第10話 解毒魔法

Side:フロー

 浮浪児の死体がまた通った。

 酷い匂いだ。

 糞を漏らした痕がある。

 見立てでは食中毒だ。

 違っていたら、他の病気だろう。

 完治魔法は癌でも治るはず。


 こんな死体も買うのかと守備兵に呆れられた。

 色々と試したいんだよ。

 アノードの悲しい顔が嫌だったというのもあるし、こんな障害ごとき打ち破れないで、何が現代知識かと思う。


 死体の真名は『喪羅身飲故地理志もらみいんこちりし』だ。


#include <magic.h>

#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

extern void virus_removal(char *real_name);

extern void cure_completely(char *real_name);

extern void cleanup(char *real_name);

extern void detoxification(char *real_name);

extern void revive(char *real_name);

void main(void)

{

 virus_removal("喪羅身飲故地理志.body"); /*ウイルス除去*/

 cure_completely("喪羅身飲故地理志.body"); /*完治*/

 cleanup("喪羅身飲故地理志.body"); /*浄化*/

 detoxification("喪羅身飲故地理志.body"); /*解毒*/

 system("move C:\\RecycleBinFolder\\喪羅身飲故地理志.soul C:\\Users\\喪羅身飲故地理志"); /*魂を呼び戻す*/

 revive("喪羅身飲故地理志.body"); /*復活*/

}


 浄化魔法で匂いもしない。

 解毒したから、細菌の出した毒も解毒されるはずだ。


「あー、腹減った」

「起きて最初がそれかよ。塩と砂糖で味付けした粥がある。味はいまいちだがな」

「早く、くれ」

「食べながらで良い、名前は?」

「はぐっ、はぐっ、ごっくん。コインはげ」

「痛い所はないか?」

「ふぐふぐ、喉が渇いて仕方ない」

「砂糖と塩と果実で味付けした水がある」

「くちゃくちゃ、くれっ」


「ほら、飲め」

「ごくごく、この水美味いな。ここは天国か」

「死んでたけど生き返らせた」

「ぷはぁ、えっ、死んでたの」


 色々と注意事項を言ってから宿に送った。

 そして、また死体が出た。

 守備兵が気を利かせて報せにきた。

 銀貨1枚がいい小遣い稼ぎだと言っていた。

 世知辛い世の中だ。


 今度の死体の死因はすぐに分かった。

 頭蓋骨が陥没している。

 どんだけの力で殴ったらこうなるのか。

 おそらく鈍器だな。


 真名は『鳥ら手配異化とりらてはいいか』だ。

 眠そうに使った魔法の真名の所だけ書き換えて実行。


「どうだ、分かるか」

「分かる。火花が凄かった」

「殴られた時に見た映像だな。名前は?」

「鈍足」


 宿に送った。

 手慣れた物だ。


 そして、5日後。

 退院させることにした。

 浮浪児が一堂に会す。


「お前」

「お前もか」

「ああ俺もだ」

「太っちょと、ガリがいない」


「もう退院だから、好きにして良いぞ。太っちょとガリというのも死んでたら連れて来い」


Side:コインはげ


 宿で考える。

 食っても腹を壊さない安い食事。

 何かそういうのができるはずだ。

 あんなのはもうごめんだ。


 それには金がいる。

 浮浪児と取引してくれる人は少ない。

 ほとんどいないと言ってもいい。


 手ならある。

 売り物にならない食材を安く買うのだ。

 それには腐ってないか調べる技術が要る。

 フローなら知っているかも。


「調子はどう?」


 フローが様子を見に来た。


「羽が生えているぐらい体が軽い」

「まだ、体重が戻ってないんだな。たっぷり飲めよ。果実水を持ってきてやったから」

「ありがと。毒かどうか調べるにはどうしたら良いと思う」

「魔法で良いと思う。舌で味を調べるイメージで使えば良いんじゃないかな。魔法の舌で舐めて安全かどうか判定して結果を返せ。この呪文で良いと思う」

「うん、しっかり覚えた。スラムで定食屋を開こうと思う」

「頑張れよ」


 よし、もう腐っている物は食べない。


Side:鈍足


 暇だ。

 何が悪かったのかな。

 盗みが悪かったのは分かっている。

 そうする前にやるべきことがあったはずだ。


 俺ができることってなんだろ。

 考えて悲しくなる。

 残飯漁りしかしてなかった。

 あー、駄目だ。

 何も浮かんでこない。

 寝るか。


 次の日。


「調子はどう?」


 フローが来た。

 こいつなら賢そうだ相談に乗ってくれるかも。


「調子はいい。頭が悪い」

「頭が痛いの?」

「違う。盗みをして殴られた。どうしたらそうならないようにできるか考えたけど、頭が悪いから何にも浮かんでこない」

「盗るってのは良くない。奪うのじゃなくて与える人の方が良いと思わないか」

「与える人か。与えられるってことは一杯持っているってことだよな。そしたら確かに盗む必要はない」

「それに与える人は尊敬される」

「褒められたことなんてないや。きっと気分が良いんだろうな。でも作るってどうやれば」

「魔法があるんだから魔法で解決だよ。砂鉄召喚、ベーゴマになれ。この呪文」


 フローが粘土で変な塊を作り出した。

 この形を魔法で作れば良いのか。

 俺にも作れるかな。


 「【砂鉄召喚、ベーゴマになれ】」


 できた。

 そして、フロー紐を持って来ると、ベーゴマを器用に回した。

 床の上で回る、ベーゴマ。

 面白い。

 こんな玩具もあるんだ。


 ベーゴマを回すコツを掴むのは簡単だった。

 頭の悪い俺でも半日でものにした。

 療養中の良い暇つぶしになる。

 ベーゴマは良く回るのと、回らないのがある。

 重心が問題だとフローが言う。

 こんな玩具でも作るのは難しい。


「面白ーい」


 食堂でベーゴマを回していたら、街の子が寄って来た。


「回し方、教えるから。どっちが長く回るか競争だ」

「やるやる」


 ひとしきり街の子と遊んだ。


「ベーゴマをあげるよ」

「ありがとう。こんなのが作れるなんて凄い」


 与えて褒められるのは気分が良い。

 盗みなんかと比べ物にならない。

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