小悪魔な私

 こつ、ぽす。

「……フィリア様」

「何?」

「外に出たい気持ちは分かりますが……行動が露骨すぎますよ」

「そんなに……顔に出てた?」

「視線で、嫌でも分かりますよ。ただでさえメイド長は心が読めるのに、そんな態度だったら『私、諦めきれません』って大声で……」

「やっぱりなんだ」

 こつ、こつ。

「……どうしたの?月詠夢。エスコートの仕事、忘れた?」

「少し、詳しく教えてください」

「……多分だけど、あの子、私のこえは聞こえて無いよ」

「そうなんですか?」

「あの子がこころの声を聞くことが出来ること自体は、お兄様が来る前から知ってたの。でも、……セッカは私の事をじっと見て怪訝そうな表情をするだけだったから、そんな気がするってだけ」

「じゃあ、彼女が『を聞く能力』を持っているという確信が無いのに、心の中で愚痴ったということですか?」

「うん、お兄様が来る前に」

「……お嬢様って、変なところで度胸がありますよね」

「お兄様のほうがよっぽどだよ……」

「はは……それは、そう……ですね」


 屋敷内の脱衣所の扉を開け、ロッカーの前まで歩くと、お兄様は朝の時と同じように、慣れた手つきで私の衣服を丁寧に脱がせた。

 衣服に軽く引っ張られる感触を、目を瞑りながらしばらく感じていると、お兄様が話しかけてきた。

「あの……フィリア様。今日は……お風呂の方はどうされますか?」

 少したどたどしく、恥ずかしそうな声だ。

 私の発言は変わらない。

「もちろん、身体を洗って欲しいな」

「……そうですか。分かりました」

 もう、一か月間も同じ回答を繰り返しているというのに、まだお兄様は、羞恥心で顔を伏せている。

 溜息を一つ、彼に当てて、これまた一か月間いっていることを伝えた。

「お兄様。お姉様も言っていたでしょ?私たちは主と従者という立場ではあるけれど、関係は家族同然のものって」

「それはそうですが……家族関係だとしても、僕たちの年齢的に、別々でも問題は……」

「月詠夢。これは命令。私の身体を洗いなさい」

「……こういうところでは、特権を行使するんですね」

「そ。分かればいいんだよ、お兄様」

 肌着の私が手を挙げると、お兄様は、男の子にしては長めの髪を上手く使って視線を隠して、私の肌着を、ゆっくりとたくし上げ……下着姿にした。

 見ないようにしながら赤くなっているお兄様……可愛い……

 もう少し……意地悪しちゃおう。

 垂直に上げた腕を、彼の前に向け、囁くような声で、一言。

「……脱がせないの?」

 ごくたまにするこの攻撃は、お兄様の顔を更に赤くした。

「な……!」

 普段優しい笑顔で固定されたお兄様の顔が、同様で口をぱくぱく閉じたり開いたり……

 可愛い……可愛い!

 優越感と、支配欲求で、全身が震えるのを我慢しながら、

「くす……冗談だよー」

 目を細め、挑発的にからかって、私は自分で下着を脱いだ。

「フィリア様……僕以外にそういうことはしないでくださいね……」

 お兄様は頭を抱えて溜息をつきながら、私に忠告した。

 まったく……こんな瘦せた身体のどこがいいのだか。

 前よりはご飯を食べて、軽い運動でも筋肉痛にならない程度の肉付きになったとはいえ、空さんのようなプロポーションは持っていないのに。

 まぁ、こんな私なんかで動揺しいてくれるのなら、嬉しいことこの上ないが。

「分かってる。じゃあ、身体を洗うタイミングになったら、伝えるね」

「長湯は気を付けてくださいね。のぼせちゃいますから」

 密かな彼の優しさを背に、私は浴室へと向かった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る