ?!」

 キュッと靴底が床を擦った音が響く。怪訝な顔をする少年の腕を引っ張り返して、カロンは一瞬目の端に捉えた場所へと、足早に下がって行った。

「なんなんだよ、早くしないと他の看守が……」

「荷物!」

 そう返しながら、乱雑に物が置かれた部屋へと足を踏み入れる。カロンが見つけたのは、囚人の荷物を留置する部屋だった。

 他の囚人の所持品は、適当に山積みにされていたものの、カロンのものだけ、分かりやすいところによけて置いてある。きっと、ショーンはすぐに返すつもりで、他のとは分けて置いておいたのであろう。

「よかった……!」

 荷物も剣も無事なことを確かめ、束の間の笑顔を綻ばせる。

 一方、少年は少年で、その積み上げられた荷物の山を漁っていた。身を埋める勢いで引っ掻き回していたのだが、やがて顔をしかめて舌打ちをする。

「……やっぱり無い、か」

「探し物?」

「ああ、でも無いみたいだから、さっさと逃げねぇとな。早く来な、予想より時間くっちまった」

 言うや否や、少年はカロンの腕を引いて再び駆け出した。気付けば、遠くから複数の足音が慌ただしく聞こえる。彼の言うとおり、異変があったことに気付かれてしまったらしい。不安が胸を過ぎる。

 しかも、少年は出口に向かう様子が無いと来た。カロンの記憶が正しければ、こんな道、通っていないはずである。

(まさかこの人、方向音痴なんかじゃないよね……?)

 さらなる不安が押し寄せてくる。追われている身とあっては、胸のざわつきはより一層強くなった。

 このまま黙っているべきか、それとも確認すべきか迷う。するとその手を引いて、少年は無人の牢屋に飛び込む。ギョッとした。

「ね、ねぇ! 牢屋になんか入ってどうするの?! このまま閉められたら、捕まっちゃうよ!」

「いいから、ちょっと見てろって!」

 顔面蒼白にしてうろたえるカロンをよそに、少年はつかつかと、牢に据え付けてあった椅子へと近寄る。短い唸り声と共に、かなり力任せに椅子をどかすと、それは床をガリガリと削って、後ろに隠してあったものをさらけ出した。

 壁にあいた、脱獄の跡を。

「さ、俺らも出るぞ」




 ‡‡‡




 湿っぽい土の中を、四つん這いになって進む。

 先ほどの地下牢なんか比べ物にならないくらい、暗くて狭い、息が詰まってしまいそうな脱出路は、時間の感覚を狂わせていた。あとどれだけ進むんだろう……自分たちの後ろから追手の声がしないことを気にしながら、必死に少年について行ったときだ。

「痛っ!」

「ぅえっ?!」

 奇妙な上擦った声をあげたのは、少年。すかさず自分の尻を押さえる。

 カロンもぶつけた鼻を押さえていた。

「痛ぁ……ごめんね。急に止まるんだもん」

「わ、わり……」

 鼻を摘まれても分からない暗闇の中。少年は、止まる前に一言かけるんだったと、少し反省をした。

「何かあったの?」

 暗闇で何も見えず不安な中、カロンは尋ねた。

「何かっていうか……出口だよ」

「……どこ?」

 光が差し込んでいないので、出口と言われても分からない。目を凝らすカロンの前で、少年は出口を塞いでいた物を押しのけた。

「ほら」

 先に出て、手を差し出してくる少年に引っ張られてみると、一瞬周りの景色が白く飛ぶ。

「うっわ、眩しい……モグラの気分が分かったかも」

「お前、変わったこと言うのな」

 地下牢に入った時には真上に登っていた太陽も、今は少し傾きかけていて、目の前に広がる大海原を、まるで暖炉で燃える炎のように輝かせていた。

 今まで濁った空気しか吸えていなかった分、大海原を駆けてきた磯の風が、すっと胸を通り抜けていく感覚が気持ちいい。

 深呼吸を繰り返すうちに、「そうだ」と、カロンは大切なことに気付く。安心しきっていて忘れるところだったが、隣に立つ少年に向き直った。

「えっと、助けてくれてありがとう! 私はカロン。ディーン族の、カロン」

「ああ、いいって! カロン、な。俺はシャドアル。シャドアル……」

 そこで、少しだけ少年――シャドアルの表情が曇った。どうかしたのかと小首を傾げるカロンだったが、シャドアルはそれを誤魔化すように、話を流してしまう。

「……まぁ、あれな。お互い無事に出れて良かったな!」

 陰りを掻き消すような、屈託の無い笑顔で言われ、カロンもつられるように、大きく頷き返した。あまりに清々しい、いい笑顔で言われたので、シャドアルが一瞬見せた表情は気のせいだと思ってしまう。

