最終話 私のこれから
「
「ごめんなさい」
季節は変わって冬になり、私は強一くんからの喝とプレゼントもあってようやく学校に来れるようになった。
だけど学校に来てみればこういうことが増えた。
私と強一くんの仲がいいのは周知の事実で、その強一くんが居なくなって私が落ち込んでいることにつけ込んで恋人になろうということらしい。
ちなみに強一くんは転校したことになっていて、真実を知るのは私を含めて極小数の人だ。
生徒の中では私だけである。
まあそうでなければこんな最低な行為はできないだろうけど。
「せめてお友達からでも」
「ごめんなさい。私は誰かと付き合う気はないから」
私はそう言ってこの場を立ち去る。
強一くんには怒られるかもだけど、私は強一くん以外の人と付き合うつもりはない。
「これを続けてたら怒りに来てくれないかな……」
正直、強一くんのことを夢に見ない日はない。
毎日強一くんの夢を見て、毎日枕が濡れている。
夢には出てきてくれるけど、いつも話してはくれない。
「強一くんを待たないで、私が追いかける方が……」
それこそ強一くんに怒られるけど、考えないわけがない。
だからこうして学校に来れるようになってからは毎日屋上に上がってしまう。
「友達不幸少女。今日も自殺志願か?」
私が屋上に上がると、
なんとなくわかる。
強一くんが私の追いかけを防ぐ為に頼んだのだと。
「気持ちはわかるなんて言えないけどさ、お前が死んで
そんなのわかっている。
だけど私には強一くんしかなかった。
その強一くんが居ない世界になんて生きてる理由がない。
「だけどこうして学校に来てるってことは、伊南はお前に何か残したんだな」
「そうですね。ほんとに強一くんはずるいです」
強一くんが居なくなってすぐは本気で追いかけることを考えていた。
だけどそれは
弥枝佳さんに「あなたが強一を追いかけて死んでしまったら、あなたと出会えて最期まで嬉しい気持ちだった強一が悲しむことになるからやめて……」と涙を流しながら抱きしめられた。
そんなことを言われたら踏みとどまるしかなかった。
でも時間が経てば経つほど、夢で強一くんの楽しそうな顔を見れば見るほど、私は強一くんに会いたくて仕方なかった。
「私もこうして屋上に来てますけど、別に飛び降りたいとか思ってるわけではないですよ」
「少しはあるだろ」
「当たり前じゃないですか。だけどそれもできなくされちゃったので、私は強一くんとの物理的距離を近づけたいんですよ」
善人は死んだら天国に行く。
強一くんほどの善人はそういないから確実に強一くんは天国に行っている。
つまりは空の上。
だから私は屋上に来て、強一くんとの物理的距離を縮めているのだ。
「メンヘラかよ」
「そうですよ。私は結構重い女なんです。そんな私を強一くんは好きになってくれたんですよ」
そんな強一くんを愛するのは悪いことなのか。
たとえ私以外の人が悪いと言っても、私はこの行為をやめることは絶対にない。
「私は絶対に強一くんを好きになったことは後悔しません」
「そうか。伊南の両親とは仲良くできてるのか?」
「そうですね。
私は今、強一くんのおうちで暮らしている。
私の父親で、強一くんに怪我を負わせたあの男は逮捕された。
強一くんのお葬式をどこかで嗅ぎつけてきたようで、入り込んで来たのだ。
もしもの時の為に警察を呼んでおいたおかげで強一くんのお葬式が邪魔されることなく最後の懸念が排除された。
「だけどやっぱり強一くんが居てくれた方がって思っちゃいます」
「そればっかりは仕方ないだろ。私だって立ち直るのに時間がかかったから」
柳先生が屋上の扉に背中を預けて少し寂しそうに言う。
なんとなくだけど、強一くんの話ではないと思う。
「立ち直る方法ってあるんですか?」
「一番簡単なのは忘れることだけど、私もお前も無理だろ?」
「はい」
強一くんを忘れるなんて絶対にできない。
もしもそれでしか私が立ち直ることができないのなら、私は一生このままでいい。
私の終わりが来るまでずっと。
「だから忘れる必要なんて無い。つまり立ち直ることなんてできない」
「でも柳先生は立ち直ったって」
「今のお前だってそうだろ? 結局最後は理不尽にも残してった奴に喝を入れられるんだよ」
「それって結局強一くんのことは一生引きづって生きるってことですよね?」
「なんだ、木井はほんとは伊南のことを忘れたいのか」
「柳先生って言い回しがめんどくさいですね」
「多分伊南にも思われてただろうな」
結局のところ、私みたいに残された側の人が完全に立ち直るには忘れる以外に方法がない。
だって思い出したら悲しくなるんだから。
だけど忘れるなんてできないから、困っていたけど、私は今こうして学校に来れている。
「今の状態で立ち直れてるって言っていいんですね」
「そうだろ。私だって今でも落ち込む時はある。そういう時は喝を入れてもらうことにしてる」
「……柳先生は考えたことないんですか?」
「あるに決まってるだろ。だけど追いかけたって同じ場所に行けるわけでもないし、それにもしも会えたとしても本気で怒られるか悲しませるだけだろ? まあこれは『喝』の中で言われたことなんだけど」
