第12話 救いの始まり

Side:フロー

 浮浪児のたまり場は何も無い雑草だらけの空き地だった。

 この場所は復活させた浮浪児に聞いた。

 何をするではなく、浮浪児が互いを監視している。

 まるで猫の集会だな。


「銅貨1枚で呪符10枚を買わないか。他の人に売りつけるのに、いくらで売ろうが構わない」


 俺は浮浪児ひとりに声を掛けた。。


「そんな物買わない」


 そう言われて逃げられた。

 信用ゼロだからな。

 こういう反応も仕方ない。

 切っ掛けがないとどうにもならない。


 何人も声を掛けたが駄目だった。


 あの助けたガリにも金がないからと断られた。

 そうだな。

 金を持っていたら、ありったけ食い物を買う。

 それぐらい浮浪児は栄養が足りてない。


「あんた、浮浪児を騙して金を取るつもりなの」


 マイラにそう言われた。


「これは本物の呪符だよ」

「嘘ね。こんなに安いわけない」


 マイラ、頭が良過ぎだろう。

 推定5歳児の思考じゃないぞ。

 取引相手としては頭が良い方がましか。


「フローに助けられた僕は信じる。お金はないけど。お願い、誰か信じてあげて」


 ガリが言った。


「1枚使うから見とけ」

「いいえ私が使うわ。仲間を助けてくれたお礼よ」


 マイラは呪符の束から1枚抜き出して使った。

 炎が灯る。


「ほら、本物だろう」

「全部買うわ」

「盗んだ金か?」

「駄目だと言うつもり」

「いいや、清濁併せ呑む気持ちがないとこういうのは駄目だろうな」


 マイラに全部売って、マイラの後をついていくと、マイラは呪符を浮浪児にただで配り始めた。

 浮浪児は思い思いの方向に駆け出す。


 そしてしばらく経って、浮浪児は食料をたくさん抱えて戻ってきた。

 売りつけるのに成功したようだな。


「あんたのこと仲間として認めてあげる」

「それはありがと」

「いい、みんな! この子は浮浪児仲間だから、裏切ったりしないこと」

「おう」


 ガリが俺が復活してやった浮浪児と再会して喜んでいる。


「コインはげに、鈍足、赤ら顔、眠そう、お前ら、死んだんじゃ」

「フローに生き返らせてもらった」

「同じく」

「もっと早く知らせたかったけど、なかなか体が良くならなくて」

「死んでたからな」


「良いんだよ。生きてくれているだけで十分だ」


 ガリが浮浪児達と抱き合って喜んでる。

 コインはげに、鈍足、赤ら顔、眠そうは俺が生き返らせたのは、良い実験になったよ。

 だけど、喜び合っている姿を見ると、良いことした気分だ。


「太っちょは?」

「モンスターを倒して死にたいと出て行った」


「おーい!」


 遠くで浮浪児が手を振っている。


「あれは太っちょじゃないか」


 浮浪児ひとりが駆け寄ってきた。


「親切な冒険者に拾われて、生き残れた。みんなが生きている。こ、こ、これは、ゆ、夢じゃないのか」


 太っちょと呼ばれた浮浪児が頬を抓る。


「痛い」

「生き返ったんだよ。詳しくは口止めされているけど」


 生き返らせた浮浪児達は将来の夢を語り合っている。

 生き返りは禁忌に踏み込んだ気がするが、バットエンドをひとつ覆せた。

 彼らの将来の夢が叶うような世界にしたい。

 プログラム魔法なら出来るはずだ。


 他はと見ると、浮浪児が感謝の言葉を口にしている。


「魔王、万歳!」

「魔王?」

「魔法の王だ。君みたいな存在を言う。ただしSSSランクのモンスターを単独で倒さないと、正式な物ではないけどね」


 アノードが魔王について教えてくれた。

 へぇ魔法の王か。

 興味をそそられた。


「呪符ありがとう。飢え死にしないで済む」

「こんなに食べられるのはいつぶりか分からない」

「ぐすん、あいつにも食べさせたかった」

「この食事を俺は一生忘れないぞ」

「食え。とにかく売るのに失敗した奴も食え。分けてやるよ」

「ああ、盗んだ物じゃない食べ物は美味しい」

「そうだな。同じ品なのに」

「また、呪符を売ってくれるの?」


「それなんだが値上げしないといけない。材料費は稼がないといけないからな」

「そんな」

「やっぱりな。最初のが安すぎた」

「上手い話はないってことか」

「期待して損したぜ」


「次からは呪符1枚で銅貨1枚だ。これで買わない奴は構わない」


 買うという奴と、買わないという奴に別れた。

 だが、儲けを手放すのは馬鹿だから、しばらくしたら全員が俺から買うことになった。

 この王都の街で浮浪児は餓死しなくなったようだ。

 マイラもそう言っていた。


 街の人も呪符なら買う。

 どうやって浮浪児が信用させたか聞いてみたら、残飯を分けてくれる店があるらしい。

 そこで最初は売ったと言っていた。

 それが店員から店の客にと広がった。

 とにかく、浮浪児が生きていけて何よりだ。


 俺は魔法の王、魔王を目指す。

 プログラム魔法を極めるんだ。

 SSSランクモンスターがどれほど恐ろしいか分からない。

 でも浮浪児全員を救えるのならやる価値がある。

 魔法になって浮浪児を国民にする。


 俺はまだ卵の殻が付いたひよこの魔王だ。

 だが、行動すれば夢に近づく。

 叶うか分からないが、努力すればした分だけ、小さな距離でも近づくんだ。

 止まらない限り夢に近づく、俺が浮浪児に言った言葉だ。

 止まらない限り夢に近づくを座右の銘にしようと思う。


Side:ガリ


 みんなが生きていた。

 うれし涙で前が見えない。

 みんなが嬉しそうに将来の夢を語る。

 僕にはそれがないのに気づいた。


 そうだ。

 話を聞く人になろう。

 話を聞いて、困りごととかあったら、色々な人に伝えて、解決するんだ。

 何人もの知恵を集めれば大抵のことは可能だ。

 よし、相談役になろう。

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