第22話 物取りの日々

Side:クラッド


 俺はクラッド、物取りの元締めだ。

 元締めと言っても手下は3人しかいない。

 まだ俺が22歳と若いからだ。


 手下の電光、空気、俊足と共に獲物を物色する。

 まず、貴族は駄目だ。

 報復が恐ろしい。


 狙い目は裕福な商人の妻か娘。

 だが、裕福過ぎるのも駄目だ。

 貴族に結びついているような商人だと万が一がある。

 欲張る奴は長生きしない。

 鉄則だ。


 さて、道を行く奴で良さそうな奴は。

 お供が1人の奴が良いのだが。


 なかなか良い得物が掛からない。

 獲物を探すのに俺達はゲーム盤を用意して道の端でやっている。


 かなり不自然だが、仕方ない。

 男3人がキョロキョロしてたら、物取りだと叫んでいるようなものだ。

 ゲームなら、相手の手番の時に何気なく辺りを見回したって不思議じゃない。


 場所も定期的に変える。

 あまり長い時間、同じ場所にいるのは上手くない。


 いた。

 やっと良い獲物を見つけた。

 獲物は良い仕立ての服で、お供は使用人か、自分の店の店員だろう。


 空気が後をつける。

 こいつは空気みたいな奴で、周りに溶け込む。

 まず尾行に気づかれることはない。


 遅れて俺達も後をつける。

 獲物が店に入った。

 店の中に俺達も入った。


 電光が獲物に近づく。

 電光は物凄い速さでひったくる。

 今まで盗れなかったことがない。


 獲物は商品の物色に夢中だ。

 電光が手提げ袋をひったくった。

 そして、手提げ袋を俊足に投げる。


 俊足はとにかく足が速い。

 あっという間に店内を出て見えなくなった。

 手下も別の方向に逃げ出す。

 お供の奴は俊足を追いかけ始めたのをみて、俺はゆっくりと店内から出た。


 集合場所は決めてある。

 その場所に急ぐ。

 誰もいないのを確認してから集合場所のボロ家に入る。

 ボロ家があるのはスラムだ。

 ここまで追って来るような度胸のある奴は滅多にいない。


「どうだった?」

「ばっちりですぜ。金貨3枚と少し、それと化粧品」

「化粧品はスラムの商人に流せ」

「へい」


 金を分配。

 美味い物でも食うか。

 スラムを出て、繁華街の酒場に向かう。

 情報収集も兼ねている。


「エール」

「はいよ」


 場末の酒場で、エールを注文する。

 そして声に注意を向ける。


「浮浪児達が呪符の商売を始めたって」

「ほう」


「まとめているのは魔王らしい。鎌鼬のマイラも噛んでいるらしいぜ」

「鎌鼬と魔王が手を握って、浮浪児達を掌握したか。勢力図が変わるな」


「おう、浮浪児をやるときは気をつけないと」

「呪符の稼ぎがあるなら、物取りはしないんじゃないかな」


「そうだな。被害は減っている」

「露店をやっている俺達としては歓迎する事態だな」


「良いお客さんになりつつある。ただ、前に盗んだ奴が来ると売りたくないな」

「邪険にすると魔王が出てくるのかな」


「魔王の実力は分からないが、呪符の性能から察するに相当の手練れだ」

「物騒だな」


 魔王か。

 関係なさそうだが、浮浪児を仲間に迎える時は筋を通さないといけないかも知れない。

 俺達は4人しかいないからな。

 浮浪児全員を敵に回せない。

 別のテーブルの話題はと。


「スラムの炊き出しで暴動が起こったらしいぜ」

「馬鹿な奴らだ。施してくれている人に危害を加えてどうするんだ。犬だって餌をくれる人には噛みつかないと言うからな」


「恩知らずじゃなきゃスラムの住人なんかやってないさ」

「それもそうか」


 スラムの暴動ね。

 知ってるよ。

 銅貨にメッキした偽金貨がばら撒かれた奴だろ。

 偽金貨は何枚か手に入れた。

 好事家に売ってちょっとした金になった。


「物取りが横行しているらしいな」

「王都じゃよくある光景だろ」


「浮浪児が大人しいってのにな」

「取り締まったって別の奴が出てくる。無駄だよ」


「スラムを解体すりゃいいんだ。何でしないんだろうな」

「スラムの奴ら全員が暴動を起こすからだろ」


「誰か犯罪者を一掃してくれないかねぇ」

「だな」


 この物取りは俺達ではないな。

 俺達は仕事したら、金がなくなるまで次の仕事はしない。

 大きい組織に睨まれないためでもある。


「はいよ。料理は?」


 エールがきた。


「ソーセージ盛り合わせ」


 エールを飲んで考える。

 守備兵が物取りを大々的に取り締まるかも知れないな。

 そうなったら、しばらく物取りは廃業だ。

 気をつけないと。


「相席いいか」


 俺のテーブルに男が来た。


「まだテーブルは空いているだろ。そっちにいけよ」

「話がしたかったんだが。魔王について何か知らないか」


 むっ、こいつは間諜の匂いがする。


「知らないよ。別のテーブルで聞くんだな」


 男は別のテーブルで話を聞いて回った。

 魔王に近づくのは危険だな。

 間諜が出てくるとはな。

 ソーセージが来たので、普通に酒を飲む。


 めぼしい話はない。

 アジトに入ると、手下の3人がいた。


「見張られていたりしないよな」

「もちろんですぜ」


 用心深くしないとな。

 物取りは恨みを買いやすい。


 金持ちは金が余っているんだから、分けてくれよと思う。

 罪悪感などはない。

 それどころか、爽快感すらある。

 痛快だぜと叫びだしたいほどだ。

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