第11話 浮浪児全員を助けたい

Side:フロー

 アノードと一緒に市場に買い出しに行く。

 路地の奥に倒れている浮浪児を見つけた。

 アノードが駆け寄り、脈を取るが首を横に振る。

 まただな。

 復活させてやると、ぎこちないながらも歩いて去って行った。


 俺は運が良かったんだな。


 あの姿は俺の姿だったかも知れない。


「アノード」

「言いたいことは分かる。浮浪児全員を助けたいって言うんだろう。私はね、施しはしない。なぜかというと悲しいことに人間は施されているとそれが当たり前になってくると、感謝の気持ちが薄れていくのだ。そういう人間を私は見て来た」

「そう」


 うん、アノードのいうことも一理ある。

 全員がそうではないけど、そういう人間もいる。


「感謝の気持ちがある人間だけを助けるのは不平等だ。摩擦となって憎しみを生む」

「かも知れないね」

「だから、施しはしない」


 しばらく歩いていると、死体を積んだ荷馬車を止めて、死体に祈りを捧げている幼女がいた。

 そして、集まってきて祈りを捧げている浮浪児に、背負いからパンを取り出して与えた。

 彼女も着ている物から察するに浮浪児だ。

 俺と年齢はさほど変わりない。

 大きくても6歳ほどだろう。


 何なんだろうな。

 彼女を観察する。

 彼女は露店の店主の視線が外れた時を見て、パンを盗んだ。

 店主は盗まれたことに気づかない。

 鮮やか過ぎる手並みだ。


 そうやって生き延びているのだな。

 盗んだパンで浮浪児に施しする浮浪児。

 間違っている。

 アノードも間違っているし、彼女も間違っている。


 もっと間違っているのは信念もなしに施しも何もしない俺だ。

 前世の年齢も含めればかなりいい歳だ。

 なのに何も出来ない。

 呪符で儲けることはできる。

 しかし、施しするだけでは問題は解決しない。


 こういう問題は為政者が考えることだ。

 貴族がいると聞いている。

 王族もだ。

 直訴したら俺の首が飛ぶだろうな。

 アノードにも迷惑が掛かる。

 そんなのは解決方法とは言わない。


 俺は前世の現代知識があるのに、浮浪児を救えないのか。

 モンスターがいるらしいこの世界は孤児が溢れている。

 おそらく今も増え続けているだろう。


 アノードもこういう問題を解決する方法があるなら実行しているだろう。

 恐らく見つかってないんだ。


 圧倒的な力が欲しい。

 こんな問題など笑い飛ばせるぐらいの力が。


「盗みは良くないよ」


 俺はあの幼女に話し掛けた。


「あなたには分からない」

「いや、少し前まで俺も浮浪児だった」

「へぇ、悲惨な境遇から抜け出せて自慢?」

「そうじゃない。ただ安易な方向に行ったらいけない」

「そんなのは腹を空かせていない人の理屈」


「俺はフロー。君は?」

「マイラ」

「見たところ、視線を読むのにたけているようだな」

「まあね」


 マイラは話は済んだとばかりに去って行った。

 ああ、なんて無力なんだ。


 荷車の浮浪児の死体を生き返らせることしかできない。

 全てとは言わないけど、目につく範囲だけでも死を減らしたい。


 別の日、ぐったりしている浮浪児を見つけた。

 腹が減って動けないようだ。

 餓死寸前だな。

 露店で買った具なしスープを飲ませた。


「ありがと、僕はガリって呼ばれている」


 ああ、どこかで聞いたな。

 ありがちなあだ名だから別人かも知れない。


「俺はフロー」

「フローの名前は覚えた。力が戻ってきたよ」


 ガリは手を握ったり開いたりしてから、足の様子を確かめ、去って行った。

 こんなの間違っている。


 ちくしょう。

 プログラマー舐めるなよ。

 プログラムの長所は、圧倒的な処理量だ。

 決まりきった処理なら何万件も一瞬だ。


 物量だ、物量で理不尽をぶっ飛ばす。


extern void spell_print(char *str,int font_size_mm);

void main(void)

{

 int i;

 for(i=0;i<100;i++){


  spell_print("extern void ignition(int size_cm);\nvoid main(void)\n{\n ignition(1);\n}",5);


 }

}


 点火の呪符を作る魔法だ。

 ループは100回にした。

 これで100枚の呪符が一瞬だ。


 毎回、唱えるのは面倒なので、ここは魔道具を使う。

 魔道具は、魔石に呪文を刻み込む。


 【魔石に、以下の呪文を刻み込め。書き込む呪文】というので出来る。

 魔道具は使い捨てではない。

 呪符と同じ魔力効率だけど、魔石は高い。

 価格の面で大きく違う。


 それと呪符は使う時に使用者が魔力を流し込む。

 魔道具は、あらかじめ魔力を溜めておいて使う。

 一長一短がある。


 点火と生水の呪符がたくさんでき上がった。


「アノード、材料費をありがとう」

「いいんだよ。私は君がどう動くか気になる。プログラムで何を成すかね。見物料としては安いぐらいだ」


 赤いインクの材料はモンスターの血だ。

 ありふれた素材らしい。

 どんな弱いモンスターでも構わないらしい。

 ホーンラビットという角の生えたうさぎでも構わないとのこと。

 これの捕獲は柔らかい木の盾を構えて突進した所をわざと角を突き刺させて行うらしい。

 Fランク冒険者の小遣い稼ぎだ。


 赤い紙は、わら半紙みたいな紙を、赤い木の実で染めたもの。

 この木の実もありふれている。


 どちらも安い素材であることに変わりないが、全ての浮浪児が食っていける呪符の材料費はかなり高い物になる。

 だが、俺達と浮浪児が共倒れにならないような策がある。

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