即時鎮圧 ※ブレット王子視点

 父上が居る王座の前まで迫っていたアルフレッド兄さんの軍勢を前にして、僕は武器を構えて状況を観察する。


 敵の数はそこそこ多いが、練度はそれほど高くなさそう。装備も貧弱。おそらく、反逆の準備をする時間が足りなかったのだろう。


 仲間の数はこちらのほうが少なく、ダンジョン探索帰りで疲労している。だけど、負けるつもりは一切ない。


「お前たち、止まれっ!」


 俺は大声で叫んで、暴れている者たちに命令した。すると、彼らはピタリと動きを止めた。


「お前は、ブレット!」


 軍勢の中に、兄さんの姿を見つけた。向こうも僕を見つけて、叫ぶ。その目は怒りに燃えていた。


「何をしているんですか、兄さん」

「お前たちのせいで! 俺は!」


 僕の疑問には答えず、兄さんは激怒して僕を睨みつけてくる。こうなったのが僕の責任であるかのように。


「そいつらは、痛めつけてから捕らえろ」


 兄さんが部下たちに命令を下す。


「……はっ!」


 命令された者たちは、ためらいながらも従う。無理やり付き合わされているようだ。拒否することはできないのだろう。


「無駄です」


 僕は、そう告げた。


「なっ!?」


 攻撃してくる兵士たちを、一撃で気絶させる。傍らの仲間たちも、当然のように敵を打ち倒していく。お姉さんに至っては、優雅な身のこなしで一瞬で数人の兵士を軽々と仕留めていた。


 僕たちと兄さんの軍勢では、実力が違いすぎるのだ。


「ダンジョンから帰ってきたばかりで、消耗しているはずじゃ!?」


 兄さんが叫ぶ。ちゃんと情報は仕入れていたらしい。そして、計画的に反逆を起こした。僕たちがダンジョン探索しているタイミングを狙って動いたようだ。


 確かに僕たちはダンジョンから帰ってきたばかりで疲れている。でも、こんな相手に苦戦するわけがない。


「この程度を相手にするのなら問題ありません」

「ぐっ!」


 兄さんは歯ぎしりし、さらに顔を歪める。この結果を受け入れられないようだ。


「抵抗を止めろ。今すぐ武器を捨てれば、お前たちの安全は保証する」


 僕は、兄さんの軍勢に告げた。戦うのを止めろと。


「「「……」」」

「だ、だめだ! 保証するなんて嘘だ! オイっ! お前たち、武器を持って応戦しろ! 俺を守れっ!」


 兄さんが必死に叫ぶが、彼の軍勢が次々と武器を捨てていく。少し戦っただけで書けないと理解して、もう戦う気はないようだ。


 良かった。被害は最小限で抑えられたか。彼らも、王国の大事な兵士だから。無駄に消耗したくない。


「何をしている! 俺を守って、あの男を殺せっ!」

「無駄ですよ」


 そう言って、武器を片手に持った僕は兄さんに歩み寄る。彼だけが、まだ戦うつもりでいるらしい。でも、自分で戦おうとしない。他の兵士に丸投げで、なんとかしてくれと願うだけ。


「く、来るなっ!」


 兄さんは握り慣れていない剣を振り回しながら、僕から距離を取ろうとする。そんな彼に、ゆっくりと近づいていく。下手に斬られて怪我するのも馬鹿らしい。注意をしながら。


「あ」

「ぐはっ!?」


 そのとき、兄さんがバランスを崩して転倒した。頭から地面に倒れて、そのまま動かなくなる。気絶したようだ。


「アルフレッド王子を確保した。大至急、陛下たちの安全を確認するぞ。約束通り、アルフレッド王子の軍勢は攻撃するな。他に怪しい者たちが近くに居ないか警戒するように」


 僕は部下たちに指示を出す。


「はいっ!」


 彼らは素早く散開し、周囲の警戒を始めた。


 こうして、暴れていた者たちの制圧は完了した。最後は兄さん自身が転んで気絶するという、あっけない終わり方だったが、被害を最小限に抑えられたことに安堵する。


 僕は気絶した兄さんを見下ろし、小さくため息をついた。


「兄さん……。どうしてこんなことを……」


 理解に苦しむ行動だが、きっと兄さんなりの理由があるのだろう。でも、どんな理由であれ、こんな愚行は許されない。


「ブレット君、陛下がお越しよ」


 お姉さんの声に振り向くと、父が近衛兵に守られながらこちらへ歩いてくるのが見えた。怪我はなく、無事のようだ。


「父上」

「よく助けてくれた、ブレット。見事な働きだ」

「はっ。父上も、無事で何よりです」


 僕は父に一礼する。そして、父上の視線は兄さんの方へ向けられた。


「アルフレッドのことは、私が責任を持って処遇を決める。そなたは王子として、これからも国のために努力してほしい」

「はい、父上」


 兄さんには厳しい判決が下されるだろう。でも、これ以上のことは僕にはどうすることもできない。

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