「うん! 本当にありがとう! えっと……シャドアル、さん?」

「いいよ、さん付けなくて。馴れて無いし」

 小さく肩を竦め、シャドアルは言う。

 そっか、とだけ返すと、カロンは改めてあたりを見渡した。

「ところで、シャドアル。その、ここはどこなの?」

「どこ、かあ。……お前に『ポート・グレイス』つって、通じるかなぁ?」

 頭の後ろを掻くシャドアルに、カロンがふるふると首を横に振った時だ。

 けたたましい喧騒が背後から降ってわいた。

「おおっ?! てんめぇ、やんのかオイゴルァッ!!」

「ああん?! 上等だテメェ表出ろっ!!」

 野太い威嚇の声が小屋の中から響いてきたかと思うと、次いで何かが激しく落ちて割れる音、重いものがひっくり返る音、そして悲鳴まで聞こえてきた。極め付けは、小屋の壁をぶち破って、丸々と太った男が転がってきたのである。

 空いた穴から、どっと野次が溢れでてきた。

「……訂正、昔はポート・グレイス、な」

 一連の流れを見届けて、呆れ果てた顔でシャドアルは言った。とは言っても、呆気にとられて口が半開きのカロンの耳には届いていなさそうである。

「……えっ、あっ! ねえ! 今おじさんが飛び出てきたよ?!」

「……うん、そうだな。飛び出して来たな。ここじゃ日常茶飯事だから」

 溜め息混じりに教えるシャドアルだが、確かに日常茶飯事と言うだけあって、もうすっかり馴れた様子である。

 飛び出してきた男を追って、男が小屋から大股で歩いて来る。突っかかる。殴る。殴り返す。

 周囲の人間は老若男女問わず暴力的な野次を飛ばし、くたびれた帽子をひっくり返してふらふら歩く男が賭け金を集め始める――

 状況が飲み込めずにいたカロンの顔が、それを見て段々と青ざめていく。どうやら、やっと地下牢を出たと思ったら、とんでも無い場所に出てしまったようだ。

「ごめんね、もう一回こんなことを訊くのは変だって、分かって、いるんだけど……」

 段々と語尾はすぼんでいき、もごもごと口ごもりながら、カロンは今最大の不安を投げかけた。

「ここは、どこ?」

 口を一文字に結び、軽く鼻から息を吐いた後、シャドアルは答える。

「ポート・グレイス。昔はお偉いさん方御用達の港だったわけだけど、今は海賊達の溜まり場だ。……付いて来な、カロン。ここで離れると厄介だぞ。お前みたいな小さいのは特に、さ」

 ちょいちょいと指を曲げる彼に、カロンは慌てて尋ねた。

「ど、どこに行くの?」

 完全に尻込みをしている。シャドアルが爪先を向ける先は、いかにもガラが悪いのがたくさんいそうな――それこそ、先程の暴動が頻繁に起きていそうな路地だったから。

 カロンの様子に同情しない訳でも無いが、シャドアルは片眉を釣り上げて言った。

「作戦会議できる場所、行かなきゃだろ」

「作戦会議?」

「お前、助けたい奴がいるから出て来たんじゃねぇの?」

 はっと息を飲む。赤い瞳が、まん丸に見開かれた。

「……手伝って、くれるの?」

「カロンみたいな小さいのが、一人で出来るとも思えねぇし。一度乗りかけた船だ、付き合ってやんよ!」

 なんて、気持ちの良い返事だろうか。シャドアルの人の良さに、最初こそ何も言えなかったものの、込み上げてきた思いをやっとのことで返す。

「っ、ありがとうっ……!」

「お前、感動し過ぎだって」

「だって、いきなりこんな良い人に会えるって思ってなかったから……!」

 感動のあまり、首を肩に埋めるカロンに苦笑したが、シャドアルとて「良い人」と言われて、嬉しくない訳がない。苦笑いには、若干の照れ隠しが含まれていたのだ。

 やがて、一言二言交わした後に、二人は路地に向かって歩き出す。背後では、相変わらず男共の喧嘩が続いていた訳だが……カロンはとりあえず、聞いて聞かぬ振りをしておいた。

 そうでもしなければ、せっかく芽生えた希望の芽が、しなしなと萎えてしまいそうだったからである。

(大丈夫、シャドアルの後ろにくっ付いて行けば、大丈夫……)

 ギュッと拳を握り締め、自分を奮い立たせながら、カロンは心の中で呟く。

(ちょっと、賑やかなだけだもん。集落と大分違うから、慣れていないだけ……)

 それだけで済まされるとは思えない、悪い意味での賑わいっぷりだが。

 案の定、路地の裏へ行けばいくほど、治安は悪くなるばかりだ。しかも、あちらこちらにいるのは、見るからに普通の船乗り達では無い。

 傷だらけの体、数本抜け落ちた黒い歯、そして高価ではありそうだが、組み合わせが滅茶苦茶な服装。とりあえず、あったから身に着けてみたといった感じだろう。……「あった」ではなく、「奪った」可能性の方が遥かに高そうだ。

