第14話 晴れた空には、ガーデニングを。

 図書館の扉を開け、廊下を歩いている最中……

「……あ、コールが入った」

 先に歩いていた私に追い抜き、先導していたお兄様が立ち止まった。

「コール?私はしてないけど……」

 お兄様が首に掛けている翡翠ひすい色のネックレスは、魔力に反応する透明な宝石で作られており、微小な熱と、刻印された魔力によってその色を変えるものとなっている。

 回り込んで色を確認してみると……

「まぁ……お姉様だよね……」

 宝石は、淡い紫色に光っていた。

「珍しいですね。ルッカ様が僕を呼ぶなんて」

 実際、夜のタイミングならともかく、お昼時にお兄様を呼ぶなんて滅多に無いのに。

 せっかく一緒に外に出ることが出来ると思ったのに、どうしてここまでタイミングが悪いのだろうか。

『未来を観測』できると自称するなら、私側の事情も把握はあくしてほしいものだ。

「というわけで、申し訳無いですが一人でガーデニングしてもらってもよろしいですか?フィリア様」

 当然だが、お兄様は執事と言う立場上、屋敷の主たるお姉様会わなければいけない事は理解している。

 だが、少しだけ我儘になりたい。

「……行っちゃうの?」

 上目遣いで、ダメもとで懇願こんがんしてみた。

 空さんが「無理を通したい時に使える武器だ」と教えてくれた方法だが……

「ん……んぅ」

「気持ちは分かりますが……仕事なので、すみません」

 目尻を下げて、優しく撫で返されてしまった。

 ……逆にカウンターを喰らう羽目になってるじゃないか

 こんな悲しくて、優しい顔でそんなことを言われたら、これ以上の引き留めは私の良心を傷つける行為になってしまう。

「……うん、我儘ワガママだった。ごめん」

「いえいえ。むしろそこまで想っていただけて恐縮ですよ」

 私は、彼の進路から右に一歩動いた。

「手短に終わらせますから」

 その行動を確認した後、彼はそう言って廊下の先を歩いていった。

 ……面倒くさいと思われちゃったかな。


 玄関の扉を開け、二段の階段を降りて、右側に七メートルほど歩いた先。

 縦に五歩、横十歩の紫や黄色の花の咲く空間が、現状の私のテリトリーだ。

 いつかは、屋敷の周り全てに花を植えたいな。

 踏みなれた、草のクッションを踏みしめながら、私は庭の近くにある百葉箱を開ける。

 そこには雨量計とノート。そして、魔法陣が刻印された紙が数枚入っていた。

 さて、今日も庭の手入れをしよう。


 意気込んでみたはいいが……そういえば、お兄様と共同作業でガーデニングをしていたので、今日は初めての一人作業だ。

 少し緊張するが、まぁ、やり方自体は頭の中に入っているから大丈夫だろう。

 えっと……昨日の夜は、雨が降っていないようだ。雨量計の中に雨は入っていない。

 ノートを開いて、中に入っている時計を確認し、データを書き込んだ。

 普段は、お兄様がデータを書き込んでいるけど……すごく細かい。

 降水量と、湿度などのデータから、水分量だけじゃなく、入れないといけない肥料の量や配分まで細かく記載されている……

 しかも、ご丁寧に計算書をノートの最初に書いてあるから、二、三分あればすぐに作業に入れそうだ。

 普段はのんびりとしてて、風景をぼーっと見ていたりするのに、私関連の事は物凄く几帳面にやってくれている。

 ちょっとくらい公私の公にも、隙を見てみたいものだと思ったけど……そういえば、泣かされるレベルの事はたまに見せてたな……

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