第4話 奇妙な子

Side:アノード

 気になる幼児を拾った。

 出会ったのは露店。

 出会った時に時が止まったような気がした。

 黒い髪に黒い目。

 死んだ弟に似てたからだ。

 すぐに考えを振り払った。

 弟は死んだんだ。

 生き返りはしない。


 露店の店主をやり込め、助けてやった。

 いつもはこんなことはしないのに。


 そして、何日か後。

 あの幼児が物の仕組みを買えと言ってきた。

 物の燃える仕組みを試しに聞いてみる。

 作り事だとしても素晴らしい発想だ。


 こいつを餓死させるには惜しい気がした。

 いいや、弟に似たこいつを死なせるのが嫌だったのかも知れない。

 話を聞きながら、食事を食べさせる。

 話しながら寝落ちした。


 あまりにも頭が良いんで、幼児ということを忘れてた。

 ソファーに寝せたいが、虫がついていると嫌だな。

 ボロボロの服を脱がす。

 お湯で綺麗に拭いてやる。


「可哀想に虫に刺されている。痒かったろうに」


 薬を塗ってやった。

 私はボロボロの服を洗濯しようとして、服ならあるじゃないかと思い直した。

 封印されたタンスの引き出しを開ける。


「ああ、カソードの服だ」


 悲しみが溢れてくる。

 しかしフローにこれを着せた所を思い浮かべたら、悲しみが自然と薄まった。


「カソード、この服を使うけど、良いよね」


 カソードの笑顔が頭に浮かんだ。

 カソードなら着せてあげてと言うに違いない。


 フローに服を着せて、涙ぐむ。

 本当にカソードが生き返ったみたいだ。


 フローが起きたので、火の燃える原理を魔法に応用する。


 【マナ10で燃焼物と酸素を召喚、そして点火、激しく化合せよ】と唱える。

 驚いたことに青い炎が出た。

 フローは魔法を使ったことがないようだ。

 アドバイスして出たフローの炎の色は白だった。

 フローの方が温度が高いらしい。

 真理の理解度の差が出たな。

 驚くほど賢い奴だ。

 常識は知らないが、こういう人間はいる天才だ。

 だが、幼児でこれはないと思う。


 老賢者が魔法で幼児の姿に変えられた。

 そんな印象を持った。


 色々な話をして、またフローが寝落ちした。

 ソファーに運んでやる。

 私もそろそろ寝よう。


 朝起きるとフローが竹で奇妙な道具を作っていた。

 こんな簡単な構造で飛ぶとは。

 原理を聞いてみたが今ひとつ分からない。

 ただ鳥の羽の構造なら、そういう物なのだろうなと思った。


 これを使えば夢だと言われている飛行魔法が完成するのか。

 凄い偉業だな。

 ただ、私の名前で公表はすまい。

 私が考えたわけでもない。

 ただ教わっただけだ。

 盗作じみた発表などなんの価値もない。


 鳥が滑空する原理か。

 こんなことになっているとは。

 フローは弟とは違う。

 生まれ変わりではない。

 はっきり分かって悲しくなった。


 竹とんぼ売りをしているフローを見張る。

 弟と違うということは分かっているが、目が離せない。

 不気味な奴だとは思わない。

 こいつを弟にしてしまおうかとも考える。


「あっ」


 フローが泥棒を追いかけて路地に入った。

 慌てて追いかける。

 追いつくとフローの頭には布の袋が被せられていた。

 そして脇に抱えられている。

 人さらいの男は二人いた。


「その子を放して貰おう。【真空チューブ生成、マナ20で電撃を起こせ】」


 真空を電撃が流れる。

 狙い通りフローを抱えているとは別の男に当たった。

 電撃の魔法のスピードは速い。

 バリっと言ったらもう当たってた。

 フローの真理は凄い。

 どこに落ちるか分からない雷を誘導するとは。

 これだけでも、誘拐される価値がある。

 男達もその知識を狙ったのだろう。


「がはっ」

「やりやがったなこれでも食らえ」


 電撃を浴びてない一人がフローを落とし、ナイフを投げてきた。

 くっ、腹に食らった。

 ナイフを抜いている間に男達はフローを置いて去って行った。


 痺れている仲間を放置できなかったのだろう。

 仲間思いの奴で良かった。

 フローは転生者だった。

 ああ、カソードもどこかに転生しているのだろうか。

 嬉しさで涙が溢れる。

 今すぐに探したいが、手掛かりがない。

 もし転生しているのならカソードは必ずどこかにいる。

 逃げはしない。

 じっくりと探そう。

 まずはフローが知っている真理を全て身に着けてからだ。


 フローの真理を元に呪符を作成する。

 フローが興味を示した。

 なんとフローは人間の半分ほどの大きさの炎を呪符で出した。

 プログラム言語というのを使ったらしい。

 きっとフローの記憶は古代魔法文明の物だろう。

 プログラム言語は教えてもらえなかった。

 危険性を知れば、それもむべなるかな。


 弟にする案は却下だ。

 フローは伝説に残るような人物になる。

 私が兄では役不足も過ぎるというもの。

 きっとフローなら、魔王を倒して魔王の称号を得てしまうのだろうな。


 この世界にはモンスターがいる。

 そして魔物の王という意味での魔王がいる。

 これを討伐した者が魔法の王である魔王を名乗れるのだ。


 フローは魔王になるそんな予感がした。


「フロー、お前どうしたい?」

「この世界で生きる意味を見つけたい。記憶を持って転生したのに何か意味があるはずだ」


「どうだろうな。意味なんてないのかもな」

「偶然だと言うのならそれでもいい。ただその確証を得たい」


「人生は長い。お前がそれを追い求めるなら良いだろう」

「アノードって何歳?」


「20歳だ」

「意外、もっと歳を取っているかと思った」


「爺くさいとは良く言われる。モノクルがいけないのかな」

「かもね」


 さあ、フローの真理の全てを聞き取るのに何年掛かるかな。

 私の人生もまだ長い。

 それにこれは寄り道ではない。

 必要なことだ。


Side:タイト


「いいか、タイト、お前はバリアブル公爵家の庶子で、おまけに次男だ。わきまえろ」

「はい」


 俺はフローだ。

 タイトなんて名前じゃない。


「よし、ここに立て」


 装置の上に立たされた。

 立つ場所は二つあり、もうひとつには少し年上に男の子が立っている。


「本当にやってよろしいのですか。これをするとタイト様はレベルを上げてもほんの少ししか魔力が上がらなくなる」

「様なんか付ける必要はない。タイトの分だけ、ニオブの魔力増加幅が上がるのだろう」

「はい」

「ではやれ」


 装置が起動され、気絶したところ、俺は路地裏に放置された。

 タイトはまず、浮浪児に身ぐるみ剥がされた。

 仕方ないので、ボロボロになって捨てられた衣服を身に着ける。

 運のいい奴だ。


 普通、ぼろ布でも大事に使う。

 街を彷徨う。


 お腹が空いてどうしようもない。

 ここで分かった。

 俺はタイトだ。

 前世の記憶が戻る前の名前はタイトだな。

 レベルを上げても魔力がほとんど上がらないのか。

 バリアブル公爵家と言ったな。

 長男のニオブに才能を盗られた。

 なんてむごいことをするんだ。

 同じ息子だろうに。


 目が覚めた。

 夢だったんだな。

 魔力がほとんど上がらなくても、プログラム魔法の効率は1万倍以上だ。

 これがある限り俺は誰にも負けない。

――――――――――――――――――――――――

 コンテストに参加しているので、読んで面白いと思ったら、☆とフォローをお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る