「……ねぇ、シャドアル。この人達って、みんな……」

「あんまり『そうじゃない』フリすんな、面白がって近寄って来られるぞ」

 ここで言う「そうじゃない」とは、すなわち「海賊じゃない」と言う意味だろう。カロンは慌てて口を噤み、ちらちらと周りに目線を走らせた。


 先ほどシャドアルが言った通り、ここは昔、「ロイヤル・ポート」と呼ばれ、その名の指す通り、貴人達の所有する船専用の港だった訳である。カッタトスに来たカロンが、最初に辿り着いた港とはまた別の位置にあるのは、商業船と個人の船が別物であったことに他ならない。貴人の方も、貨物船が行き交う賑やかな……悪く言えば騒がしい港は好まなかった訳だ。

 しかし、貴人の船である。身分が高く、お金持ちの船である。海賊達が狙わない訳が無かった。続々と海の荒くれ者達が集りだし、出航直後だろうと、出航前だろうと、お構いなしに貴人の船を襲い始めたのだ。

 そんなこんなで、ポート・グレイス一帯は危険地帯となり、貴人はおろか、一般人も近寄らなくなった。美しい港には、あっという間に海賊達により占領されてしまったのだ。

 つまり、今このポート・グレイスにいるのは、海賊のみ。いわばここは、海賊達の楽園なのである!

 ……と、ここで、話を元に戻そう。


 カロンが視線を辺りに走らせてみても、目に映る人全てのガラが悪いのは、当然のことであった訳だ。

 それらとできるだけ目を合わせないように、シャドアルの背中だけを見つめながら、カロンは内心顔をしかめる。

(……お酒の匂い、強いなぁ……)

 やがて、二人が一軒の酒場の前で止まる頃には、カロンは慣れない酒の臭いで頭痛すら覚えていた。酒の臭いに、汗の臭い、そして正体の分からぬ悪臭も混ざっていたのだから、もう散々である。

「おい、大丈夫か?」

 端から見ても具合が悪そうなカロンに、シャドアルは肩を揺すりながら声をかけた。

 正直、揺さないで欲しいところだが、耐えて首を縦に振る。全然大丈夫じゃないが、ここは根性というやつだ。手伝ってもらえるというのに、弱音を吐いて困らせるのは、申し訳無い気がしていた。

「……シャドアル、ここは?」

 これ以上意識したら、もっと気分が悪くなってしまうに違いない。そう直感したカロンは、顔を上げて、目の前の建物を見た。

 赤煉瓦レンガ造りの、古びた酒場だ。等間隔に付けられた窓には、植物の蔦を模した鉄格子が設置され、一見洒落て見える。レンガが所々欠けていたり、落書きされていたりするのが勿体無いと感じた。まあ、ここなら致し方ない事なのかも知れないが。

「俺らの仲間がよく使ってる酒場な。で、今回の作戦場所。……沢山飲んでねぇと良いけど……」

 ちらりと、カロンを気遣うような視線を投げたシャドアル。彼の様子を窺う限り、どうやら「沢山飲んでいない」望みは薄いらしい。覚悟が必要そうだ。

「……そんな、強張った顔すんなって。大丈夫だから、な?」

 多分。木製の扉を押し開けながら、シャドアルが極めて小さな声で呟いた最後の言葉を、カロンは聞き逃さなかった。

 息を止める間も無く、濃厚なアルコールの匂いがカロンを出迎える。居るだけで酔っ払ってしまいそうだが、予想より遥かにマシだった。

(お酒の匂いは強いけど、お酒だけの匂いだから、まだ良いのかも……)

