婚約と反逆の発端 ※ブレット王子視点

 兄の王位継承権が剥奪された。そのせいで色々とゴタゴタがあって、やらなければならないことがたくさんあった。王族としての務めを果たすために、しばらく忙しい日々が続いた。


 でも、ようやく落ち着いてきて、お姉さんとのダンジョン探索に意識を向ける余裕を持てるようになった。




「ブレット君、そっちに敵が」

「えぇ! 任せてください」


 ダンジョン探索は、やっぱり楽しい。いつも通り、僕とお姉さんは息の合った連携でモンスターを倒していく。これで、レベルがアップしていく。成長している実感があった。


「よくやったね、ブレット君!」

「敵を自然に誘導してくれて、上手くできました」

「うん!」


 楽しそうな笑顔のお姉さん。そういえば最近、お姉さんの表情が以前よりも明るくなった気がする。


 アルフレッド兄さんとの婚約が破棄されて、すっきりしたのかもしれない。今日も探索の最中、お姉さんはずっと楽しそうに笑っていた。


 彼女の笑顔を見ていると、僕まで嬉しくなってくる。お姉さんが明るく笑っている姿は、本当に魅力的だった。


 だから僕は、父上から聞いている話を受け入れたいと考えているんだ。お姉さんが、僕の新しい婚約者にするのはどうか、という話。


 兄との婚約が破棄されて、エレドナッハ公爵家は新たな婚約相手を探しているそうだ。そこに父上が提案した。第二王子だった僕でどうか、と。


 幸い、まだ僕は婚約相手が決まっていなかった。候補は何人か居るらしいけれど、正式な相手は居ない。


 そして、お姉さんの婚約相手も居なくなった。けれど、これまで王妃になるための教育を受けてきた。それを放棄するのはもったいない、ということらしい。


 もちろん、お姉さんの意思が一番大事だ。けれど、もしお姉さんが受け入れてくれたら、僕は本当に嬉しい。




「はぁー。お疲れ様、ブレット君」

「ふぅ。お疲れ様です、アデーレ姉さん」


 そんなことを考えながら、今日のダンジョン探索も無事に完了した。


 メンバーに怪我もなく、計画通りに終わることができた。みんなの頑張りのおかげだ。ホッとしながら、僕たちは地上へと戻ってきた。今日は、じっくり休もうかな。


 そんなタイミングで、一人の兵士が僕たちのところへ駆け寄ってきた。何だろう、嫌な予感がする。


「大変です、ブレット様!」


 顔見知りの兵士だ。彼の表情は蒼白で、明らかに動揺している。僕は冷静に対応しなければ。まずは、何が起きたのか把握しないと。


「落ち着いて話してくれ。いったい、何があったんだ?」

「は、はい……。アルフレッド王子が兵士を連れて、陛下のもとへ突撃したとの報告が入りました!」

「なるほど……」


 兄さんが武力行動に出たか。正直、いつかはそうなるかもしれないと予想はしていた。でも、まさかこんなに早く動くとは思ってもみなかった。兄さんは、王位継承権を剥奪されて、すぐに行動を始めていたということ。でも、勝算はあるのか?


 横を見ると、静かに話を聞いていたお姉さんも驚いた様子。


 無理もない。お姉さんだって予想外の出来事に違いない。だけど、驚いてばかりもいられない。僕は今すぐに動いて、この問題に対処しなければ。


 状況を見極め、適切な判断を下さなくては。少しの時間も、もったいないと思った。


「状況は、かなりまずいのか?」

「は、はい。ですが、ブレット様が念の為に待機を命じていた騎士が急いで駆けつけているはずです。ただ、間に合うかどうかは……」

「そうだな。だが、私たちも黙っているわけにはいかない。今すぐ動こう」

「はい!」


 指示を出せば、瞬時に動いてくれる兵士。


「と、いうことになった。ダンジョン探索で疲れているところ悪いがお前たちの力も借りたい。一緒に来てくれるか?」

「もちろんです!」

「問題ありません、すぐに向かいましょう」


 ダンジョン探索に付き合ってくれたメンバーも、疲れているはずなのに快く同意してくれた。本当は今すぐ帰って休みたいだろうに、こんな事態に巻き込んでしまって申し訳ない。でも、緊急事態に彼らの協力は非常に心強い。


「アデーレ姉さんは、急いで自分の屋敷に……。いえ、一緒に来てくれますか?」

「もちろん、一緒に行くわ」

「ありがとうございます。じゃあ、一緒に行きましょう」

「えぇ」


 お姉さんにもすぐに返事をしてもらえた。正直、危険な場所へ連れて行くのは心配になる。でも、お姉さんの実力は十分にある。


 ダンジョン探索でレベルアップしたお姉さんの実力があれば、問題ないはず。むしろ戦力として数えられて、とても助かるだろう。


 そう考えて、僕はお姉さんにも同行してほしいと頼んだ。二つ返事で了承してくれたお姉さんと共に、僕たちは急ぎ足で兄がいる反逆の現場へと向かった。

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