柳先生が言っているのが誰かはわからないけど、私も強一くんから似たようなことを言われた。
本当に残す側はみんな残酷なことをする。
「柳先生」
「なんだ?」
「一緒に不満叫びません?」
「それもいいかもな。勝手に死んだくせに勝手なこと言って私達を困らせてんだから不満の一つや二つぐらいは言ってやらないとな」
柳先生はそう言って私の隣にやって来る。
「じゃあせーので言いましょうか」
「お互いバラバラだろ?」
「どうせ最初は同じなんですから」
「それもそうか」
「じゃあせーの──」
「「勝手に居なくなってんじゃねぇぇぇぇ」」
そうして私と柳先生は自分の想い人への不平不満を叫び続けた。
言い終わる頃には他の先生がやって来て怒られたけど、私はなんだかスッキリした気分だった。
強一くんのことは忘れないで一生心に残しておく。
たまに泣いちゃったり、屋上へ別の理由でやって来てしまうかもしれないけど、その時は強一くんの言葉を思い出す。
その日の夜も強一くんが夢に出てきた。
いつも通り笑顔でこっちを見てくるだけかと思ったら、強一くんの口元が動いた。
『ありがとう』
そう言った気がした。
朝起きると私は泣いていて、枕元にある強一くんからの最期の手紙を手に取った。
『木井さんへ
この手紙を読んでいるということは、俺は木井さんの隣には居ないんですね。
なんて、よくある始まりで書いてみました。
木井さんは優しいですから、俺が居なくなって塞ぎ込んでいるんでしょうね。
それとも既に忘れてこの手紙すら読まれてないことも……なんて心配はしてないです。
むしろ読んでない方がいいんでしょうし。
木井さん、俺を忘れてなんて言いませんし、勝手なことを言えば覚えてて欲しいです。
ですけど、俺にこだわる必要はないんですからね?
木井さんの人生なので、木井さんがしたいように、木井さんが思うように生きてください。
いいですか? 生きるんですからね?
もしも俺と運命の再会なんてしたら本気で怒りますし、俺は悲しくなります。
こんな手紙を書いてますけど、俺は木井さんと離れたくありません。
できることなら元気になって、木井さんとあんなことやこんなことやそんなことやどんなことでもしてみたいです。
木井さんはむっつりなので変な妄想をしたでしょうけど、普通に出かけたりですからね?
とにかく、木井さんは俺の分まで長生きをして、ちゃんと寿命でこっちに来てください。
それで色んな話を聞かせてください。
あ、心配しなくても、俺は木井さんがおばあちゃんの姿でも好きですから。
まあ木井さんが望むようなことはできないでしょうけど、俺はいくらでも待ちますから。
これはやばいですね、書きたいことが多すぎて終わりません。
とりあえず木井さんの夢には毎日登場する予定なので話す機会もあるでしょう。
ということでそろそろまとめに。
木井さん、俺に話しかけてくれてありがとうございました。
木井さんが話しかけてくれなかったら、俺は友達いなかったでしょうね。
なので、俺と友達になってくれてありがとうございました。
木井さんが友達になってくれたおかげで俺の人生は報われました。
時間にすると二ヶ月ぐらいしか一緒に居なかったですけど、その二ヶ月は俺にとってかけがえのない、本当に充実した二ヶ月でした。
結局最後まで敬語ですみません。
やっぱり恥ずかしくて。
木井さんを意識すればするほど何も変えられなくなって、少ししか木井さんとタメ口で話せませんでした。
だけど、そんな俺を好きって言ってくれてありがとうございます。
俺も木井さんのことが生涯ブレることなく好きだと断言します。
■■■■■■
書き間違えました。
ほんとに終わらせます。
花火大会で俺の一番の思い出の話をしましたけど、俺にとっての一番の思い出は木井さんと出会ったことです。
それだけは絶対に変わらない一番。
ずっと大好きですよ、
死んでもあなたを好きでい続ける伊南 強一より』
私はその手紙を読んでいる間はクスッとできるけど、結局最後は泣いてしまう。
塗りつぶされたところになんて書かれていたのかはわからないけど、多分書いたら私を不安にさせることなんだと思う。
「最後は『好き』じゃなくて『愛してる』が良かったな」
多分そこにも恥ずかしさが出たんだろうけど、毎回思う。
私は無理やり笑顔を作って手紙を一緒に入っていたおもちゃの指輪の隣に置く。
その反対側には私がくじ引きで貰ったおもちゃの指輪が置いてある。
私はこれから何回これらを見て泣くことになるのか。
ここら辺の愚痴も強一くんに会ったら全部聞かせてやる。
絶対に許してあげない。
「待ってろよ、私が寿命で強一くんのところに行くまでに聞き飽きるぐらいの愚痴を溜め込んでやるからな」
私は天井に人差し指を向けて宣言する。
これで私はスイッチを切り替える。
涙を袖で拭って少し暗いけど、元気な木井 夢奈として一日を始める。
いつかまた強一くんと出会えるその日の為に。
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