婚約破棄 ※アルフレッド王子視点

「おい、行くぞ」

「はい」


 今夜はアデーレを連れて、とあるパーティーに参加する。大事な発表をするために彼女を呼び出した。


 会場に入ると、多くの貴族たちが参加していた。これはいいぞ。いいタイミングを狙って、今日の目的を果たす。


 適当に挨拶回りを終える。やはり、アデーレは人気のようだ。挨拶した貴族たちは、俺よりも後ろに立っている彼女と話したい様子があった。王子である俺より人気がある。許せない。


 パーティーの中盤。このタイミングがいいだろうと感じた俺は、会場の中央に移動する。後ろにアデーレもついてくる。おそらく、彼女はこれから何が起きるのか予想もしていないだろう。


「みなの者、聞いてくれ!」


 俺の大声に、会場にいた貴族たちの視線が一斉に集まる。十分に視線が集まるのを待ってから、彼らに聞かせてやる。


「俺は、エレドナッハ公爵家のアデーレとの婚約を、ここに破棄することを宣言する!」

「えっ……?」

「なんだと!?」

「破棄?」

「急にどうして……?」


 アデーレの驚きの声に続いて、会場からは戸惑いの声が上がる。俺は、それを眺めていた。良い反応だ。ここまで計画通り。


「理由は、この女が俺の弟、ブレット王子と不適切な関係にあるからだ!」

「は? ち、ちょっと待ってください! そんなことは……!」


 アデーレが慌てて否定の声を上げるが、俺は容赦しない。貴族たちに聞かせてやる。これを聞いて、判断するだろう。誰が悪いのか。そして、評判は落ちる。


「お前はブレット王子と頻繁に二人きりでダンジョンに潜っているそうだな。婚約者である俺がいるにも関わらず、弟と密会しているとは言語道断だ!」

「違います! 私たちは、ただ強くなるためにダンジョンを攻略していただけで……!」

「ダンジョン攻略とは、いい言い訳だ。あんな場所、普通の人間は儀式以外で近づいたりしない! だから、都合が良かったのだろう。誰にも見られないと思っていたのだろう! 二人きりで、誰にも見られずに、好き放題できると考えていたのだろう。だが、目撃証言は多数ある。言い逃れなどできないぞ!」


 俺の言葉に、会場からはどよめきが起こる。周囲の貴族たちは、アデーレのことを疑うような目で見ているはずだ。続けて俺は、アデーレに関する評判を下げるような情報を出す。


「ダンジョンに立ち入るのを禁止したとき、お前は不満そうな表情を浮かべたな! その後、ダンジョン禁止命令を解いたらすぐブレットに会いに行きやがって!」

「ですか、それは」


 ブレット王子と会うために。禁止を解いてすぐ会いに行った。そして2人はダンジョンへ。それが事実。アデーレは必死に訴えようとするが、俺は冷たい目で彼女を見下ろす。


「もういい。お前の言葉を聞く耳は持たん。婚約は破棄だ!」

「……わかりました。婚約破棄を受け入れます」


 アデーレが顔を伏せて、そう答えた。もう少し抵抗するかと思ったが、受け入れたのか。面倒が少なくてよかった。


「では。さらばだ、アデーレ」

「……」


 そう言い捨てると、俺はくるりと踵を返し、颯爽とパーティー会場を後にした。


 婚約者でありながら、俺よりも人気を集めるような女など、必要ない。今日の目的は果たした。成功だ。


 俺の唇には、満足げな笑みが浮かんでいた。アデーレもブレットも、俺にとってはただの邪魔者に過ぎない。王となる俺の前途を阻む者は、排除してしまえばいい。


 もっと従順な女を見つけよう。俺の言うことを何でも聞く、理想の妃をな。


 そんな想いを胸に、俺は己の輝ける未来に向かって、意気揚々と歩みを進めるのだった。

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