第24話 鞭打ち

Side:クラッド


 鞭打ちは朝早く行われる。

 その場に行って俺は大体のあらすじを知った。

 ドジを踏む前にやった仕事の獲物が最前列で見物してたのだ。

 復讐なのだろうな。

 身から出た錆とはいえ、やりきれない。


「空気、電光、俊足、金貨36枚を盗った罪で鞭打ち300回とする」


 何だって。

 300回も打たれたら確かに死ぬ。

 酒場での噂は嘘じゃなかった。


 金貨の入った袋を見て悟った。

 あの袋は悪徳守備兵に俺が渡したものだ。


 こうなったら、俺が名乗り出ても仕方ない。

 相手は俺を殺しに掛かっている。

 きっとアジトにも手が回っているはずだ。

 おそらく帰ったら守備兵がいるに違いない。


 3人の死を見届けてからどうするか考えよう。

 本当は今すぐ逃げた方がいいのだろうが。

 だが、きっと門番にも情報が回っている。


 なんて残酷なんだ。

 そこまですることはないだろう。


 鞭打ちが始まった。


「ぐがっ」

「があっ」

「ぐっ」


 3人の悲鳴に耳を塞ぎたいが、記憶に焼き付けるんだと必死に手を押さえた。


「ひぐっ」

「あぐ」

「がはぁ」


 やがて、ひとり、またひとりと悲鳴が聞こえなくなった。

 頼む気絶でいてくれ。


 そして、永遠とも呼べる時間が終わった。


「3人とも死んでます」


 3人の脈を確認した守備兵のその声を聞いて呆然とした。


「泣いているね」


 子供がそばに来てそう言った。


「悪いか?」

「知り合い?」

「ああ」


 もうどうにでもなれと思った。

 俺が元締めだとばれても構うものか。


「生き返らせてあげようか」

「坊主なんて?」


 おいおい、夢物語か狂人か。

 だが、その目に狂気の色はない。

 俺のいかつい顔を見てからかったり、冗談を言うのは考えられない。


「生き返らせてあげるよ。金貨36枚は盛り過ぎだ。何か裏があるんだよね」

「まあな」


 賢い子供だ。

 裏があるなんて言葉が出る歳だとも思えない。

 この一言だけでただ者じゃない。

 本当に生き返らせるかもな。


 子供は守備兵に言って死体を引き取ってきた。

 そして、言葉通り復活させた。


「空気、電光、俊足ぅ。お前ら、生き返って良かったな」

「へい、元締め」

「元締めが泣いているぜ」

「そんなに簡単に泣くもんじゃないですぜ」


「これは汗だ。生き返らせるために苦労した汗だ」

「へいへい」

「そういうことにしときますぜ」

「少しは嬉しいですけど」


 この目で見て、話すまで信じられなかった。


「もしかして、お前が魔王か?」

「まあね。自分からは名乗ってないけど、そう呼ばれている」


 やっぱりな。

 こんなことができるのは魔王しかない。

 こいつはそのうちに本当の魔王になるんだろうな。


「お前ら、俺は足を洗う」

「へい。俺もそうしやす」

「元締めがそう言うなら、俺も」

「異存はありません。もう死ぬのはこりごりです」


「じゃあ、恨みとかもろもろを忘れて貰うよ。生き返ったんだから、そういうのもありでしょ」

「俺達に何をさせたい?」

「ゆくゆくはスラムの改善かな。その取っ掛かり。焦ってないから、のんびりやると良いよ」


「犬になれって言うんだな。俺達は狼なんかじゃない。野良犬だから、飼い犬になるのは別に良い」

「まずは鉄を売って、その金でハグレ者を従えることかな」

「鉄はどうやるんだ」

「呪符があるから」


 アジトや隠れ家を全部放棄して、鉄を呪符で召喚して暮らすことになった。

 その他の仕事は物取りを取り締まること。

 取り締まった奴は改心するという奴は傘下に入れて食わせる。

 でないのは守備兵に突き出す。

 嘘判別の呪符があるから嘘は通じない。

 それと拘束の呪符があるから、大抵は現場から逃げられない。


 傘下は徐々に増えていく。

 鉄召喚の呪符に必要な魔力がどんどん増えていく。

 近場にある鉄が少なくなったらしい。

 早晩行き詰ると思ったら、魔王が呪符作成の魔道具を持ってきた。


 灯りの呪符を作るらしい。


「魔王」

「何だよ、元締め」


「攻撃用の呪符は作らせてもらえないのか」

「拘束なら正当防衛とか仕組んであるから、作らせてあげても良いけど」


「攻撃にも仕込めよ」

「言っておくけど、悪人には使えないから」


「俺達が横流ししたり、自分達で使うって考えたのか」

「まあね」


「灯りの呪符の横流しは気にならないんですかい」

「そっちはね。食っていけて犯罪をしないのなら、横流しは目をつぶる」


「やらないさ。悪事が好きな奴はほとんどいない。食っていければ平和が一番」

「なら良いけど」


 魔王に逆らおうなんて気持ちはこれっぽっちもない。

 こいつは、俺達が悪党になったら躊躇なく殺す。

 生き返らせた時になんの感慨も持たなかったようだからな。


 鎌鼬のマイラとつるんでいる時点でお察しだ。

 あんな化け物と付き合える奴は同じ化け物だけだ。

 奴が貧民の味方で良かったぜ。

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