 ふわふわとした心地で、店内を見渡す。暗い室内に据えられた、いくつもの丸いテーブル。その上に置かれたランプにぼんやりと照らされるのは、やはり、海賊だらけだった。

「おう、帰ってきたか! シャドアル!」

「見つかったか?」

 近くのテーブルで酒を飲み交わしていた海賊達が、豪快な声でシャドアルに声をかける。

 しかし、シャドアルの口から漏れたのは、一つの溜め息のみ。俯き加減に首を振ると、海賊達も肩を落とした。

「やっぱ、ねぇかぁ……」

「ていうかさ、酒飲んで無いで、ちょっとは手分けして探そうとは思わねぇの?」

「無い!」

 シャドアルはずっこけた。

「探せよ!」

「だって、あいつらが持って行ったのはハッキリしてるしよぉ。一人行きゃ十分だろ」

「けっへっへ、それで無かったらそこまでよ」

 気楽に、脳天気な答えを返す海賊達。外にいたのと違って、この人達は随分陽気な感じがする。

「……ところでよ、シャド。そこのカワイコちゃんは、どうしたんよ?」

 ふと、話題がカロンに振られた。たちまち海賊達は、好奇の目をカロンに集中させる。

「おー、シャドアルが女の子連れて来たぞ」

「へぇ。成長したなぁ、シャド」

「今まで、酒場の姉ちゃんにからかわれていたシャドアルがなぁ……」

「ちょーっとした事ですぐ、鼻血出してたシャドアルがなぁ……」

 最後に「なぁ」と顔を見合わせて、しげしげとカロンの顔を覗き込む海賊達。如何せん、店内が薄暗いものだから、近くに寄らないとよく見えないのだ。

 好き勝手を言う仲間を、シャドアルは力を込めて一蹴した。

「ち、が、うっての! ほら、怖がってるじゃねぇか! またあっちで酒飲んでろよ!」

「はいはい、俺の女に手ぇ出すなって? ごめんなさいねー、世話焼きなオジサン、若い子が気になっちゃったもんでさー」

「もう近付きませんよー」

 口先を尖らせて席へ戻っていく海賊達に、シャドアルは「ったく! どうしようもねぇな」と悪態をつく。

 そんな彼の様子を窺いながら、カロンはちらりとシャドアルの顔を覗き込んだ。

「……なんだ?」

「鼻の粘膜、弱いの?」

「ほっとけ!」

 小さく肩を竦め、それきりカロンは黙った。どうやら、余計なことを訊いてしまったらしい。

 シャドアルはというと、気を取り直すように咳払いをし、誰かを探している。

「……おい、レミオス!」

「ああ、お帰り。どうした、シャドアル」

「キャプテン知らないか?」

 彼が声をかけたのは、カロンやシャドアルよりも年上の、身長の高い青年だった。

 ランプの光に照らされるのは、生真面目な性格をよく表した面差しと、切れ長の黒い瞳。黒い髪を前髪ごと後ろに撫でつけ、うなじでしばっている。首には白いスカーフを巻き、焦げ茶のロングコートを羽織って、海賊というには小綺麗過ぎる身なりをしていた。

(海賊にも、色んな人がいるんだなぁ……)

 全然酔っ払っていない様子のレミオス青年をシャドアルの影から観察しながら、カロンはそんな感想を抱く。

 レミオスの方はというと、カロンには気付かず、親指で店の奥を指し示した。

「キャプテンなら、あちらだ。酔っ払っているだろうがな」

「サンキュ! レミオス!」

 大きな声でお礼を言ったシャドアルを、レミオスは微笑むことなく、むしろどこか咎めるような視線で制した。

 いけね、と言わんばかりに口を抑え、シャドアルはカロンを連れてすごすごと店の奥へと消えて行く。ふと、にわかにレミオスがいた辺りが騒がしくなった。

(なんだろ……?)

 気になって振り返ってみても、暗がりではもう見えない。カロンはただ、小首を傾げるばかりだ。視線で尋ねるようにシャドアルを見上げても、一度目線を合わせただけで、特に答えてはもらえない。まるで、「気にするな」と言っているようだった。

(……気になるんだけどなぁ……)

 後ろ髪を引かれる思いであったが、何やら騒がしい方も、さらに激しさを増したようなので、あまり首を突っ込まない方が良いのかも知れないと割り切ることにした。

 まもなく、カロンはシャドアルに連れられて、がいるという個室の前に到着する。

「キャプテンって、どんな人なの?」

「俺らを纏めている人、船長だな」

 海賊船の、船長。どんな恐ろしい容貌をしているのか、想像するだけで緊張した。しかし考えてみれば、シャドアルも、先ほどのレミオスという青年も、聞いてイメージするような恐ろしい海賊では無い。

(優しい人だといいな……)

 なにか、失礼なことをやらなかったら、きっと大丈夫。カロンは自分に言い聞かせた。

 もっとも、忘れてはならないのは、彼女は悪気なく相手の機嫌を損ねてしまうことがあるということなのだが。髭役人、ハープギーリヒを思い出す。

 あの時は盛大に失敗した。虫の触角のような髭――本人の自慢だったようだが――をしきりに弄り、ふんぞり返る彼のプライドをズタズタにしてしまった。

 ごくん、と固唾を飲むカロンの横で、シャドアルが扉を叩く。

「キャプテン・アーサー、失礼します、シャドアルです」

 ノックをした後に、シャドアルは言葉を正してそう告げる。流石に、自分らのリーダーの前では改まるようだ。

 後ろに控えて、事の成り行きを見守るカロンの耳に、低く、唸るような男の声が扉越しに届いた。

「……坊主か」

「はい」

「……ちっ、まあいい、入んな」

 かったる気な承諾を得ると、シャドアルは「失礼します」と断りを入れ、重い扉を押し開く。

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